第204話
「――以上、かな。僕の昔話は」
長々と語られた司の過去の話が終わった頃、アルカナ・ヘヴンは夜になっていた。丁寧に話し、自身が実際に体験しなかった部分も当時他の人から聞いた内容を元に説明していたが故に思いの外大長編になってしまったのである。
ユエル、ムイ、ロアの3人はリアクションや質問は最低限に抑え、彼の話を真剣に聞いていた。
「これが僕の過去。WPUに出会って、界庭羅船の1人と戦って、開花適応を果たして、そして彼らと別れて……。その後はまぁ候補生として活動を続けて、転生協会に来て、そこから先は知っての通りだよ」
「「「……」」」
司以外の3人はなかなか言葉を発しない。
何せ司の過去はあまりにも一般人離れしていた。WPUとここまで濃密に触れ合い、事件に巻き込まれ、共闘した者など未だかつて存在していなかっただろう。
今日この日まで元リバーシ候補生という部分以外は普通の少年として見ていたが、その見方が変わってしまってもおかしくない内容だ。
そして司がのどを潤す為に飲み物を一口飲んだ後の事である。
「あ、あの……」
気になった事があったのかユエルが緊張した様子で司に話し掛けた。
「こ、この話……本当に聞いちゃって良かったんですか? け、結構危ないって言うか、その……レギュラオン総帥に制裁とかされちゃわないです!?」
そう言ったユエルは司が話したゲーテに対する制裁を思い出したのか、割と本気で震えている。
「あー有り得るかもな。『どうやらお前らは知り過ぎたようだな』とか何とか言って、エンペル・ギアの地下にある拷問部屋に連れて行かれるかもな」
「今のモノマネ似てる」
「だろ?」
「ご、ごごご……ご……ご……!」
ユエルの顔色は一気に悪くなる。
裏社会に生きている訳でも無いユエルにはあまりにも非現実的なワードであり、聞くだけで寿命が縮まりそうだ。
「ムイ。先輩を怖がらせないでよ。そんな部屋エンペル・ギアには無いでしょ。先輩、落ち着いてください。本当にダメだったら僕だって話してないですから」
「ほ、本当ですか?」
恐怖と疑いが混じったような目で司を見るユエル。司の事だから自分を安心させる為に嘘を吐いていざと言う時は責任を取るつもりなのだろうと内心彼女は思っていた。
当たり前ではあるがこんな時は理由とセットで伝えるべきである。
「本当です。まずWPUに関してですが、彼らの情報が知れ渡っていないのは、それだけアルカナ・ヘヴンが平和って事です。他国の事件情報ならともかく、他世界の犯罪組織や犯罪者に関する情報なんて流れる訳無いですからね。ようするにWPUが追っている組織や人が関わった世界では報道という形で情報が伝えられるかも知れませんが、僕たちの世界ではそれが無い……つまり、そういう事です」
司はニコッと微笑む。改めて言葉にすると自分が住んでいる世界は少なくともWPUが絡むような事件が起きていないのだと認識でき、どこか誇らしい気持ちになれる。
「リバーシは意図的に情報を外部に漏らさないようにしているので、その実態が不明瞭になっていますが、WPUは違うという事ですね。無関係の世界の一般人にも都度報告・報道・情報共有するのは全くの無意味なんです。そういう理由からアルカナ・ヘヴンではWPUに関する情報がほぼ入って来ないってだけであって、有識者がWPUの事や過去に彼らが関わった事のある事件の概要を教えるのは全く問題ありません」
「な、なるほどです」
「次に界庭羅船。これに関しては以前レギュラオン総帥から聞いた話なのですが、実は敢えて公開する情報を制限しているようです。なので試験開始前の僕みたいに、WPUのメンバーが個人的に教えない限り、組織名と活動内容以外を知る事は基本的にできません」
「え……そ、そうなんですか?」
ユエルは驚きで目を丸くした。




