第233話
「目を付けられたらって……嫌な言い方しないでよね。私が悪者みたいじゃない」
「1つ確認だが。司曰く、新旗楼の司以外のメンバーも奴と同じ素質、潜在能力を宿しているという話だったが、この話に嘘は無いな? 私を説得する為にその場しのぎの出まかせを言っているのであればタダじゃ済まさないぞ」
穏やかではないセリフと表情でコハクを脅すレギュラオンだがコハクに怯む様子は一切見られない。
今レギュラオンが確認しようとしている事は司が実際に言っていた事なのだ。変に動揺する方がおかしいだろう。
「ええ。その点に嘘偽りは無いわ。本当に司の言う通りなのかどうかはさておき、彼の見解ではそうらしいわね。私は彼から聞いた話をそのまま伝えただけよ」
「……」
まるで己の目を嘘発見器にしたかのようにレギュラオンはコハクの顔と目をジッと見つめ、彼女が正直に話している事を確信する。そしてそれは鴻仙も同じであり、司のような逸材が他にも居る状況下に希望を見出しているようだ。
もしもこの後WPUの手厚いサポートによって新旗楼メンバーが更なる覚醒を果たす事ができれば、界庭羅船攻略に大きく近付ける事だろう。それはWPUにとって非常に喜ばしい事であり、レギュラオンも本来迷う理由は無いはずなのだ。
鴻仙は頑なにコハクを認めようとしないレギュラオンに違和感を覚える。もしかしたら何か特別な――それこそまだ口にしていない理由があるのではないかと。
「レギュラオン総帥。あなたの言い分では、世界を知らない井の中の蛙たちが界庭羅船に挑むのはバカげている……故に新旗楼を認める訳にはいかない、だったな」
「……」
「だがどうだ。こうして話を聞き、新旗楼の実態を知れば知るほど原石の集まりではないか。それに天賀谷司は界庭羅船と戦った事もある。他の者も同じだ。まだ未熟であったとしても、覚悟は決めているに違いない。それはあなただって分かっているだろう?」
もともと鴻仙はコハクの才と熱意に惹かれて彼女に懸けてみようと思ったのだ。その結果幸運にも彼女は司だけでなく彼と同等の存在を引き連れて新旗楼を設立した。彼らが遊び感覚でやっていない、本気である事など鴻仙は分かっている。
だからこそ彼は納得がいっていない。レギュラオンが口にした新旗楼を認めない理由が打破された今なお、彼女は迷っている事に。一体どこに迷う理由があるのか彼は皆目見当が付かなかった。
「 (さっすが鴻仙! もっとこの分からず屋の頑固女に言ってやってちょうだい!) 」
コハクは完全に鴻仙が自分の味方をしてくれている事にテンションが上がる。
「エンペル・ギア……いや、アルカナ・ヘヴンのトップとして自世界の民を危険な目に遭わせる訳にはいかないと言うのは、王として立派な心掛けだと私は思う。だが、WPUの人間として言わせてもらう。界庭羅船問題を前にそんな甘い事を言っている場合ではないのではないかね? 当該件において重要視すべき点は彼らが界庭羅船に通用するか、もしくはその素質を秘めているか……これだけなのだよ。自世界の人間だからというだけで、明らかな利を逃すのは得策では無いと思うがね」
どう考えても鴻仙の言う事が正論でありレギュラオンもそれを分かっているからこそ痛い所を突かれたような感覚になった。
新旗楼が界庭羅船に通用する事は未来永劫絶対に有り得ないと断言できるのであれば、レギュラオンの優勢のまま話は終わった事だろう。
だが司が新旗楼に居た事によって流れが完全に変わった。
「……。連れて来い」
「は?」
レギュラオンはボソッとそれだけを言い、コハクは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「先ほどお前が言った新旗楼のメンバー5人……全員この部屋に連れて来い。又聞きの状態で判断などできん」
今日の抜き打ち対談はコハク、レギュラオン、鴻仙の3人で行われる予定だった。しかし状況が状況なだけにそんな事を気にしている場合では無いとレギュラオンは判断したのだ。実際に他のメンバーにも会い、見定める。そう考えたのである。
「コハク会長」
フッと笑みを浮かべた鴻仙は少なくともレギュラオンが前向きに考え始めた事を悟り、どこか嬉しそうだ。だが彼よりも喜びの感情で満たされているのは当然コハクである。




