第197話
イジられている気がしなくもない氷雨は少々複雑な気持ちになる。
その後も何でもない会話で盛り上がろうとする雰囲気を感じ取ったのか、レギュラオンは溜め息と同時に口を開く。
「はぁ。まったく相変わらず騒がしいな、お前らは。ひとまずその辺にしておけ。私の時間は貴重かつ有限なのだ。まずは司のリバーシ任命式を優先させる。文句はあるまい?」
睨みを利かせるレギュラオンだがいつもと比べるとその表情は大分柔らかい。普通の人が見たら大差無いかも知れないが、彼女と長く付き合って来た人が見たら恐らく一発だ。
口ではそう言いつつ、今日くらいは大目に見ているのかも知れない。現にそこまで任命式を優先したいのであれば一切の雑談を許可していないはずなのだから。
「レギュ姉今日もこわーい」
「こわーい」
「きゅるちゃん! 真似しなくて良いから! シアちゃんも! お手本になるような言動を意識するように!」
「はーい。えへへ、怒られちゃった」
「にへへー」
シアとキュルキオネは互いに顔を見合わせて笑い合う。キュルキオネは彼女たちの中でアイドルのような存在になっているのだろう。何せ人外とは言え見た目は普通に美少女、中身は素直で愛くるしい幼子のような感じなのだから。
そして逆にキュルキオネからすればシアたちは大好きなテトラの友達であり、同時に仲の良いお兄ちゃんお姉ちゃんといった認識であった。
シアが少しふざけた感じを出しはしたが、以降は全員任命式に相応しい空気の元で動き始めた。
一同はレギュラオンのデスク前に2列かつ列同士は距離を開けた状態で縦に並び、右側の列組は左を、左側の列組は右を向く形を取る。
任命式は当然レギュラオンと向かい合う形で行われる為、デスク前に司が立てば彼は左右から見守られる状況になっている訳だ。正直少し恥ずかしいものがある。
「さて。それではこれより、天賀谷司のリバーシ任命式を執り行う。司は前に」
「は、はい!」
司はドキドキしながら1歩ずつ前に進み、レギュラオンのデスク前に立つ。
こうして考えるとシュレフォルンたちが同じ空間内に居てくれるのは、緊張を和らげてくれるという意味で有り難い話なのかも知れない。
まるで卒業証書授与式のような感じだ。
レギュラオンは司が目の前までやって来ると、彼の目を見ながらお決まりの口上を述べた。恐らくこれまで何十回と口にしてきたのだろう。もはや暗唱できるレベルになっているに違いない。
こういう言葉を聞くと合格の実感が最高レベルで湧くのである。
「天賀谷司。今日この日をもって、お前をリバーシ候補生に任命する。なお本メンバーへの登録にあたる試用期間は4年間とし、期間満了時に再度適性判断を実施する。試用期間中もしくは期間満了時にその適性が無いと判断した場合、リバーシへの道は永遠に閉ざされるものであると認識しろ。以降お前は身も心もエンペル・ギアに尽くし、いついかなる時も忠誠を誓う存在であるのだと自覚を持て。以上だ。リバーシへの加入並びにエンペル・ギアへの忠義、心より歓迎する」
そう言ってレギュラオンは最後にスッと手を出した。
「はい。リバーシ本メンバー登録を目指して頑張ります!」
司は笑顔で、そしてやる気に満ち溢れた声で彼女の握手に応えた。
「ああ」
2人の握手時間は数秒という短い時間で終わった。この握手はリバーシへの仲間入りを果たした証として行われる。
証書や勲章のような目に見える物は与えられる事は無い。もしもその証がリバーシを示す物として世に広まった場合、バレてしまう可能性が上昇するからだ。故に物足りなさは正直否めないが、この程度で済まされているのである。




