第211話
「面白かったから別に良い」
「そうですよ! 司くんの事色々と知れましたし、楽しかったです!」
「それなら良かったです。僕も話した甲斐がありました」
退屈な時間になっていた訳では無かった事にホッとした司は帰る為に立ち上がった。
「それじゃあ帰りましょうか先輩。2人とも、今日はありがと。飲み物もごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「おう」
「気を付けて」
そんなやり取りを交わし、いよいよ帰る時間が来たのだと実感が湧いたその時である。
ユエルのお腹が鳴った。時間的には夕飯時をとっくに過ぎており、小さい子どもであるならば既に寝ているかも知れない。
お腹が空いてもおかしくないがそれにしたってタイミングが最悪であった。せめて司たちと別れて1人になってから鳴って欲しかったものである。
「~~~っ!」
恥ずかしさで顔を真っ赤にしたユエルは思わず下を向いて悶絶する。
「帰りにどこかで何か食べていきますか? 先輩」
司の声は優しくそれが逆にユエルの羞恥心を煽った。
「は、はい……」
ユエルは蚊が鳴くような声で返答した。
この後ムイとロアの部屋から出た司とユエルは近くにあった飲食店で一緒に夕飯を済まし、軽い雑談をしながらそれぞれ帰路に就いたのだった。
その頃、シャックス誕生世界かつエマの故郷となる世界『ヴァルハリア』では、エマとクオリネがとある倉庫の中で1人の男性と出会っていた。
周りに人の気配はなくヴァルハリアの警察組織の影が無い事も事前に把握済みだ。おまけに今は夜であり取り引きや密会を安心して行える状況となっている。
「それでクオリネさん。こちらのお嬢さんが今回僕の護衛をして下さる方ですか?」
3人の中で1番最初に会話をスタートさせたのは男性の方だった。人をナメているような、どこか不快感を与える喋り方であった。
「そう。ちっちゃいし界庭羅船の正式メンバーでもない、まだ11歳の子どもなんだけど來冥者としての腕は確かだからそこは安心して良いよ」
「色々と余計よ、クオリネ! ……初めまして、エマよ。ええとあんたは……」
自己紹介をしたエマが男性の名前を思い出そうとする。だがエマが思い出すよりも先に男性の方が自分から名乗った。その際には会釈をし、相手が11歳の子どもであっても界庭羅船という事で敬意を表しているように見える。
「ゲーテです。よろしくお願いしますね、エマさん」
シャックス2代目ボスにして司やWPUと因縁深い男、ゲーテがそこに居た。
左手が義手になっており、顔はマスクをしている為上半分しか見えない。
いずれも過去にレギュラオンから受けた仕打ちによる結果であると予想できる。エマは当然そんな事知らないが。
界庭羅船2人と会っている事から想像できるかも知れないが、今回彼は2度目の護衛依頼をする事が目的である。相変わらず動揺や怒りを感じていない時は、腹の底が見えない声と表情を作るのが上手い男だ。
「ええ、よろしく。 (胡散臭い男……仕事じゃなきゃ関わりたくないタイプね……) 」
エマは心の中で軽く毒づいた。口に出さない辺りまだマシである。
「早速依頼周りに関して色々と話を進めていきたいと思っているのですが、その前に1つ質問よろしいでしょうか。エマさんはシャックスについてどこまで知っていますか?」
「は? 何よ急に」
「深い意味はありませんよ。本題前の軽い雑談だとでも思って頂いて結構です」
「……」
ゲーテが何を考えているのか全く読めない。だが答えなかったり過剰反応する訳にもいかないので、エマは怪しまれない程度に答えた。自分の両親が過去にシャックスを追っていた警察関係者だった事がバレたら色々と面倒である為、淡々と答えつつも慎重に。




