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第215話

「話を続けますね、エマさん。人工異世界を破壊すれば中に居る人間は死ぬ……という事はです。人工異世界は最強の殺人道具として使える訳なんですよ!」


 テンション高めに言うゲーテは演技派だ。まさか嘘の前提の元で話が進んでいるなどエマは思ってもいないだろう。


 ゲーテに乗せられているとも知らずエマは何かに気付いたような声を上げ、すっきりした表情で話し始めた。


「……あ! そういう事ね! 世界展示会の日にレギュラオン含めた五大機関の各トップが協会を訪れた後、協会がその日の為に用意した人工異世界に評価を目的として転移する訳だけど、その時に該当世界を壊せば中に居るそいつらを皆殺しにできるって事?」


「ふふふ。エマさんは賢い子ですねぇ。正解でございます」


 ゲーテは表向きの計画をエマが信じてくれた事が嬉しくて、そしてエマは自分の力だけで正解できた事が嬉しくて、それぞれ充足感に満たされた。


「ふふん! ……ん? あんた今あたしの事『子』って言った? 最初だから大目に見てあげるけどあたしを子ども扱いするのは止めなさいよね!」


「おっと、これは失礼しました。以後気を付けます。 (チッ……何歳なのか忘れたが、まだガキだろお前。何を偉そうに……) 」


 心の中では既に本性が顔を見せ始めているゲーテだが今は抑えるべき場面だとグッと堪えたのだった。


「 (ゲーテさんが何を考えているのか分からないけれど一応乗っておこう。) レギュラオンの事をずっと気にしながら生活するのも確かに疲れるしね。この辺でレギュラオン含めWPUの面々を殺すつもりなんだね」


「その通りです。ですが彼女たちを殺すなど現実的ではありません。そこで僕が目を付けたのが人工異世界という訳ですよ。そしてそれを凶器として用いた殺人を決行する日は世界展示会がまさにぴったりなのです」


 ここまで来ればゲーテの話を疑う理由などエマには無かった。動機は十分、そしてアルカナ・ヘヴンを訪れる理由も不自然な箇所はなく、その殺人計画を実行する間の護衛をお願いしたいという気持ちも当然理解できる。


 エマは完全にゲーテの話を信じてしまったのだ。


「話が長くなってしまって申し訳ありませんが、とにかく今話したのが僕の用事であり、そして今回界庭羅船に護衛依頼をお願いした理由なのですよ。当日はレギュラオンたちが居る協会に侵入し、彼らが転移した後にその異世界を壊す必要がある訳ですからねぇ。危険は付き物……失敗するリスクもありますし、いざという時に備え界庭羅船の力が必要なのです」


 それっぽい事を言わせたら天才なのかも知れない。


 頼れる人はもう界庭羅船の人たちしか居ないと感情を込めたゲーテ。まさに迫真の演技である。


 彼の演技を見破れなかったエマは特に迷う様子を見せずに請け負ってしまった。


「事情は分かったわ。オッケー、引き受けてやろうじゃない。協会は前に別件で行った事あるしね。ある程度のルートは把握してるわ」


「エマさん……ありがとうございます! 僕の事、よろしくお願いします!」


 ゲーテは深々と頭を下げて感謝の気持ちをエマに伝える。


「ええ、よろしくー」


「 (くくく……このバカが! 簡単に騙されるとは……どれだけ大口を叩いて自分を大きく見せても所詮はまだ子どもという訳ですねぇ……) 」


 頭を下げながら腹の中では盛大にエマを見下すが、エマはその事に気付かない。


 ゲーテ視点、ある意味この依頼時が最も難関だったのかも知れない。もしもエマが人工異世界について詳しかったり途中で不自然に思ったりしたらその時点で破綻である。


 だが運命の女神はゲーテに微笑んだ。彼女は正しい知識を持っておらず、更に疑う事なく話を信じたのだ。


「そうだ、エマさん」


 顔の緩みを何とか抑えてからゲーテは頭を上げてエマの名を呼ぶ。


「何よ」


「計画実行前に1つお願いがあります。時期的に世界展示会の日が近いのは間違いないのですが、具体的な日に関しては毎年異なる為、僕は知らないのです。おまけにその日程を把握しているのは、現時点では恐らく五大機関の各トップと転生協会会長の計6名だけ……要するに僕の計画を実行するには、まず開催日を知る必要があります。そこであなたには夜中にでもレギュラオンの執務室へと侵入し、スケジュールを確認して来て欲しいのです」


 ゲーテは申し訳無さそうにお願いし、少しでもエマの機嫌を損ねないよう立ち回る。

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