第220話
ゲーテのその問いに対してクオリネは答えない。だが彼女の中で答えは既に導き出されていた。
今思えばエマは今回の依頼に関する情報を出した時、もっと言えばシャックスの名前やレイクネスが過去に護衛を担当していたと教えた時、酷く動揺していたように見えた。
その時は特に気にしなかったクオリネだが、ゲーテの話をこうして聞いていると少なくともエマの中で綺麗さっぱり解決した問題ではないのだろうと思えてくる。それどころか復讐目的で界庭羅船に入ろうとしている事も可能性としてはかなり高いのだと。
「仮にそうだとして。レイクネスは今もピンピンしてるよ。そんなに両親の敵討ちをしたいんなら、さっさと行動に移せば良いと思うんだけど」
エマはレイクネスが犯人である事を知っている。それならば何故すぐに復讐行動を起こさないのか。
だがこの疑問に関してゲーテは自分なりの答えを持っていたようで、特に考える素振りを見せずに即答してみせた。
「彼女はまだ正式なメンバーではありません。察するにあなたがずっと面倒をみてきたのでしょう。恐らくですがエマさんは、現状他のメンバーと接触や交流をしたくても、その手段を持ち合わせていないと予想しています。一般人に例えると住所も連絡先も知らず、知っているのは名前だけの人に何の情報も無しに会えますか? という話ですね。1つの世界に留まっているならまだ可能かも知れませんが、どの世界に居るのかという所から始める……それもあなたの目を掻い潜りながらとなると、難易度は飛躍的に上昇するでしょうねぇ」
ゲーテはまるで界庭羅船の1人かのように内部事情に詳しかった。さすが界庭羅船の常連なだけはある。
「まぁあなたを介して会う事は可能かも知れませんが、特定のメンバーに今会いたい表面上の理由となると、そんなもの存在しないでしょう。故に彼女は界庭羅船の正式メンバーになる事を第1に掲げているのです。そうすれば他の構成員と接触しやすくなり、行動範囲も今に比べたら格段に広くなる。ついでにあなたからも卒業できて伸び伸びと動ける。今すぐ復讐しないと死ぬ訳じゃありませんし、まずは界庭羅船に認めてもらう事からと考えているのは実に合理的な判断です」
「……」
反論の余地がない考えを聞いてクオリネは思わず黙ってしまった。
そしてそれと同時にもしも本当にエマが復讐を企んでいるのであれば、自分はどう動くべきなのだろうかとクオリネは考え込んでしまった。
クオリネは界庭羅船のリーダーではないが、組織内の問題解決や依頼人との橋渡し、そしてエマのような新人の教育に加え、異世界の調査など、仕事量でいけば断トツの1位となっていた。
今回のような界庭羅船の内輪揉めに至ってもクオリネが解決すべきタスクであり、可能なら発生させないよう立ち回る必要がある。
もしもそんな事になってしまったら界庭羅船リーダーが黙っていないだろう。クオリネがこの世で最も恐れているのはリーダーの逆鱗に触れてしまう事であり、それだけは何としてでも回避せねばならない。
クオリネはエマの復讐の件について頭を悩ませるが、ゲーテはそんなのお構い無しに話を続けた。
「それにしてもクオリネさん。界庭羅船はメンバー間の戦闘を禁止していると聞きましたよ。そんなルールが定められているのであれば、復讐だの殺しだのと言って血を流すのは言語道断といったところでしょう。ふふふ、意外と仲睦まじい組織なんですねぇ。もっと殺伐としたグループかと思っていたのですが……」
盛大に皮肉を口にし、余裕の笑みを浮かべているゲーテはこの時点で1つだけ確信していた事があった。いざとなればクオリネは界庭羅船リーダーの顔色を窺った行動を取るはずだと。




