第205話
教える側からすれば満点のリアクションだ。こういう反応をしてくれると説明のし甲斐があるというものである。
「はい。シュレたちは僕が天賀谷仁の息子だからちょっと教えてあげるか、というノリで教えてくれたみたいですけどね」
「にしても何で奴らは情報の制限してんだよ? 何かムカつくな」
「ん。正直ケチ」
WPUもまさか裏でケチなどと言われているとは夢にも思っていないだろう。
司は予想通り過ぎる感想を漏らしたムイとロアに対し、苦笑いしながら理由を教えた。
「例えばだけど、君たちは僕が元リバーシ候補生である事を知ってるよね? それは僕と関わりのある人だから。特定の人の秘密や正体を知っている人の条件は、誰かが暴露しない限り何かしらの関係性がある人って事になるんだよ」
司がそこまで言うとピンと来たのかムイはハッとした表情になる。ロアは素人目で見ると表情に変化が訪れていないように見えるが、ムイが見たら何かに気付いたような表情になっていると言うに違いない。
「……! なるほどな。もしもクオリネだのレイクネスだのフローラだのって名前を把握している奴が居ればそいつは……」
「界庭羅船、WPU、護衛対象の犯罪者、いずれかと関わりを持った事がある人である可能性が高い」
「正解。ようするに関係者の炙り出しだよ。界庭羅船や護衛対象の犯罪者と関わりを持つ人間なんて、WPUからしたら生き証人みたいなものだからね」
「炙り出しねぇ。エグい事するよな」
「ん。無意識に口にしちゃいそうで怖い」
関係者しか知り得ない情報が存在している状況を意図的に作り出している訳だ。
運が良ければ護衛対象の犯罪者の仲間が偶然にも名前をポロッと口にしてしまい、そこから崩していったり対策を講じる事が可能なのだ。
このやり方がどこまで功を奏しているかは不明だが、未だに公開情報が制限されているところを見ると少なくとも悪い結果を出している訳では無いのだろう。
司の話を聞いて納得がいったムイやロアとは対照的にユエルの表情は未だ晴れない。どうやら新たな疑問が出てきたようだ。
「あの……それなら界庭羅船という組織名すら出さない方が良いのでは……?」
ユエルは情報を一切公開しないのではなく、一部は公開しているという点に引っ掛かりを覚えた。
「先輩。さっきロアが結構良い事を言ってたんですけど、聞いてましたか?」
「え。何? 私?」
急に振られたロアは自分が先ほど何を言ったのかを思い出そうとする。
「えーっと確か、無意識に口にしちゃいそうで怖いって……」
「そうです。こういう時に大切なのはどこまで情報が公開されているかってところなんですよ。公式ではないルートで情報を知っている人間は、公式が一部の情報を公開、一部は非公開ってやり方を取ると、世間一般的にどこまで情報が知れ渡っているかが曖昧になってくるんです。自分が知っている情報=既に世間の人も知っていると勝手に置き換えられ、無意識に口にしてしまう……その隙を狙っている訳です。意外とあるものですよ。自分の中では既に公開されていたと思われていた情報が、実はまだ公開されていなかった……なんて事がね」
司の発言でユエルが抱いた疑問は完全に解消された。それと同時に世界規模で罠を張り巡らせているWPUの周到さに少し恐怖を覚えてしまった。
これで界庭羅船の情報を何故全て共有しないのかについては解決した。しかし司が説明した内容は寧ろそういう事情なら話してはダメなのではと思わせるには十分すぎるものであった。
その部分に触れないなど有り得ない話であり、ロアが早速指摘する。




