第299話
焦燥感に支配されそうになったその時、頭を過ったのはこの世界に来た時にレギュラオンから言われた言葉だった。
『こういう時こそ冷静になれ。落ち着いて周囲の状況を観察し、そして次の一手を慎重かつ迅速に導き出せ。今のお前ならそれができるはずだ』
どんな時でも冷静さを失わない。状況によっては冷徹で温かみを感じさせない機械のような人間に映る事だろう。だが今のような状況においては非常に強力な長所に成り得る。
「……。 (ダメだ、落ち着け。落ち着いて考えろ……今の僕ならそれができるとレギュラオン総帥は言ったんだ。ここで彼女の信頼を裏切る訳にはいかない!) 」
「う―――! う―――!」
「……。……! 待てよ? もしかしたら……いや、悩んでいる暇なんてない! 今は僕の來冥力の量を信じるだけだ!」
キュルキオネによる來冥力の吸収攻撃。この攻撃に対する攻略法を予想止まりではあるが見出した司は早速実行に移そうとする。
「そんなに僕の來冥力が欲しいならあげるよ……キュルキオネ!」
司はそう言うと何を血迷ったのか來冥力を0→100にする勢いで急激に解放した。
「!?」
まさかこんな暴挙に出るとはキュルキオネも思っていなかっただろう。そのせいか彼女の表情と目には動揺の色が浮かぶ。
確かに非合理的な行動に出る事でキュルキオネを驚かせる事に成功はしたが、それまでであり腕から離すほどの衝撃を与える事はできなかった。当然司も動揺させる事で隙を作り出すかのような成功率の低い手段に懸けたりはしていないだろう。
彼の取った行動には当然理由がある。
「……! うううう! うううううううううう!」
先ほどは司が異変を感じていたが今度はキュルキオネの番だ。恐らくは今自分の身に何が起きているのか理解できず、頭の中が真っ白になっているに違いない。
「やっぱりね。そうじゃないかと思ったよ!」
司は自分の作戦が上手くいった事を確信した後に彼女の頭を押さえつけ、逆に離さないようにする。
「僕たちは言わば、來冥力の保存容器みたいなものだ。当然その量には限界がある。その限界を超えて膨大な來冥力を無理に吸い取った場合どうなるか……」
「うー! う――――――――――!」
キュルキオネの行動は全て彼女の來冥力が決定付けている。來冥力の暴走とはそういう現象なのだ。そもそも自分の意思で理性的に動けるのであればそれは暴走とは言い難いだろう。
つまりどんなにキュルキオネが今司から離れたいと思っていても彼女の來冥力が同じ判断を下さない限り、その行動は未来永劫一生訪れる事はない。
「その答えは1つ……! 來冥力の飽和による内側からの爆発だ。君の來冥力と僕の來冥力が合算されたその規模は桁違いなんてものじゃないだろうね」
まるで勝ちを確信したかのように語っているが司にとってこの戦い方はギャンブルに等しいものであった。
來冥力を短時間で大量に吸収させているという行為に変わりはなく、もしも失敗したら一気に負けに近付く事だろう。
それでも司は自分自身を信じた。開花適応のレベルが上がった今の自分ならば來冥力が尽きる前にキュルキオネをオーバーヒートさせる事が可能であると。
「安心しなよ。君1人だけに辛い思いはさせない。それにどうせ君の中の來冥力が限界を迎えた瞬間にそれは起こるはずなんだ。どのみち巻き添えを食らう事が明白なんだったら最後の最後まで僕は君の側に居る」
ハッキリと計算した訳ではない。だが感覚的にその瞬間が訪れるまで5秒とない事を司は察する。そして未だ何が起きているのか分かっていないキュルキオネを見つめながら、司は申し訳無さそうに言った。
「こんな方法でごめん。でもこれで君を救えるなら、僕は……」
「――――――――――ッ!」
直後、キュルキオネの体から発せられる赤紫と白の2つの光。
その光が発せられた僅か2秒後の事である。
2人を中心とした半径何百メートルという広範囲を一瞬で蒸発させる規模の特大爆発がキュルキオネの体から発生し、同時に同範囲の極太の火柱が天へと突き抜けたのだ。




