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第209話

 ユエルの震えた声による質問はムイとロアも注目する内容であった。3人の視線が司に集まり、言って欲しい答えを今か今かと期待する。


 司は本当にユエルが言ったような事態になった際に起こり得る展開を口にした。


「はい。間違いなく界庭羅船との全面戦争になるでしょうね。これまで積み上げてきた経験と戦力……その全てを彼らにぶつけ、界庭羅船を監獄異世界送りにする為に」


「……」


 口を堅く閉じ、心臓の高鳴りと戦うユエル。


 界庭羅船との全面戦争。夢物語にしか過ぎなかった話が、現実のものになる可能性があるのだ。


 それがいつになるのかは分からない。だがレギュラオンは諦めずに周囲の仲間の成長を大人しく待っている。来るべき機に備えて。


「全面戦争か……その時俺らの席もあると良いな」


「ん。新旗楼も勢力の1つとして戦いに参加したい。コハク会長には頑張って説得して欲しいところ」


 新旗楼は対界庭羅船を目標にコハクが設立した極秘チームだ。


 まだ活動らしい事は一切行われておらず、レギュラオンの承認待ちのような状況だが果たして戦力の1つとしてカウントしてくれるのか。


 既に界庭羅船と戦う覚悟はできているが故に、戦争が始まった時は戦いに加わりたいと思っているのだ。


 ここで司は新旗楼やコハクというワードを耳にしてユエルに確認したい事があったのを思い出す。それは我らがリーダーに関する事であった。


「そうだ先輩。コハク会長が何でそこまで界庭羅船撃破を目標に奮闘しているか、先輩は知らないんでしたっけ?」


「は、はい。何回か訊いた事はあるんですけど、毎回はぐらかされちゃって……」


 ユエルはダブルラスボス評価対決の件をキッカケにコハクとの連絡やコミュニケーションの機会が爆増した。その際にそれとなく新旗楼設立の動機を質問したりもしていたのだが、得たい回答を彼女が教える事は無かった。


 今この時代を生きる人間であるならば界庭羅船を倒すなど一般人レベルの人間が立てる目標ではない。普通は諦めるか誰かに任せるか、いずれにせよ特別な理由が無いとそういう気持ちにすらならない非現実的な話なのだ。


 自分には関係無い。誰もがそんな思考の元で日々を暮らしている。


 何故コハクはそれほどまでに界庭羅船に執着しているのか。その部分が謎として存在し続けるのは少々気持ち悪さがあった。


「あれじゃないのか? 昔界庭羅船に大切な人を殺されたとかそんなんだろ」


「ん。ベタだけどそれが1番有り得る」


 ムイの考えを聞いた司は真っ先にエマが浮かんだ。


 界庭羅船に両親を殺され復讐目的で組織入りまでした少女。今頃彼女は何をしているのだろうと考えてしまった。悪に染まりきっていないのであれば彼女には殺人を行って欲しくない気持ちがどうしても湧いてしまう。


「どうなんでしょうね。確かに可能性としては考えられますけど……」


「さすがにその内話してくれるんじゃないかな。リーダーが自分の事情を何も話さないのは不信感に繋がる事をコハク会長だって理解しているだろうし」


「ですね。それに最近は忙しすぎて話す余裕が無いかもです。……『世界展示会』も近いですし、その準備で忙殺されてそうな雰囲気があります」


 ユエルが言った世界展示会に3人は反応を示す。


「そう言えばそろそろか。司は初めてなんだろ? 世界展示会」


 ムイに訊かれ司はこの中で自分だけが1度も経験していない事を改めて実感する。


「うん。一応先輩からどういうものかは聞かされてたけどね」


 世界展示会。それは言ってしまえば『視察』と『五大機関への接待』を兼ね備えた1年に1度の協会ビッグイベントだ。


 期間中に五大機関の各トップが同時に転生協会を訪れ、そして実際に人工異世界を経験する。協会がアルカナ・ヘヴンの民に提供している異世界の実態を各トップ自らが直接経験する事で客観的かつ正当な評価をしていくのだ。


 五大機関トップならではの審美眼や着眼点によって次々と厳しい指摘が行われ、毎回非常に辛口なレビューとなる事は協会内で有名な話となっている。

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