第194話
このシャックスとのやり取りに時間を要したレギュラオンは、テトラたちの元に転移するのが想定より遅くなった訳である。
実際にセレーナの試験会場地下に転移後、ゲーテを逃がした大きな部分はシャックスとの約束を果たす為、もっと言えば女性受験者の命を救う為であった。
当然レギュラオンがテトラに言ったクオリネが加勢する展開を避ける為もあるのだろうが、大部分はそこに違いない。
司とテトラがレイクネスと死闘を繰り広げている間、レギュラオンたちもまた別の問題を解決する為に奔走していたという訳だ。
そして地下での死闘から3日後。
シャックスのボスは犯罪者ではあるものの約束はしっかりと守るタイプのようだ。
ゲーテはレギュラオンによって肉体的に痛めつけられたが、それでも彼は女性受験者をレギュラオンの元へと連れて来た。彼曰くレイクネスを倒したにも拘らずゲーテを逃がしてくれた事には素直に感謝し、ゲーテを痛めつけた件については不問にするとの事。
この対応にレギュラオンは特に礼を言う事は無かった。元々シャックスボスの要求はゲーテを逃がす事であり、そこに五体満足でという条件は含まれていなかったのだ。故に、約束を守るのは当然の事だと語った。
『まったく。敵わないな、あなたには。どうせなら一切の危害を加えずに逃がして欲しいと頼むべきだったか。もっとも、もう遅いがね』
そう言った彼は満足気な表情と共に両手を差し出した。
こうして彼はレギュラオンから連絡を受けた事で駆け付けたシャックス担当のWPUに連れて行かれ、その長い犯罪人生を終わらせた。罪の重さや來冥者としての危険度から、脱出不可能の監獄異世界に収監されるようだ。
これで元シャックスのボスは監獄異世界で死を待つだけの身になり、ゲーテが正式に次のボスになったのである。
ちなみにシャックスに人質にされていた女性受験者のリバーシ加入試験に対する救済措置だが、もしも望むのであれば次回の試験参加を特別に認めるとレギュラオンは伝えた。
だが今回の件がトラウマになったようで、自分は危険な世界には飛び込まず、大人しく平凡な人生を送りますと断ったらしい。
女性受験者の返答に対し、レギュラオンは静かに頷くのであった。
『そうか、分かった。それにしても、此度の件は本当に済まなかったな』
『い、いえ! あ、あたしがボケッとしてたのが悪いので! こ、こんなんだから、あ、あのレイクネス? って人に簡単に襲われちゃうんですよね。……本当にあたしって周りの優秀な人に迷惑ばかり掛けちゃって……あ、あはは……困ったものですよね……』
『……』
もうリバーシに関わる事の無くなった自世界の一般人にはどうやら優しい一面を見せるようで、レギュラオンは彼女の頭に手をポンと置いた。
『そう自分を責めるな。お前には何の責も無いのだからな。今はとにかくゆっくりと休むが良い。……お前が無事で本当に良かった』
『~~~!?』
圧と不機嫌顔で恐怖の対象としてしか映っていなかったレギュラオンが、この時ばかりは優しく見えた。そして世界的な犯罪組織の一斉検挙よりも自分の命を優先してくれた事が女性受験者は非常に嬉しく、普段のレギュラオンからは想像できないギャップにやられたのか目がハートになっている。
『は、はいぃ……レギュラオン様ぁ……』
『……?』
1人の女性を目覚めさせてしまったなど、さすがのレギュラオンも気付いていないみたいだ。このようにしてレギュラオンの厄介ファンは増えていく訳である。
レギュラオンがテトラに話したシャックスとの間に発生した一悶着の全貌はこれで全てだ。結果から見れば女性受験者の命は守られ、長年WPUが追い続けていたシャックスのボスの逮捕もできた。この結末はシンプルに喜ばしい限りだろう。
だが喜んでばかりもいられない。犯罪者ゲーテを取り逃がした事に変わりはない上に、司とテトラの負ったダメージは深刻なものであるのだ。それに加え、キュルキオネに関しても色々と問題は山積みだ。




