第217話
「ああああああ! もう! 本ッッッ当に注文だけは多いわね、あんた! そもそもあたし、司以外でアルカナ・ヘヴンに知り合いなんて居な……あ」
その時エマの脳内に1人の少女が浮かんだ。司ほどコミュニケーションを取った訳では無いが、一応知り合いと言えば知り合いだろう。向こうが覚えてくれたらの話だが。
「もしかして居るのですか?」
エマの様子を見て期待の眼差しをゲーテは送った。彼の期待とは裏腹にエマは煮え切らない返しをする。
「まぁ……一応……?」
「何故疑問形なのですか」
「ほぼ他人みたいなものだからよ。1回だけちょっと会話した程度だし……あ、でも確かあいつ探偵署の人間って言ってたわね。探偵っていうくらいだし調査とか得意なんじゃないかしら。界庭羅船の肩書きを利用して適当に脅せば、あたしの代わりに事前調査してくれるかも……」
後半になるにつれ声は小さくなっていき、最終的にはただブツブツと言っているだけの人になってしまった。
やがてゲーテとクオリネが見守る中、エマは決断する。
転生協会探偵署所属の少女マキナに協力を仰ぐ事を。
「分かったわ。エンペル・ギアとは過去も現在も無関係……と思われる奴に心当たりがあるから、そいつを当たってみる。使えなさそうなら、あたしが1人で何とかする。何とかできなかった場合はあんたに相談する! これで良いわね!? 今度こそ!」
これ以上面倒な注文や仕事を口にするなと言いたげだ。そんな彼女に対し、ゲーテは笑顔で頷いてみせた。
「はい。それでお願いします」
ゲーテから新たな仕事の追加が無かった事で今後の具体的な動きが完全に決まった。
まずエマが世界展示会の日までにレギュラオンの執務室へと侵入し、そして展示会の開催日および当日のレギュラオンたちのスケジュールを把握する。その際、ゲーテに関する情報を紙だろうとデータだろうと見つけた場合は処分・削除する事も並行して行う。
なお、この任務はマキナに協力を仰ぐ予定となっている。
当然ながらマキナにエンペル・ギアの知識はほぼ無い。エマと同じく内部の構造すらよく分かっていないだろう。だがエマは以前マキナと出会った時に、彼女が探偵署所属と自己紹介していたのを奇跡的に覚えていた。
マキナの事や探偵署の事はあまり知らないエマだが、部署名に探偵と入っているからには調査が得意なのではと予想したのだ。
ならば事前にエンペル・ギアの構造および、部外者が出入りする時に使えそうなルートの調査などを行ってもらった方が効率的であると判断したのである。
世界地図を使えば1発なのだが、生憎エマはレギュラオンの執務室など1度も行った事が無い。特定の場所へ転移する為の条件となる周囲の光景を把握していないが故に今回は原始的に移動するしかないのだ。
元エンペル・ギア職員であるゲーテならば可能かも知れないが、どうやら彼はレギュラオンの執務室には行った事が無いらしく、それはつまりエマと同じ状況という訳だ。ちなみにその情報を聞いたエマが「使えないわね」と切り捨てたのは言うまでもない。
エマからすればエンペル・ギアのレギュラオン執務室に侵入するのは、前提ミッションのようなものだ。既にお腹いっぱいになりそうだが、今回の本番はその後にある。
それは当然ながら世界展示会の日だ。
ゲーテはエマと共に転生協会へと向かい、五大機関のトップたちが人工異世界へ転移した後を見計らってその世界を破壊する事で彼らを葬る。人工異世界自体を凶器とする大規模な殺人計画である。
以降の動きの整理と確認を終えたエマは早くも行動に出た。
「――という事で、あたしは早速アルカナ・ヘヴンに向かうわね。と言っても今日は休日だろうから本格的に動くのは数日後になりそうだけど」
「すみません、お願いします。僕はこのままヴァルハリアに居るので、エンペル・ギアでの仕事が終わったら戻って来てください」
「まったく……あんた界庭羅船を雑用係か何かだと思ってるんじゃないでしょうね? 今後も界庭羅船を頼る気があるなら、これっきりにしておきなさいよね!」
「肝に銘じます。今回は本当にありがとうございます」




