第193話
『奴らの要求はあんただ、レギュラオンさん』
『ふん、なるほどな。お前らが今居る世界と居場所を教えろ。すぐに向かう』
『……! さっすがレギュラオンさん! 話が早いな。俺らが今居るのは――』
レギュラオンは異世界転移する上で必要な情報を受け取ると、一瞬にしてその姿をアルカナ・ヘヴンから消し、彼らが待つその世界へと向かったのだった。
該当世界にレギュラオンが転移した時には、既に一触即発といった空気であった。
シュレフォルン、氷雨、シア、そしてシャックス担当のWPUのメンバー数人が睨みを利かせ、シャックスのボス含めた構成員と対峙している最中だ。
転移した後のレギュラオンは挨拶や改めての状況説明を要求する事なく、早速前方10メートル付近に居る、車いすに座っている老人に声を掛けた。
今年で74歳になる彼こそシャックスの現ボスであり、レイクネスにゲーテの護衛を依頼した張本人でもある。もう足を上手く動かせないのか車いすが必須の生活を送っているようだ。
だが老いてはいてもWPUからずっと逃げ続けてきた大物犯罪者だ。その目は未だ衰えを知らない鋭さと光を放ち、犯罪組織のボスに相応しいオーラは滲み出ている。
シャックスボスの真の要求は案の定と言うべきか、ゲーテを含めた自分たちシャックスを今は見逃して欲しいというものだった。
その要求において話を有利に進める為に女性受験者を人質にしたようだ。
つまり今この瞬間はもちろん、仮にレイクネスを倒してゲーテを捕らえられる状況に追い込んだとしても彼を敢えて見逃す選択を取って欲しいという訳だ。
当然ながら断った場合は女性受験者を容赦なく殺すとの事。
なお彼がレギュラオンを呼び出した理由はすぐに判明した。曰く1人の人間が生きるか死ぬかの重要な決断を、まだ10代の若者に下させるのはあまりにも酷であるという慈愛の精神でレギュラオンを呼びつけたとの事。
WPUナンバーワンかつ今回のゲーテの件において全指揮を執っている彼女ならば、その決断を下すのに適任だろうと判断したようだ。
この話に対し、レギュラオンは目を閉じて考え始める。その思考の時間は人質にされている女性受験者からすれば生きた心地のしない地獄のような時間だった事だろう。
いきなりWPUやシャックスといった世界規模の大物たちに囲まれ何が何やら分からないといった様子だが、試験開始初日から今に至るまでシャックスと共に行動し、そしてWPUとの会話で彼らがどういう存在なのかはある程度把握できているはずだ。
だからこそ人命を捨ててシャックスの逮捕を取るべきか、それとも女性受験者の命を取るべきかでレギュラオンが悩む気持ちが理解でき、そして生殺与奪の権利が向こうに握られている事実には恐怖でしかなかったのだ。
痛いほどの沈黙が流れ、シュレフォルンたちは全員固唾を呑んで見守る。
やがてレギュラオンは目を開き、自身の決断を伝えた。
『要求を呑もう』
その発言に女性受験者は心の底から安堵し、彼女に感謝した。WPUの面々はレギュラオンならば絶対に命を切り捨てるかと思っていたのか驚いている。
だがすぐに自世界の民であるが故に守ったのだろうと結論付けられ、一同は勝手に納得していた。
何とか女性受験者を助ける方向で話は穏便に進み、その後は以降の具体的な流れの説明を受ける事に。
要求を呑むと言ってもすぐに彼女を返す事はしなかった。ゲーテが無事にセレーナから逃げ延びられた事実を確認してから3日後、女性受験者と共にシャックスボスはレギュラオンの元へ訪れるとの事。
どうやらシャックスボスは今回の件を最後にシャックスを引退し、ゲーテを次のボスにするようだ。
つまり彼にとって最後の仕事は仲間を守る事であり、レギュラオンの所に自ら向かうのは言わば出頭行為のようなものであった。これまで長く犯罪行為に手を染めた人生の締め括りは出頭こそ相応しいと彼は静かに語っていた。
その後約束は必ず守るとお互い宣言し、女性受験者を取り巻く問題は一旦の解決を見せる。これで彼女が無事に帰還できれば完全解決だ。




