第219話
「ふぅん。知ってたんだ。それで? あなた程度の來冥者があの子に勝てるとでも?」
その質問にゲーテはニヤッと笑ってから自信満々に答えた。
「來冥者としての話をするのであれば僕は勝てないでしょうねぇ」
「……」
ゲーテの表情や伝わってくる自信から今の発言に嘘は含まれていないとクオリネは確信した。実は弱いふりをしているだけで本当はWPUや界庭羅船レベルの強さがある、という訳ではないようだ。
つまり彼は心の底から本気で思っている。來冥力で負けていたとしてもエマを殺害する方法はあると。
來冥者として圧倒的に負けている状況下で、どのようにしてエマを殺害するつもりなのか。本当ならその点について語りたかったゲーテだが、クオリネの殺意を感じながら話すのは心臓によろしくない。
まずは彼女の中にある、エマが危険な目に遭うのであれば界庭羅船として守らねばならない、という気持ちを排除する方が先だ。そう考えたゲーテは努めて冷静にクオリネとの会話を続けようとした。
「そうですねぇ。僕の真の計画やエマさんに勝てるかどうかはひとまず後回しにしましょうか。まずはエマさんを殺害する事をあなたに認めてもらう必要があるようですから」
「その冷静な所は褒めてあげる。……それで、エマを殺そうとしている理由は個人的な恨み?」
「いいえ。僕はエマさんに対して恨みは一切ありません。なので怨恨を動機とした殺害ではないのですよ。僕が彼女を殺害したい理由はシャックスの為です」
そう言うとゲーテは空中に1つのリストを表示させた。そのリストには何人もの名前が記載され、年齢も性別も出身世界も異なり、一見共通点は無いように見える。
「これは何?」
「シャックスの被害者およびその関係者のリストですよ」
界庭羅船ほどではないにしろ、シャックスの被害者もこの世には大勢居る。そうでなければこんなにも多くの名前がズラッと並ぶ事は有り得ないだろう。
「……。……! これ……」
最上部の名前から下に向かって目を走らせていたクオリネは、とある名前が目に留まり思わず凝視してしまう。
そこにあったのは以下の情報であった。
『名前 エマ
性別 女
年齢 11歳 (現在推定)
出身世界 ヴァルハリア』
「おやおや。早くも見つけてしまわれたのですか。そうです……そのリストの中に記載されているという事はそういう事ですよ。エマさんはシャックスと関わりのある人間です」
「具体的には?」
「シャックスは7年前に初めて界庭羅船へと依頼を出し、その時に担当してくださったレイクネスさんはヴァルハリアでシャックスを追っていた警察組織を葬りました。そしてその中にはエマさんのご両親が居たのです」
エマの両親が警察としてシャックスを追っていた事をクオリネは初めて知る。だが特に驚きの感情を表情には出さず、黙ってゲーテの話に耳を傾けた。
「確かにお2人を殺したのはレイクネスさんであって、シャックスではありません。ですがエマさんからしてみたら僕たちは両親の仇のような存在なのです。復讐とはまた別に両親の遺志を継ぐつもりで僕たちを潰そうと考えていてもおかしくはないでしょう」
「だからやられる前にやるって事? 今はまだエマがその機を窺っている最中だと踏んで」
「その通りです。当然確証はありませんがね。ですが僕たちにとって死の可能性が潜んでいる以上、その可能性を排除したいと思うのは自然な事ではないですか? ああそれと、彼女にはシャックス以上に恨んでいる人間が居るのですが、どなたかご存じですか?」
「……レイクネス」
ここまで話を聞けば分かる話であった。
ゲーテはクオリネに言葉を返したり頷く事はせず、ただ不敵な笑みを浮かべるだけで肯定の意を示した。
「エマさんは以前まで界庭羅船の誰かが両親を殺した事は知っていても、それが誰なのかまでは知らなかったはずです。ですが今の彼女は犯人がレイクネスさんである事を知っている。ふふふ……クオリネさん。エマさんが界庭羅船に入った……いや、入ろうとしている理由は復讐であると僕は考えています。そして犯人が誰なのか分かった今、彼女が取る行動は1つしかないと思いませんか?」




