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第238話

 ここでムイが畏まった態度になるのはロアの中では解釈違いなのだろう。彼女は内心微笑み、いつも通りのムイで安心感を得た。


「けど俺らはそんな現象だけの事実じゃなくて、実績として証明したいんだよ。じゃあ何を実績とするか――俺とロアは界庭羅船への勝利を選んだ。新旗楼はその為の居場所なんだ。ようやく俺たちは心から望める場所を見つけた気がした」


「 (ムイ……新旗楼の事そこまで気に入ってたのね……) 」


 まだ何も活動はできておらず組織の設立だけの状況であるにも拘わらず、そこまで魅力的に映っていたとは知らかったコハクは嬉しさ半分驚き半分といった感情で満たされた。


 だがコハクの感動を全て無に帰すかの如く、レギュラオンはムイの言葉をバッサリと切り捨てる。


「ふん。ようするに承認欲求を満たしたいだけか」


「……。ああ、そうかも知れないな」


「 (……! 前までのムイなら怒ってもおかしくない場面なのに……) 」


 ムイの声は穏やかで落ち着いていた。意識して怒りを抑えているようには思えず、言われた事を正論として受け止め、認めているようだ。この様子から察するに自覚はあったのだろう。


「けど奴らと戦う動機は必ず綺麗なモンじゃなきゃダメなのか? 世界の為ーとか、平和の為ーとか言っとけば良いってか? そんな事無いだろ。どんな理由であれ大切なのは覚悟と実力だ」


「同意」


「お前らの動機が先ほど私が口にした4文字である自覚があるのであれば、その欲求が高まるとどんな影響を及ぼすか……理解はしていると認識して良いか?」


 レギュラオンはギロリと2人を睨み付ける。彼女の鋭い眼差しに対してムイは毅然とした態度で目を逸らさずに言葉を返した。


「もう痛いほど分かってるよ」


「ん。私も」


「ふん。なら良い。どうやら、無意味な質問だったようだな」


 2人の目を見たレギュラオンはそれ以上突っ込みや深掘りはしなかった。


 手錠双璧に対する評価や判断はそれで完了したのか、ついに実質最後のメンバーであるカムリィへと視線を移した。


「さて。最後はお前だ、カムリィ。……ああ、そうだ。別件だが最初に言っておく。お前はもう任務報告の為にエンペル・ギアへ足を運ぶ事はしなくて良い」


 その発言が意味する所を把握できなかった者はこの場に1人も居なかった。そしてこの中で最も過剰に反応を示したのは本人ではなくユエルだった。


「え……そ、それって……!」


「ああ。『そういう意味』だと捉えて構わん。これまでご苦労だった。以降はコハク会長の元で忠義を尽くすが良いさ。ふん。尽くす相手が変わっただけだ。今までの生活と何も変わらないだろう?」


「……」


 声のトーンや言葉選びだけでなく、憐みの目をカムリィに向けた事で彼女がカムリィに対して静かな怒りの炎を燃やしている事が見て取れた。


 ユエルは心のどこかで、さすがにそろそろレギュラオンにも慣れてきたのではないかと思っていた。だがそれは大きな勘違いだったとこの時確信したのだ。


 今日1の迫力を感じ取った事で、まだ優しく柔らかい方のレギュラオンを相手に恐怖し、そして慣れたなどという盛大な思い違いをしてしまったのだとユエルは気付いた。


 司のおかげで大分心にゆとりを持たせられたユエルだが、そんな付け焼き刃はレギュラオンが少し凄むだけで簡単に折れてしまう。


 1人で狼狽えているユエルだが当のカムリィは覚悟していたのか特に驚く様子を見せず深々と頭を下げた。


「はい。これまでありがとうございました」


「……カムリィさん……」


 そんな彼の姿を見たユエルは胸が痛くなった。


 公開クビ宣告など見ていて気持ちの良いものではない。その相手が普段完璧超人のように映っているカムリィならなおさらだ。

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