第208話
誰かに向かって言っている訳でも無いのに言い訳のような言葉を心の中で並べるユエルであった。
「司の初恋の人か。どんな女か一目見てみたいもんだな」
「分かる。しかも異世界人。何かロマンチック」
「いつかシュレたちがアルカナ・ヘヴンに来たらその時に会えるかも知れないよ。みんな一緒に来てくれたらの話だけど」
リバーシ加入試験の時、司の父親である仁はシュレフォルンたちと一緒に来てはくれなかった。彼だけに限らず同じチームメンバーとは言え別件が忙しかったらそちらを優先してしまうだろう。
もしもシュレフォルンたちが近々本当にアルカナ・ヘヴンを訪れるとしても、全員一緒かどうかは分からないのだ。1人でも訪れてくれるのかすら怪しいところである。
「確かにな。あー、にしても、新旗楼は全然進展無いし、WPUの奴らはいつ来てくれるのか分からないしで何か退屈だな」
「仕方無いでしょ。僕たちはただの一般人なんだから。界庭羅船の事を考えると退屈なのは寧ろ贅沢な悩みだよ」
「へいへい」
ムイは本格的な説教をされる前に適当な返事を返す。
「でも司くんのお話は本当に興味深かったですよ。お話を聞いただけなのに自分の世界が広がった感じがしましたし。界庭羅船、WPU、原異生物、世界地図、シャックス、監獄異世界、そしてキュルキオネ……どれも知らない事ばかりで驚きの連続でした! それと同時に自分たちがいかに小さな存在なのかも痛感しました」
当時の司のようなユエルの反応と感想は司を懐かしい気持ちにさせた。新鮮と言うべきか自分も似た気持ちになった時があったのだと。
「ん。私はレギュラオン総帥が界庭羅船の1人を倒せる実力があったのが1番の衝撃。あとゲーテとかいうゴミをやってくれたのは正直スカッとした」
「そんなレギュラオン総帥様でも界庭羅船トップ3には勝てないって言うんだから恐ろしいよな」
その言葉に場の空気が重くなる。
界庭羅船メンバーの1人を倒せる來冥者が味方に居るのは非常に心強い。だがそれでもチーム戦力で見た場合はまだ界庭羅船側に軍配が上がるのだ。
上げてから落とされたような気持ちになり、素直に喜んで良いのかどうか複雑な感情で満たされるのである。
ムイとロアがレギュラオンの強さについて語る中、ユエルは1つだけ腑に落ちない事があった。
レギュラオンはレイクネスを倒せる実力を既に有しているのに、何故界庭羅船が関与する事件に進んで首を突っ込み、彼らと1戦交えないのかだ。
だがこの疑問に関してはすぐに答えが出たようで、ユエルはその事を話題にしようとする。
「そう言えばそこまでの強さがあるレギュラオン総帥が、界庭羅船事件に自分から深く介入しないのって……」
ユエルは司の話からレギュラオンの脳内を読み解いたのだろう。少しだけ考え込んだ後に自分の考えを口にした。
「まだ『その時』じゃないって思っているからですか?」
「そうですね。彼女は自分だけが強くても界庭羅船には勝てないと思っています。実際そうですし、周りが自分に……少なくとも界庭羅船と戦えるくらいに成長するまで待っているんだと思います。だからこそ界庭羅船との衝突はできる限り避けているんです。もしもクオリネのような上位陣と出くわしたら終わりですからね」
思えばシュレフォルンたちも言っていた。彼らを倒す事ができるのはまだ先の話だと。
界庭羅船と本格的に戦う時、それは個としてではなくチームとして戦える状況になっているかどうかが重要になってくる。
「で、では、もしもいつかチームとして界庭羅船に勝てる見込みが出てきたら……」




