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第214話

 ゲーテはまるでアルカナ・ヘヴン出身者のように詳しく説明した。


 さすがエンペル・ギアで仕事をしていただけあって五大機関周りの事情はある程度把握しているようだ。


「へー。そんなのがあるのね。クオリネは知ってた?」


「私も初めて知った。勉強になるね」


 大ベテランのクオリネの口から知らなかったと聞くと少し安心する。


 やはり長くその世界に留まったり特定の仕事に就かないと専門的な知識は得られないという事なのだろう。


「まぁアルカナ・ヘヴン内でも特定の重鎮だけが関わる行事ですからねぇ。知らなくても無理は無いかと」


「それで? その世界展示会の日がそろそろ近付いてきたっていうのは分かったけど、それがあんたの用事と何の関係があるのよ」


 エマが知りたいのはその1点だ。


 リバーシ加入試験の期間を狙って壮大な計画を企てた時のように、今回も世界展示会の日を狙って何かを企んでいる可能性は非常に高い。


 護衛を引き受ける担当者としてその辺は明らかにしておきたいところである。


 ゲーテは不気味に笑うと得意気に答え始めた。


「ふふふ。エマさん。転生協会が提供する人工異世界ですが、こういう仕様があるのをご存じですか? 生きた人間が人工異世界に居る際、その人工異世界が破壊されたら中に居る人間は死ぬと。世界が消滅する訳ですからね。当然の結末です」


「……」


 ゲーテの発言に何故かクオリネは納得がいかないといった様子で彼をジッと見つめた。


 だがゲーテはクオリネに見つめられても発言を訂正するつもりは無いようで、エマの反応を楽しむ事に徹していた。


「え? そうなの? 今日は初めて知る事だらけね。それにしても、協会って随分と危ない事してるのね。もしも事故ったら大変じゃない」


「同感です」


 マスクをしているせいで気付きにくいが、この時ゲーテの口角は上がり、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべていた。


 彼が何かを企んでいるのは明白であり、今は自分が望む方へと話が進みそうな空気を感じ取っているのだろう。


 そんな中エマよりは協会や人工異世界について知っているクオリネは、先ほどのゲーテの発言と自分の知識との間に相違がある事に気付く。


「 (おかしい。私が調べた限り、協会が創る人工異世界にそんな仕様は無いはず。確かに外部内部問わず人工異世界を壊す事は可能だけど、世界が消滅したら死ぬのは転生者だけで現実の人間は自動的に元の世界に戻される仕組みだった気が……) 」


 もしも本当にゲーテが言ったような仕様があるのであれば、過去に協会で起きた事件と矛盾が生じる。


 評価対決の時に審査員が近くに居た手錠双璧は別として、そのような人が居なかった状況下で動いた蓮はわざわざ人工異世界に侵入せずとも現実世界でそのままパノンを破壊すれば良かったのだ。


 しかし彼はパノン内に侵入し確実に自分の手で司たちを口封じとして殺そうとした。単純に仕様を知らなかっただけとも考えられるが、あの時は暦も居たのだ。蓮にその事を伝えないのは有り得ない。


 クオリネは協会で起きた事件に関して状況を正確に把握している訳では無いが、自分の認識がゲーテの発言と食い違っている事だけは分かる。


 怪しむような目でゲーテを見ていると、彼はクオリネの視線に気付き、ウインクを1回だけして合図を送った。黙っていろという事だ。


 クオリネが考え込んでいる事を察し、先手を打ったのである。


「 (……どうやら口出しはしない方が良いかもね) 」


 自分の認識が誤っている可能性も考えたクオリネだったが、ゲーテの行動から彼がエマに嘘を吐いた事が確定した。となれば何故そんな嘘を、という新たな疑問が発生するが、エマが居る今その事を訊くのはゲーテにとって都合が悪いだろう。


 そう考えたクオリネは大人しく口を噤んだ。

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