第210話
だがそれは全て、自世界の愛すべき民が死後も有意義な人生を送れるようにと願っての行動だ。故に協会関係者は彼らの意見を何とか受け入れていく必要がある。
世界展示会は現実の時間では1日で終わり、評価対象となる人工異世界は1つ、該当異世界内の滞在時間は10日間となる。
協会は用意できる最高の異世界を世界展示会の為に用意し、五大機関は彼らの本気を評価する流れとなる。曰く協会が提供できる異世界の限界を見たいが為にこの日用意する異世界は1つで良い事になっている。
何個も用意されてはその分時間も掛かり、お互いアルカナ・ヘヴンの主要機関である事を考えてもこの展示会に多くの時間は割けないのだ。
準備する異世界は1つで良いが、その分そのたった1つの異世界に全てを懸ける気概で臨まねばならない。
毎年世界展示会が近付くと協会内はそわそわし始める。何せ五大機関の各トップが5人同時に協会に足を運び協会が創り上げた人工異世界を見に来る訳だ。この状況で落ち着くなど無理な話である。
とは言っても実際に世界展示会に関わりを持つのは協会上層部とベテランの異世界創生班の人のみで、大抵の人は深く関わったりなどしない。五大機関のトップと協会内ですれ違ったら挨拶する程度の行事なのだ。
普段の異世界運用において花形とされているラスボス役であってもそれは変わらない。つまり今ここに居る4人はある意味で普段通りの日となるのである。
「五大機関のトップがその日だけ協会に集結する……そう聞くと協会にとっては本当に失敗できない一大イベントだよね」
異世界創生班でも無ければ協会上層部でも無い司は他人事のように話す。コハクやカムリィが聞いたら他人事だと思って、と目くじらを立てそうだ。
「五大機関の各トップって確か全員がWPUなんですよね。それもナンバーワンの……」
司の話を聞いた後では彼ら5人の大物レベルが何段階も上がったように感じてしまう。当日実際にすれ違った際、ユエルは緊張のあまり固まってしまいそうである。
「そうです。でも変に緊張し過ぎる事はありません。笑顔で明るく、そして礼儀正しく挨拶をする事さえ意識していれば、何も問題は無いですよ」
ユエルの心情などお見通しと言わんばかりに、司は笑顔でユエルを安心させるようにそう言った。
「ユエルよりも司の方が先輩らしいな」
「そ、それを言わないでください!」
ユエルは協会歴こそまだ浅いが一応去年の世界展示会は経験している。だがその時は協会内で五大機関の各トップとすれ違う事はなく、と言うより彼らが訪れそうな場所を避けて移動しており、実際に彼らと会う機会など無かったのだ。
「と、とにかくです! 話を戻しますけど、今は世界展示会の準備でコハク会長は忙しいでしょうし、新旗楼の事を話したり進めたりする余裕は無いと思われます」
ユエルは半ば無理やり話題をコハクと新旗楼に戻した。
確かにコハクは新旗楼のリーダーである前に転生協会の会長なのだ。まだ認められてすらもいない極秘チームに時間を使う余裕など今の彼女には一切無い。
自分のやりたい事を進められないもどかしさはあるかも知れないが今はとにかく世界展示会を乗り越える事の方が大切だ。
「ああ。お前の話聞いて色々と察したわ。色々と動き出すのは世界展示会以降って事になりそうだな」
ムイの言葉に3人は特に反論せず同じ認識でこの話を終えた。
「あ。もうこんな時間」
ふと時計を見たロアの言葉で今日という日の現在時刻を彼らは認識した。司の過去の話と以降の会話に夢中になっていたせいか、4人とも時間を意識するのを忘れていたようだ。司とユエルはそろそろ帰らないと遅くなってしまう。
「本当だ。そろそろ帰らないと……ごめんね、つい話が長くなっちゃって」
司は申し訳無さそうに謝罪した。自分でもまさかこんなに長くなってしまうとは思っていなかったのだろう。




