第216話
そんなゲーテの努力空しく、案の定エマは心底怠そうな声と表情で反応を示した。
「ああ、行事日って世界展示会の……。実は今日あんたに会う前にクオリネから少しだけ聞いたわ。今回は護衛任務以外にもミッションがあって、その内容はエンペル・ギア総帥の執務室に侵入し、彼女のスケジュールを調べ、ある行事日を特定して欲しいって。その行事日については実際にあんたから説明があるから今は私も把握していないって言われたわね。まぁアルカナ・ヘヴンにしかない特別な行事だし、どうせ2人とも知らないだろうから説明の手間を省く為にそうしたんでしょうけど……それにしても、そこからスタートだなんてマジでめんどくさいわね」
エマは既に護衛以外の任務がある事を知っていた。
と言うのもクオリネは以前エマに対してこんな事を言っていた。それはエマに初めて仕事を任せると伝えた日であり、そして両親を殺害した犯人がレイクネスだと知った日でもある。
『ちなみに今回は護衛以外にも仕事があるんだけど、その辺は今私の方で話を進めている最中だから、まとまったらあなたに共有するね。今日のは頭出しってところ』
あの時クオリネが言っていた護衛以外の仕事というのが、今ゲーテが口にした内容となり、エマは彼から聞く前にクオリネから簡単に共有されていた。
仕事を1つ追加されただけならまだ良かったが、その内容が使いっ走りのようなものである為に彼女は分かりやすく拒否反応といった具合だ。
「エマ」
界庭羅船と言えど大金を払ってくれる依頼人相手には失礼な態度を見せたくないとクオリネは思っているのだろう。エマの事を見つめた後に彼女の名前を呼んで圧をかける。
「シャックスは界庭羅船にとって常連さんなの。面倒でも彼の計画の為にちゃんとやりなさい」
その声はいつもと異なり上司が部下を叱責する時のような鋭さがあった。こうして見るとクオリネは界庭羅船内ではやはり上の人間なのだと思えてくる。
「……はいはい分かった分かった。仕方無いわね。……エンペル・ギアの構造は詳しくないから、アルカナ・ヘヴンの人に協力を仰ぐけど良いわね?」
エマの確認にゲーテは少しだけ悩む様子を見せた。彼女が言う協力者次第では面倒な事態になりかねないからだ。だが断ってしまえば話が先に進まない。
迷った結果ゲーテは取り敢えず協力者の正体を知ろうとした。
「ふむ……ちなみにですがどなたに協力をお願いする予定ですか?」
「それ聞いてどうすんのよ。天賀谷司って男だけど」
その名を聞いたゲーテはどれほどの衝撃を受けた事だろう。彼は目を見開き、先ほどまでの余裕な態度は完全に吹き飛んで素の反応を見せる。
「っ!? あ、天賀谷……司……」
「元リバーシの人っぽくてね。そいつだったらエンペル・ギアには詳しいでしょ。前にアルカナ・ヘヴンを訪れた時に会った事があるのよ……って、どうかした?」
明らかに動揺を見せるゲーテに気付いたエマは不思議そうに彼を見つめる。
するとハッとしたゲーテは慌てたようにその人選を却下した。
「いえ、その……そう! 天賀谷司という男とは知り合いなんですよ。僕はエンペル・ギアの元職員ですからね。何が起こるか分からない以上、可能なら僕の事を知らない人にした方が僕としても安心できるのですが。 (万が一ゲーテという名前をこいつが口に出してしまったら終わりだ……ここは何としてでも他の人にしてもらわないと……!) 」
間違った事は言っていない。ゲーテは自分にそう言い聞かせて人選を変えてもらおうとした。
「はぁ? つまり過去現在問わずエンペル・ギア関係者以外から選べって事? 何なのよあんた、わがままね! じゃあ世界展示会に関する事は転生協会会長室を調査する方針でも良いかしら? 確か協会の会長もスケジュールを把握している中の1人だったわよね? そこなら知ってるから」
「すみません、できる事ならレギュラオンの執務室でお願いしたいのです。と言うのも、僕に関するデータが彼女の部屋に調査記録として保管されている可能性が高く、もしそれらを見つけたら、スケジュール調査のついでに処分して欲しいので……」
ただでさえ面倒だと思っていたミッションだ。ああして欲しいこうして欲しいと言われただけでなく、どさくさに紛れて新ミッションを追加された事でエマのイライラは治まるどころか増すばかりである。




