第228話
やがて琴葉は悩んだ末に答えを出した。彼女は言わない方が良いだろうと結論付ける。
「いや……連絡はしない方が良い」
「どうして?」
「そんな事をした結果、後々になってコハク会長に伝えた奴は一体誰なんだと犯人探しが始まったら面倒だろ。それにレギュラオン総帥は確認したい具体的な内容を言わなかったが、もしも本当に後ろめたい何かがコハク会長にある場合、彼女はその責任を取り、償うべきだ。転生協会会長としてな」
例え友達であったとしても、いや、友達だからこそ、ここでコハクを助けるかのような行動を取るのは違うと考えているようだ。
そしてそれは司も同意見であった。
「 (事情を知らない側に立つと琴葉さんの言う事の方が正しいし、この場面でどうしても伝えたいって言うのは少し不自然か……) 僕も琴葉さんの意見に賛成かな。今はコハク会長の身の潔白と対応力を信じた方が良いと思うよ」
「……まぁ2人がそう言うなら……。う~、でも心配だよ~」
「 (どうせ用件は新旗楼の事だ。この件に関しては話すタイミングが無かっただけでコハク会長の中ではいつでも話ができるよう準備を整えているはず……。いずれにせよ理想の形とはならなかったけど、コハク会長からしてみればようやく訪れたレギュラオン総帥との対談の機会……寧ろ好機と捉えるに違いない) 」
司は新旗楼の行く末が今日この後決定するのだろうと考え、胸が高鳴った。これまでお預け状態となっていた訳だが、やっと進展が見られるのだ。
当然認めてくれるのがベストではあるし望んでいる結末なのだが、仮に認めなかったとしても先送りがずっと続くよりはマシだ。それにコハクならばどんな手を用いてでも認めさせようとするだろう。
レギュラオンの考えを改めさせる事がいかに難しいかを司は理解している。しかし同時にコハクの立ち回りや諦めない心の厄介さも十分凶悪であると考えているのだ。
どちらの意地が勝つのか。コハクとレギュラオンの対談はその一点に尽きるだろう。
多くのギャラリーに見守られていたレギュラオンと鴻仙は、ついに転生協会会長室の中へと到着し、フカフカの3人掛けソファに座っていた。レギュラオンは不機嫌な顔、鴻仙は微笑を浮かべている。
そして2人の前にはコハクが余裕の笑みで同じくソファに座り、対面していた。
実際に彼女は誰からも連絡を受け取る事なく、まさに抜き打ちとも言える状況になっているはずだ。にも拘わらず落ち着き払っているところを見るに、司の予想通り準備自体は完璧だったという訳だろう。
「すまないな、コハク会長殿。アポ無しという非常識な対談になってしまって」
まずは挨拶代わりにレギュラオンが軽いジャブを放つ。内心は絶対申し訳無いと思っていない事が見え見えだ。
「うふふ。お忙しい中協会へご足労頂きありがとうございます。ただいま仰った事に関しては、気にする必要御座いませんわ。アルカナ・ヘヴンのトップの方ですもの。レギュラオン総帥の急な用件にも柔軟に対応する――これは転生協会会長として当然の務めで御座います」
「ああ、ご理解いただけて何よりだ。そういう事であるならば……」
ここでレギュラオンは態度を一気に変えて狩る者の目つきになる。
「お互い社交辞令はこの辺にしておこう。ここから先は礼儀も遠慮も不要だ。お前もそれで構わないな?」
「ええ。そうしてくれると助かるわね」
コハクも不自然に敬語を使うのを止めていつもの口調へと戻る。
2人が部屋へやって来た瞬間こそ驚いたコハクだったが、今はもう覚悟を決めているのだ。ならばもう前へ進むしかない。
「 (さぁ、ここが私の人生最大の正念場よ、コハク・カンツィオーネ! 何が何でもこの女に新旗楼の事を認めさせてやるんだから!) 」
コハクは自分自身に活を入れた。彼女にとって一世一代の大勝負がこうして始まったのだった。




