第231話
「WPUは限られた者、選ばれし者だけで構成された世界最大規模の警察組織だ。鴻仙はお前にリバーシと同等のメンバーでチームを構成しろと指示を出したようだが、その程度の戦力で何ができる? お前も転生協会の会長であれば、もう少し世界と現実を知る頭や目を養え。この世間知らずのガキが」
「……」
「レギュラオン総帥。さすがに言い過ぎでは……」
さすがに黙って見ている訳にはいかなくなった鴻仙は思わず止めに入る。だがそんな彼の行動などレギュラオンの前では全く意味を成さなかった。
「お前は黙ってろ。元はと言えばお前が下らない希望と道をチラつかせたのが原因だ。今回は大目に見てやるが次は無いぞ」
鋭い刃のような目でギロリと鴻仙を睨むレギュラオン。かつてない迫力を前に鴻仙は大人しく引き下がった。彼女のご機嫌を最も近くで窺ってきた男として、当然の行動と言えるだろう。
「さて。横から口出しが少し入ったが、話を戻そう。お前はWPUに入る事で界庭羅船の情報を常に取り入れながら奴らを追う気でいたようだが、私は絶対に認めん。新旗楼とやらの設立はこうなった以上好きにしろ。世界を知らないガキどもが『やっている感』を味わうだけの『ごっこ遊び』のまま、終わる覚悟があるのならな。それで満足できるのであれば私はもう止めん。だがWPUに入り本気で界庭羅船と戦う気であるなら、遊びじゃ済まなくなる。チームメンバーが誰なのかは知らないが、これまで界庭羅船と戦った事は当然として会った事すらない平和ボケの寄せ集めだろ。そんな連中がいきなり生と死を懸けた戦いに身を投じて、己を保つ事ができると思うのか? 分かっていないようだから改めて口に出してやる。界庭羅船は全世界を敵に回している最強の組織だ。ただの一般人が手を出して良い連中ではない。……悪い事は言わん。手を引け」
コハクが口を挟んだり反論したりする隙を与えず、一方的にレギュラオンは言いたい事を次々と言語化してコハクに伝えた。
こうなってしまった以上、感情や気持ち、意志の強さをいくら熱弁して言葉にしたところで、レギュラオンには届かないし響かない。コハクはその事を確信した。
彼女の考えを変える事ができるものがあるとすれば、それは事実のみ。
ずばり新旗楼が界庭羅船に通用する、もしくは最低でもその素質があるという事を証明できれば、もしかしたら考え直すかも知れないのだ。
そしてその事をコハクは何故か誰よりも知っている。
最初から熱意1本で行こうなどと決して思っていなかった。話を聞く耳を持たないのであればレギュラオンが思わず興味を持ってくれそうな情報をぶつけるだけだ。
「……。随分と好き勝手言ってくれるじゃない。新旗楼の事、何も知らないくせに」
「何だと?」
「 (司……確かあなた、前にこう言ってたわよね? ――『もしレギュラオン総帥の説得に困ったら、メンバーに自分が居る事を伝えて良い』って。そしてその時は『ユエル先輩や手錠双璧は自分と同等の存在である事も伝えて欲しい』とも……。正直そんなのでこの女を動かせるのかは分からないけれど、でも今はあなたを信じてみるわ!) 」
時期的には司とユエルが手錠双璧の部屋を訪れる少し前の日である。協会内で司はコハクにそんな事を伝えていた。特に詳しい事を司は話さず、コハクも忙しい身であるが故にじっくりと詳細を聞く余裕など無かった。
だが司を疑う理由をコハクは持ち合わせていない。彼がそう言うのであれば、今はその言葉を信じて突き進むのみだ。
そう考えたコハクはこの対談を乗り越える上で切り札にしていた事実を話そうとする。
「あなたさっきチームメンバーが誰なのか知らないって言ってたわよね。興味無いでしょうけど教えてあげるわ。新旗楼のメンバーを。聞いた上で再考してみる事ね」
「……」
意外にもレギュラオンは何も言わなかった。もしかしたら察したのかも知れない。新旗楼のメンバーの中に『彼』が居る事を。
「新旗楼は――私、カムリィ、ムイ、ロア、皇真ユエル……そして、天賀谷司の6人よ」
「っ! チッ……! 1番当たって欲しくなかった予感が当たったか……」
効果は絶大だった。コハクの想像以上に、レギュラオンは司の名前に反応を示してくれたのだ。




