第203話
「あいつらはお前から見てどうだった?」
「……。遠い世界に、僕が届かない世界に居るんだなって、そう思いました」
「そうだな。リバーシでさえ世界規模で見たらただの一般人に過ぎん。WPUと一般人との間に聳え立つ壁の高さは、到底超えられるものではないからな。その超えられない壁の高さを構成している1番の要素は、ずばり経験だ」
「経験……」
「そうだ。キュルキオネが良い例だが、彼女は内に秘めた來冥力だけで言えば開花適応レベル4相当はある。だが経験の無さが災いし、実際は普通の來冥者にすら及ばない悲惨なものであっただろう? せめて來冥力の解放の仕方でも分かっていればまた違っただろうがな。……何だってそうだ。全ては経験という土台の上に成り立っている」
話の着地点が見えない。そう思っていた矢先、レギュラオンは黙って話に耳を傾けていた司が思わず反応してしまうような事を口にしたのだ。
「そう考えていたからこそ私は、お前をWPUの人間と共に行動させようと思った」
「……え? それってもしかして……」
「ああ。ゲーテを警戒する上でお前が1番適切だからだなんだと語ったが、あれは表面上の理由だ。少しでもお前があの任務において自分の価値を自覚できるようにな」
驚愕の事実に司は言葉を失った。
言ってしまえばそれっぽい理由を彼女はそれが真意かのように説明していたのだ。結局大切なのは事実を伝える事ではなく納得感を相手に与える事なのだと実感してしまう。
「お前は確かにWPUの奴らと比べると経験の浅さが目立つ。当然の話だがな。しかしポテンシャルの話をするのであれば、お前はWPU以上のものを持っていると私は確信している」
「……!」
「お前に大切なのは経験を積ませる事。今回はお前が少しでもWPUに近付けるよう、その経験を積ませたに過ぎん」
自分にも他人にも厳しいレギュラオンがここまで自分を評価してしていると思っていなかった司は、どう反応すれば良いのか困っていた。
自覚のある才能や能力を高く評価された時は素直に感謝の意を述べる事ができるが、全くの無自覚なそれを褒められた時は、どうしても戸惑いの方が先に来てしまう。
「お前は私の想像を遥かに超える結果を出した。もっとも私が要求する能力のほんの一部分を見れただけだがな。他の部分は今後のお前を見て判断するとしよう」
外である為にぼかした表現を使用したが、リバーシとして活動する司を見て最終的な評価を下すという意味だ。
「私は慰めるという行為が嫌いだ。だが発破くらいはかけてやる。もしも本気であいつらと肩を並べたいのであれば……次に会った時に成長した自分を見せたいのであれば……そして何より、妹を殺害した犯人を1秒でも早く見つけたいのであれば……異世界の友人との別れくらいで悲しんでいる余裕など、お前には無い」
「レギュラオン……総帥……」
「良いか、司。死ぬ気で経験を積め。私から言えるのは、それだけだ。以上だ。他に用が無いなら今すぐ帰れ。取れる時に休息を取り、常に万全の状態である事も強者の条件だ」
それを最後にレギュラオンは司の横を通り過ぎ、そのままエンペル・ギア内に歩みを進めて行った。彼女が中に入った後も司は呆然と立ち尽くし、言われた言葉を脳内で反芻していた。そして彼はついに前を向き始めたのである。
「 (そうだ。僕に立ち止まっている余裕なんて無い。僕はもうリバーシ候補生なんだ。次にみんなと会った時、情けない姿を見せる訳にはいかない……!) 」
この時の司の足取りはもう重くなど無かった。顔も生気を取り戻したかの如く活き活きとしており、確固たる自分の目標を見つけたようだ。
「 (僕はもう前だけを見る。レギュラオン総帥が言った経験……それを死に物狂いで積み上げるんだ……!) 」
これがリバーシ加入試験で司が経験した事の全てである。
誰にも気付かれる事の無かったポテンシャルの高さを開花させた少年は、この数年後に見事妹を殺害した犯人を自らの手で捕まえる快挙を成し遂げた。
リバーシへの道が永遠に閉ざされる事を代償にして。




