第212話
「ヴァルハリアで結成された密輸組織。様々な異世界を転々とし、現在もWPUに追われている。界庭羅船にはこれまで2回依頼経験があり、今回は3回目。1回目は7年前、2回目は数年前、どちらも当時の依頼人は初代のボスで担当はレイクネス。ちなみにクオリネから聞いた話によると、あんたは元リバーシ試験の関係者で、今はエンペル・ギアの総帥様からも敵視されているらしいわね。どう? 合ってるかしら」
「ふふふ。完璧です。依頼人については事前に勉強をしておく……立派ですねぇ」
褒められているのに素直に喜べず、気味の悪さが勝ってしまうのはゲーテの一種の才能かも知れない。
「エンペル・ギアのボスからも敵視されて追われているっていうのは本当だったのね」
何気なく言ったエマだったが、その発言にゲーテの眉がピクリと反応した。そして特に求めてもいない背景をペラペラと喋り出す。
「ええ、本当ですよ。彼女は元々WPUではありますが、我々を追う担当チームではありませんでした。ですが個人的な恨みを買ってしまい、今ではシャックスの担当チームに協力する時もあるそうですよ。現在の僕たちに界庭羅船の後ろ盾が居ない事を理由にね」
エンペル・ギアをコケにし、リバーシ加入試験を自分勝手な計画に利用されたレギュラオンの怒りは計り知れない。
前回は界庭羅船が背後に居た事とシャックスの初代ボスとの約束を守る為に彼を逃がしたが、今はそのどちらの効力も失っている。それはつまりゲーテを追わない理由がレギュラオンの中から消えた事を意味する。
あの事件以降レギュラオンは五大機関の仕事の合間合間に多少無理をしてでもシャックス担当チームに混ざり、指揮を何回か執っていた。
これはWPUと言うよりエンペル・ギアのトップとしての責務なのだと。
「個人的な恨みが何なのかっていうのは聞いても良いやつかしら?」
「……」
興味本位でエマはその質問をぶつけた。するとゲーテはマスクを外し、ニッと笑って歯を見せた。
「……! あんた、前歯が……」
エマはゲーテが前歯を2本失っている事に気付いた。見せたいものを見せれて満足したゲーテは再びマスクを装着し、過去の出来事を語る。
「数年前の護衛依頼の時、僕はリバーシ加入試験でエンペル・ギア職員として活動をしていました。身分を偽ってね。話せば長くなるので詳細は割愛しますが、WPUや界庭羅船を巻き込んだとある計画を僕は試験期間中に実行したのです。ですが計画は失敗し、僕はエンペル・ギア総帥、レギュラオンによって肉体的な制裁を受けました。この歯と左手はその結果です。彼女は激しく怒り、以降僕を追うようになったという訳です」
「ふーん。そんな過去があったのね。それはまたお気の毒に」
エマの声には可哀想という感情が微塵も込められていない。取り敢えず適当に何か言葉を返しておこうという思考の元で彼に言葉を送っただけのように見える。
ゲーテはそんな事お見通しであったが、特に不快感を態度には出さずニコニコとした笑顔で頭を下げた。
「お心遣いありがとうございます。本当は歯の方もインプラントや入れ歯といった人工の歯で治療しようと考えたのですが戒めとしてこのままにしてあるのです」
「 (よーするにレギュラオンへの怒りを忘れないようにって事ね。逆恨みもここまでくるといっそ清々しいわね) 」
失笑しそうになったエマだったが今後の道を決定付ける大事な依頼人という事もあって何とか堪える。
「2人とも。雑談はその辺にして、そろそろ本題に入るよ」
このままではゲーテが永遠と過去の話や恨み話をし続けそうな気配を察知したクオリネが割って入ってきた。正直早く本題に入りたかったエマは助かったと内心喜んだ。
「あたしはいつでも良いわよ。この男が勝手に話し始めた事なんだから」
「失礼しました。せっかくなので僕やシャックスの事を知っておいて欲しくてつい……」
「 (あんたらの事はよく知ってるっての。レイクネスの件が済んだら、あんたらも絶対潰してやるんだから……覚悟しときなさいよね!) 」




