第229話
「私が急遽ここに来た用件、お前なら察しが付くだろう?」
「新旗楼の事でしょ?」
レギュラオンの問いにコハクは即答してみせる。これで実は別件でしたというオチが最も恐ろしいが、どうやらそんな事は無かったようでレギュラオンは肯定する。
「ああ、そんな名前だったか。ふん、対界庭羅船を目的としたチームらしいな。私の知らぬ間に転生協会は、現実を見れない夢想家でも会長になれるほど落ちぶれたようだ」
嫌味ったらしく言うレギュラオンの態度を見たコハクは、案の定彼女が新旗楼の事を認めるつもりが無い事を悟る。
「夢想家?」
ストレートに言われた事でコハクの眉がピクッと反応する。
「界庭羅船との間にある戦力差を正しく認識していないからこそ、自らの実力を過信し、そのようなふざけた夢を語れるんだ。お前如き一般人が相手にして良い連中では無い。私はこの世界のトップとして、民が命を投げ捨てる行為を看過する事はできん」
「 (くっ……! リバーシを辞めた後なら界庭羅船問題に関わって良いと思ってたけど、当てが外れたようね。ユエルには見当違いな事言っちゃった……) 」
コハクは初めてユエルに新旗楼の事やリバーシを辞めた理由を語った時の事を思い出して1人反省した。
彼女は界庭羅船と戦う事をレギュラオンが認めてくれない理由を以下のように考え、当時ユエルに伝えていたのだ。
大前提としてリバーシは界庭羅船と戦う存在ではなくエンペル・ギアの為に活動する駒でしかない。リバーシが専門外の活動をする事をレギュラオンは良しとしておらず、これはつまり界庭羅船は専門の人に任せてリバーシは自分たちの活動に集中して欲しいと思っている何よりの証拠だ。
更にコハクはレギュラオンからこんな事も言われている――『そこまで死にたいならリバーシを辞めろ。辞めた後であれば、何をするにしてもお前の自由だ』と。
この発言を聞いた時のユエルが悲しみに満ちた表情をしていたのをコハクは今でも覚えている。本当に心優しい子なのだと内心感動したものだ。
とにかくリバーシ時代のコハクはレギュラオンとのやり取りでこう考えたのだ。
界庭羅船問題に関われない理由は自分がリバーシだからであり、つまりリバーシを辞めてレギュラオンの忠犬でなくなれば、好きなだけ取り組めるのではないかと。
だからこそ彼女はリバーシを辞めて転生協会会長の道を選んだ。
だがその考えが正しいのであればレギュラオンがここまで正面から否定するなど有り得ない。嘘か本心かは怪しいところだが、もしも自世界の民を危険に晒したくないという気持ちが真なのであれば、まずはその部分を崩す必要がある。
コハクは頭を切り替えた後、レギュラオンの動揺を誘うべく無駄だと思いつつもダメ元で矛盾点を指摘する。
「民が命を投げ捨てる行為を看過できない? おかしいわね。それだと私が以前あなたから聞いた発言と食い違っているわよ。私がリバーシの一員だった時に、あなた言ってたわよね? 『そこまで死にたいならリバーシを辞めろ。辞めた後であれば、何をするにしてもお前の自由だ』って。だから私は言われた通りリバーシを辞めて、好き勝手やってるのよ? 一体どこに問題があるのかしら。正直もうあなたにどうこう言われる筋合いは無い認識なのだけれど?」
つい喧嘩腰になるコハクだが、レギュラオン相手に弱気な姿勢は絶対に見せてはいけないと思ったが故の口調だ。それに彼女は言った。この話に関してはお互い礼儀や遠慮は不要だと。ならばその言葉に甘えてガンガン行くしかない。
「ふん。記憶に無いな。そんな事言ったか? 自分に都合の良いように私の発言を捏造するのは止めてもらおうか」
「 (まさかの都合の悪い事は忘れたフリ! いやまぁ3年近く前の話だし、本当に忘れているのかも知れないけども! いずれにせよ、やっぱり『どうせ何もできやしない』と高を括ってたのね! この点に関しては予想通りだけど、シンプルにムカつく……!) 」
トップとしてどうなんだと思う一方、ある意味でトップらしい発言とも思える回避の仕方だった。




