第226話
司、マキナ、琴葉の3人が協会に着いたちょうどその時、いつもと様子が違う事に彼らは気付いた。場所的にはエントランス付近であり、まるで超有名な芸能人に遭遇したかのように人だかりができている。
ザワザワと落ち着きが見られず、入り口を塞いでいて中へ入らせてくれない。
「ん? 妙に騒がしいが何かあったのか? ……ちょっと失礼……」
状況を知ろうとした琴葉は人混みを掻き分け、何とか最前まで移動する。そのおかげでようやく彼女は受付周囲の様子が確認可能に。
協会メンバーが注目している方へと意識を向けたその瞬間、彼女はあまりの驚きで息が止まったかのような感覚を覚える。
「な……っ……!?」
「うぅ、やっと追い付いた……もう~置いてかないでよ、琴葉ちゃん……って、どしたの? ……ッ! え……ええええ!?」
琴葉に付いて行ったマキナも彼らが何に驚いているのか気付いたようで、つい大きな声を出してしまった。
「……!」
そして2人と同じく最前までやって来た司もまたその存在を視界に入れたのだが、こちらはオーバーなリアクションを見せず息を呑む程度で済ませていた。
三者三様の反応を見せた後、琴葉が震えた声でようやく2人の名を口にした。
「レギュラオン総帥に……鴻仙総監……!」
そう。後ろ姿ではあるが前方に居たのは間違いなくその2人であった。
エンペル・ギアと牢政のトップが急に転生協会へと現れたのだ。無関心を貫くなど有り得ない話であり、彼女たちの反応や人だかりができてしまうのは当たり前の事だ。
この場に居る人たち全員の注目を集めているというのに2人は気にする様子を一切見せず、そのまま転生協会受付へと近付く。
今日も今日とて不機嫌な顔を見せるレギュラオンの代わりに、鴻仙が受付嬢と言葉を交わす役割を担った。
「おはようございます。お忙しい中突然押しかけてしまい、大変申し訳御座いません。私は牢政総監の鴻仙と申します。そしてこちらはエンペル・ギア総帥のレギュラオンです」
営業スマイルがよく似合う男、鴻仙はそのお得意の笑顔で軽い自己紹介から入った。
この世界で生きている以上、余程政治に興味が無い人でも顔と名前くらいは知っているだろう。レギュラオンほどでは無いにしろ、彼女の右腕と評される彼もまたアルカナ・ヘヴンでは非常に知名度が高い。
牢政現トップ――鴻仙。役職的には『牢政総監』となる為、人々からは名前の後に『総監』と付けて呼ばれる事が多い。
身長は高く190センチ前半はある。年齢は30代後半でありレギュラオンより5歳ほど年上だ。彫りの深い顔立ちにツリ眉ツリ目、更にグレー色の瞳が印象として残る事だろう。黒色の長髪を後ろで束ね、その長さは腰まで伸びている。
和風スーツに身を包み、近代的要素と古風な要素が融合しているかのようだ。
声は渋く落ち着きや色気を感じさせる。
容姿や声だけでも人を魅了する鴻仙はその上牢政のトップなのだ。天は二物を与えずという言葉を全力で否定しているかのような存在である。
そんな鴻仙に話し掛けられた受付嬢の女性は色々な意味で緊張してしまい、頬を赤らめながら受付嬢にあるまじき取り乱し方をしてしまった。
「は、は、は、はひ! お、おおおおはようございます! ほ、本日はどういったご用件でしょうか!?」
目は泳ぎ、声は裏返っている。思わず吹き出してしまいそうなほどに動揺する姿を見せた訳だが、鴻仙は気にする事なく用件を伝えた。
「転生協会最高責任者――コハク・カンツィオーネ会長にお会いしたい。最初にお伝えしておきますが、アポイントメントは取っておりません」
「え……」
鴻仙はさも当然かのように非常識な事を口にし、受付嬢は思わず固まってしまった。
本来であればコハクほどの人物にアポイント無しで会うなど不可能なのだが、何かを言われる前にレギュラオンが高圧的な態度で受付嬢へと内情を話す。




