第227話
「コハク会長殿に抜き打ちで確認したい事があるのでな。我々が事前に伺う事を伝えていては、予め回答の準備をされてしまう恐れがある。無礼は承知だが分かってくれ」
キレているのかと思われても不思議ではない声と表情のレギュラオンにこう言われてしまっては頷く事しかできない。半ば恐怖によるものだが。
「か、かしこまりました! えーっと、つ、つまりそういう事であるならば、連絡もしない方が良いという認識で……」
「ああ、それで良い。お前は何も聞いていないし何も見ていない。……良いな?」
最後の3文字の迫力は桁違いだった。レギュラオンだからこそ生み出せる圧は受付嬢の心を容赦なくへし折る。
「は、はいぃ……」
あまりの恐怖に受付嬢は泣きそうだ。実際にレギュラオンを目の前にするとこれまで味わった事の無い強烈なプレッシャーを感じるのである。
今彼女が思っている事は早くこの場から立ち去ってくれだった。
「ご協力感謝いたします。それでは『許可』も頂いた事ですし、我々はこの辺で失礼しますね」
「ああ、行くぞ鴻仙」
レギュラオンと鴻仙は自らの立場や圧力を利用する事で、堂々と正面からコハクの元へと向かうルートを確保した。当然普段からこのようなやり方で立ち回っている訳では無いが、今回は状況が状況だからと言ったところだろう。
2人は受付から離れるとエレベーターへと乗り、そのままコハクの執務室がある階へと向かったのだった。
「……な、何の為に来たんだろうね?」
周囲が未だに落ち着きを取り戻さない中、マキナはようやくその疑問を口にする事ができた。成り行きを見守る事で精一杯だったが2人がこの場から離れた事で会話する余裕が生まれたのだ。
「さぁな。コハク会長に抜き打ちで確認したい事があるって言っていたが……」
「……」
何が何やら分からないといった様子の琴葉、マキナとは対照的に、思い当たる節がある司は1人考え込んでいた。
「 (もしかして新旗楼の事かな。勝手に人工異世界で一般人を開花適応させちゃった訳だし、先手を打って動き出したと見て間違いないよね。それにしても世界地図を使えば一瞬でコハク会長の所に行けるのに、本当徹底してるなぁ。個人単位で自由に好きな場所への転移が可能な事を悟られたくないってところかな) 」
もしも世界地図を使って転移した先に協会のメンバーが居た場合、いきなり1人の人間が転移して来た瞬間を目の当たりにする事になる。
確かにアルカナ・ヘヴンには転移技術を用いた移動方法が存在しているが、それらは全て特定の場所への移動が可能になるものだ。世界地図のように条件さえ満たせば好きな場所への転移が可能な訳では無い。
そしてアルカナ・ヘヴンの技術を用いた形での転移を行った場合、その転移先として転生協会会長室の中や周辺は設定されていない。
面倒な説明要求を避ける為、レギュラオンたちは普段WPUの活動時でもない限り世界地図は使用していない。今回のように原始的に目的地へと向かわざるを得ないのだ。
「司くん? 考え込んでどうしたんだ?」
「え? ああ、いえ、何でもないです。ただこの世界の実質ツートップが協会にやって来るなんて、一体何があったんだろうと思いまして」
今考える事があるとすればそれが一番無難だろう。そう思った司は見当が付いているにも拘わらず気付いていないフリをして琴葉に返した。
「そうだな。協会の存続に関わるスキャンダルで無ければ良いのだが……」
事情を知らない琴葉はコハクが何かやらかした可能性が高いと思い、不安そうだ。
「怖い事言わないでよ! あ、そうだ! こっちからコハクちゃ……じゃなくて、コハク会長に連絡しとく? レギュラオン総帥と鴻仙総監が急に協会に来て、今そっちに行ったよ! って」
マキナの提案に琴葉は悩んだ。果たしてその行動を取っても良いものかと。




