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第198話

「 (蒼……僕なれたよ。あのリバーシの候補生になれたんだ。いつになるかは分からないけれど、でもいつか、いつかきっと、蒼を殺した犯人を捕まえてみせるから! だからもう少しだけ……待っててくれないかな) 」


 司は心の中で蒼にそう言った。この時の司は、まさか数年後の自分がリバーシの正式な加入と引き換えに蒼殺害の犯人を捕まえられるなど想像していなかっただろう。


「これにて天賀谷司の任命式を閉会とする。ふん、後は好きにしろ。私は五大機関の会談の予定が入っているのでな。これにて失礼させてもらう。この部屋はオートロックだ。司は施錠の心配をせずとも良い。それでは」


 レギュラオンはそう言うと執務室の扉を解錠ボタンで開ける。そして出て行く直前、振り返る事なくボソッと口にした。


「あまり長居し過ぎるなよ」


 その発言を最後にレギュラオンは執務室から完全に出て行った。


 邪魔者は消えてやるから別れの挨拶を気兼ねなく行って構わないという事なのだろう。


「……えっと、もしかして気を遣ってくれた……?」


「だろうな。自分が居るとせっかくの良い空気が台無しになるとでも思ってるんじゃないのか? 別にそんな事ねぇのによ」


「レギュラオンさんってたまにそういう一面を見せますよね。本当に意外です」


「うんうん。でもそこが良いんだよね~」


 彼女と長く付き合ってきたWPUの面々はレギュラオンが取った行動の意味を瞬時に理解したようで、温かい気持ちになる。


 一方、レギュラオンと知り合ったばかりかつ、人間社会にまだ慣れていないキュルキオネは何が何やら分かっていない様子であり、ずっと不思議そうに小首を傾げていた。


「ま。何はともあれだ。やったな、司」


「うん!」


 シュレフォルンの目と声は優しい。彼の心からの祝福に司は満面の笑みで返した。


 だが氷雨やシアは少しだけ寂しそうな表情になる。


「本当は一緒にご飯でも食べてお祝いしたかったのですが……」


「私たちこの後仕事入ってるんだよね~。あーあ、最後くらいつーくんとゆーっくりお話したかったのになぁ。世界も犯罪者も空気読まないよね、本当に」


 どうやら司の想像以上に別れの時はすぐそこまで迫ってきているみたいだ。


 こうして話すと歳の近い友達のような感覚に陥ってしまうが、彼らがWPUである事を忘れてはいけない。この者たちの力を必要としている世界や人は数えきれないほど存在している。


 ふと冷静になって考えると、ここで彼らの時間を独占できている司は贅沢者なのかも知れない。


「そっ……か。 (もうさよならの時間なんだ……) 」


 もう少しだけ歓談できると思っていた司は寂しさを覚えた。


 初めてできた異世界人の友達との別れ。それは、もしかしたら二度と会えないのではないかという不安が押し寄せるものであった。


 以前シュレフォルンは2、3年後に都合がついたらまた司に会いに行くと言ってはいたが、次にまた会える保証なんてない。再会が10年や20年先、いや、それどころかこれが最後のやり取りになる可能性だって十分に有り得るのだ。


「……」


 考えれば考えるほどここでお別れしたくないという思いが強まり、司は言葉が出て来なかった。


 頭では分かっている。ダブルミーニングでそもそも住む世界が違う彼らの時間をこれ以上独占する訳にはいかないと。だが氷雨やシアの言う通り、どうせなら最後くらい彼らと楽しい時間を過ごしたかったのだ。


 急速にしんみりした空気になった事をキュルキオネは察する。彼女は場の空気を暗くさせまいと明るい表情を作ってから、彼女らしい元気な声でこう言った。


「会いに行くよ! きゅる、絶対に成長して、司おにいちゃんに会いに行く! これが最後だなんて嫌だもん! ほらみんなも! 悲しい顔よりも笑顔でお別れしようよ!」

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