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第222話

 いつまでもゲーテの話に乗らないクオリネを見たゲーテは若干呆れたように言い放つ。


「クオリネさん。あなたも界庭羅船の管理を任されている大幹部なら、組織の危機に対して私情を挟むのは止めた方が良い。あなたは確かに感情を声や表情、言動に表さない鉄仮面ですが、それは表に出さないのが上手いだけです。少なくとも人並みの情を持っているあなたはこれまで可愛がってきたエマさんが殺されるのを黙って見ているのは辛いものがあるでしょう」


「……」


「ですが。そんな事を気にしている場合ですか? あなたは『クオリネ』――『界庭羅船のクオリネ』なのです。組織と個人の情……どちらを取らねばならないかなど、考えるまでもなく分かりきっているでしょう」


 説教されている気分になったクオリネは、内心ムッとしつつもそれを悟らせないような声と表情で最低限の抵抗を見せる。


「分かってる。でもあなたの話は全部予想の上で成り立ってるでしょ? エマの中に復讐計画が無い場合、あなたは私たちにとって未来ある大切な仲間を殺そうとしてる。その辺はどう考えてるの?」


 クオリネは会話を長引かせて判断の時間を稼ごうとした。少しでもエマが殺されなくて済む理由を見つける事ができれば良いと信じて。


「あなたがエマを殺したい理由はシャックスにその刃が向けられる前に始末したいからでしょ? でもそんなの界庭羅船からすれば知った事じゃないし、あなたもそれを理解しているからこそ、エマが内心レイクネスへの復讐で燃えているって事にして界庭羅船の問題にしようとしてる。そうなれば界庭羅船からしてもエマを処分する理由が生まれちゃうからね」


「仰る通りです」


「でもエマの中にレイクネスへの復讐心が無いのであれば、界庭羅船はエマを殺す理由が一切無くなる。それでも両親の遺志を継いでシャックスを潰すとか言い出したら常連さんを失う事になる訳だから別問題が発生するけど、正直それはその時考える。とにかく、復讐心が実際あるかどうかなんて関係無くエマを殺すって言うのであれば、私の権限で今あなたを殺す事になる訳だから、死が早いか遅いかだけの違いだよ」


 今最も重要なのはエマがレイクネスを本気で殺したいと思っているかどうか。この点において明確な答えを提示できない限りクオリネは判断のしようが無い。


 そして全てはゲーテの都合の良い解釈で、実はレイクネスに復讐しようとは思っていないのであれば、彼の立場は一気に危うくなる。


 界庭羅船の真の仲間になろうとしている少女を殺そうとしているのだから、例え依頼人であっても、常連であっても、クオリネは守る為に最適な行動を取る。


 クオリネの目は彼女が本気である事をゲーテに伝えていた。普通なら恐怖で固まる場面ではあるが、ゲーテはそんなの意に介さず冷静に言葉を返す。


「はぁ、やれやれ。どうしても死んで欲しくないみたいですねぇエマさんには。疑わしきは罰せよの思考で行動していると思っていたのですが、どうやら違うようだ。僕としては可能性がある段階で、界庭羅船のルール違反に繋げない為に協力してくれると思っていましたが、読み違えましたね」


 クオリネが知りたがっていた質問の答えは、今の発言に含まれていた。


 エマを界庭羅船に正式加入させるのは危険だとクオリネが理解した場合、彼女は界庭羅船の秩序を守る為に疑わしき者の段階でエマ殺害を認めてくれるとゲーテは読んでいた。


 故に彼はエマの中に本当に復讐心があるかどうかの確認にそこまで重要性を感じていなかったのだが、状況が変わったようだ。


 昔のゲーテであればスムーズに計画が進まない事に対して不満を募らせていたかも知れないが、キュルキオネの件を経験した今であれば、計画とはそういうものだろうと切り替える事ができる。


「仕方ありませんねぇ。では当初予定していたエマさん殺害計画の中に、レイクネスさんへの殺意を確認する時間を追加しましょう。もしもそこで言質が取れた場合……その時は認めてくれますね?」


「……良いよ」


「ふふふ。二言は無いと信じていますよ。クオリネさん」


 ゲーテは最終的には自分の思い通りの結末になると疑っていないようだ。クオリネに念押しする彼の表情や態度は自信に満ち溢れている。

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