第224話
「わぁっ!」
「うわ!」
「あはははは! おはよ~! 良いリアクションするね~司くん!」
そこには楽しそうにケタケタと笑うマキナの姿があった。そしてその隣では琴葉が呆れたような表情をしている。
「ま、マキナ……はぁ……心臓止まるかと思った……」
司は心臓の位置に手を置いて必死にドキドキを鎮めようとした。
「まったく君は……すまないな司くん」
「い、いえ、大丈夫です」
「あー面白かった。いやー珍しく司くんから負のオーラが出てたからついね」
可視化されないものに当たらずとも遠からずで迫るマキナは良い目をしていると言えるだろう。
「負のオーラって……まぁ今日ちょっと寝坊しちゃったしね」
「えー! めっずらしい~! んーでもそういう日もあるよね! あ、それでもしかして朝食抜いてたり? 元気無さそうだもんね。ちょっと待ってね、えーっと……」
本当にマキナは鋭い。1発で今の司の状態を見抜いた後、何か渡せる物はないかとスクールバッグにしか見えない自分の肩掛けバッグの中をごそごそとし始めた。
それにしても制服姿+スクールバッグで歩くマキナはどう見ても学生にしか見えない。
「はい、これ! 栄養食とゼリー飲料あげる! 本当はおにぎりとかサンドイッチみたいな軽食あげたかったけど、今あるのこれだけなんだよね~。あ、でもチョコ味とグレープ味だから美味しいとは思うよ!」
マキナは袋に包まれた棒状の栄養食 (チョコ味) と即座にエネルギーチャージが可能なゼリー飲料 (グレープ味) を笑顔で司に差し出した。
「え、良いの?」
「遠慮しない遠慮しない!」
「……じゃあもらうね。ありがとう!」
マキナの優しさを素直に受け取った司は彼女からその2つを貰う。
「うん! どーぞ!」
「おい君たち。そろそろ行かないか? このままだと本当に遅刻するぞ」
微笑みながらそう言った琴葉は1人で歩き始める。2人は慌てたように彼女の後を追いかけ、そしてマキナを中央にした形で3人は並んで協会へと向かった。
「あーあー。それにしても、今日からまた仕事かぁ」
休日が明けて憂鬱な気分なのだろう。マキナの声には覇気が無い。
「何か面白い事でも起きてくれたら良いのに。そしたらモチベが上がると言うか、やる気が漲るんだけどね」
相変わらずのマキナを前にした司は苦笑いしながら栄養食を口にし、ゼリー飲料で喉を潤した。甘い味が口に広がる。
「この間の温泉旅行でチャージできたと思ったんだが、やはり君にとって1番のエネルギー補給は『刺激的な出来事』のようだな」
「そりゃあもっちろん! 私の辞書に退屈な日常なんて存在しないのだよ! 琴葉クン」
「誰なんだ君は」
「温泉旅行とか行ったんですね」
司は顔を横に向けて琴葉を見ながら質問した。どうやら司がユエルたちに過去の話をしている間、琴葉とマキナは旅行を満喫していたらしい。
「ああ。マキナと2人で1泊2日な。『最近旅行行ってないんだよね』ってマキナが言い出して、私が『それなら一緒に行くか?』って返したのがキッカケだった」
「楽しかったよね~! 景色もお料理も最高だったし! それに考えてみれば琴葉ちゃんと一緒に旅行とか行った事無かったしね。あ、でも琴葉ちゃんと温泉入れなかったのは心残りかな~。聞いてよ司くん! せっかくの温泉旅行なのに、琴葉ちゃんったら私と一緒に温泉に入ってくれなかったんだよ! 恥ずかしがっちゃってさぁ……」
マキナはジト目を琴葉に向けて不満を露わにする。確かに同性同士であったりバスタオルを巻いた状態であっても恥ずかしがる人は居るだろうが、琴葉がその手のタイプとは思えず人は見かけによらない事が明らかになった。




