第230話
コハクは心の中では鬼の形相をするが、実際に作っている表情は淑女の微笑みといった感じだ。まさに元リバーシである強さが活きていると言えるだろう。
「大体お前、仮にその新旗楼とやらの設立を私が認めたとして、その後どうやって界庭羅船と戦うつもりだ? 知っての通り、奴らは1つの世界に留まらず各世界を渡り歩いている。こちらから接触するなど常に奴らを追い続ける生活を送っていない限り不可能だ。情報が何も入って来ない状況下で、何も活動できず終わるのがオチだろ」
さすがWPUなだけあってレギュラオンの言う事は的を射ている。
一応アルカナ・ヘヴン内でクオリネやエマと接触した者は居るがあんなもの奇跡に近い出来事だ。そう考えると界庭羅船と複数回関わる機会を与えられたゲーテは最高レベルの強運の持ち主なのかも知れない。
転生協会は異世界調査に適した場であるが故に、再びそういった目的で誰かが訪れるかも知れないが、そんな保証は無い。レギュラオンの言う通り組織を立ち上げはしたが、そもそも彼らに遭遇できず終わる可能性の方が圧倒的に高いだろう。
当然コハクもそんな事言われるまでもなく気付いているが、全くの考え無しではない。
コハクはチラッと鴻仙を見た。有り難い事にレギュラオンは今日1人ではなく彼を連れて来た訳だが、今こそこの話を持ち出すべきだろう。
「ふふん。それはもちろんWPUに……」
「それだけは認めん」
「……!」
入るつもりと続ける予定だったコハクだが、これまでとは比べ物にならない勢いで食い気味にレギュラオンが反対し、その先を言える空気では無くなった。
この展開とレギュラオンの反応を予想できていたであろう鴻仙はやれやれといった様子で苦笑している。
「お前に道を指し示していたのは鴻仙である事を私は既に把握している。取り敢えず私の気が済むまで怒鳴り散らしてやったがな」
「ふっ。まさかこの歳になってあそこまで人から怒られる事になるとは思わなかったな」
自嘲気味に笑いながら鴻仙はその時の事を思い出していた。計画進行中にこうなる事を避けたかったからこそ、彼はコハクに念を押したのだ。この計画がバレてはならないと。
レギュラオンは鴻仙の言葉には特に反応せず、そのまま話を続けた。
「大方、こう考えたのではないか? 鴻仙がそこまで具体的な指示を出して来たからには界庭羅船に対抗する目処が立っていて、この世でそんな事が可能なのはWPUしか居ないと。そしてチームを作って欲しいという指示内容から察するに、もしも成し遂げた場合は実力を認められ、WPUに加えてもらう事ができるかも知れないとな。鴻仙がWPUである事を私が知らないはずが無いと考えた場合、口を酸っぱくして界庭羅船との戦いへの参戦は認めないと言った事にも説明がつく。ずばり『お前の身近』には専門の人間が居るのだから、界庭羅船はその者たちに任せておけ……という意味だと捉えたんだろう?」
「……ええ、その通りよ! さすがね、本当に!」
自分の考えていた事をここまで正確に当てられた上で反対されては、内心良い気分はしない。コハクは半ば逆ギレにも見える態度でレギュラオンの言う通りである事を認めた。
ここまで分かった上で一切コハクの願いを受け入れる姿勢を見せないのだ。彼女を説得するなど無理ゲーなのかも知れない。思わず心が折れてしまうくらいにはレギュラオンの意思は固かった。
「私がWPUのメンバーなのではないか――あなたのこの予想は正しい。だが、今から私が言う事は知らないのではないかね? WPUには新旗楼のようなチームがいくつか存在しているのだが、私は彼女と同じチームメンバーでもあるのだよ」
基本的には口を挟まずにいる鴻仙は補足情報としてコハクが知らない事実を口にする。
「えっ!?」
コハクは驚きで鴻仙をバッと見る。彼の事をWPUと予想してはいたが、まさかレギュラオンと同じチームのメンバーとは思っていなかったのだ。
鴻仙は彼女の反応を見た後に軽く微笑んだ。嘘を吐いている様子は無いとコハクは判断し、より驚きの感情を増幅させる。
「ふん。お前には話さなかったからな。知らなくても当然だろう。話す必要すらない」
「……」
今のレギュラオンは少し様子がおかしい。確かにコハクはレギュラオンが認めていない事を鴻仙と組んで裏で進め、勝手に新旗楼などという組織を設立した。虫の居所が悪いのも頷けるが、それにしたって少々感情的になり過ぎているかのような態度だ。
その理由を鴻仙は知らない。だがコハクは知っている。




