第192話
今彼らはどの世界に居るのか。そして人質として捉えている男は本当に人質として機能するのか。
逃亡先の対象が全世界ともなると、やはりWPUと言えど1日2日で行方を掴めるものではない。そして時は流れ、司とテトラが地下に向かう事になった日の朝になっても一報が入る事は無かった。
なお、その間レギュラオンは、アルカナ・ヘヴンでの仕事とも並行で全ての指揮を執るという異次元のマルチタスク能力を披露していた。レイクネスの件に全リソースを割けないのは一世界の王であるが故のデメリットと言える。
時系列的には地下へ向かう準備が整った司とテトラが部屋の隠し通路のロックをチップで解除し、レギュラオンが残した書き置きによってテトラが彼女の執務室に転移した辺りだろう。レギュラオンは部屋にやって来たテトラにキュルキオネの事を伝え、界庭羅船を返り討ちにする計画を密かに立てていた。
もっともこの時のレギュラオンはキュルキオネの事を正しく認識していなかった為に、そのような会話が行われた訳だが。
『 (界庭羅船やゲーテの方はキュルキオネが居る以上、私がすぐに加勢せずとも恐らく問題無い。これで残る問題はシャックスの方だな) 』
アンデッド討伐の事やキュルキオネの事を知ったテトラがセレーナに帰って行った直後の事である。
ようやくゲーテおよび界庭羅船の方が一旦落ち着いたと勘違いしているレギュラオンの元に、シュレフォルンから連絡が入ったのだ。テトラからすればある意味入れ違いのようなものであった。
『もしもし、聞こえるか!? レギュラオンさん!』
『シュレフォルンか。私に連絡してきたという事は進展があったと見て間違いないな?』
まさに息つく暇も無い。アルカナ・ヘヴンの王兼WPUメンバーである彼女に休息の時など引退時まで訪れないのかも知れない。
『ああ! ついにシャックスのボスが居る世界を特定して、今対峙しているとこだ。他にも構成員や幹部が何人か居る! ただ……』
『ただ、何だ?』
シュレフォルンはレギュラオンが一切想定していなかった展開を口にした。
『レイクネスと入れ替わったっつー例の女受験者だが、奴らの手に落ちてやがった。俺らがシャックスの男をそうしているように、向こうもその女を人質にしてる』
『なに……!?』
さすがのレギュラオンも動揺を感じさせる声を出した。
シャックスだけでなく女性受験者の居場所も特定できたのはシンプルに喜ばしい事ではあるのだが、問題はその場所だ。アルカナ・ヘヴンでもセレーナでもない全く無関係の世界、それもシャックスの所に居たなどあまりにも予想外であったのだ。
シュレフォルンからの話をまとめるとこうだ。
レイクネスと契約を結んだシャックスのボスは、彼女が任意の受験者と入れ替わる形で会場内に侵入するつもりである事を聞くと、その入れ替わり対象の受験者を自分たちに引き渡してくれと言ったみたいだ。
今回ゲーテはリバーシ加入試験という舞台で大きく動く事になる。いくらレイクネスの圧が抑止力になるとは言え、WPUの人間が全く動かないなど考えられない。
特にレギュラオンは庭を荒らされているかのような気分になる事間違い無しであり、どうにか策を講じて対応してくるはずだ。
だからこそ何かあった時の保険は必要なのである。そしてシャックスのボスはレイクネスと入れ替わる女性受験者を人質にする事を思い付いたようだ。自世界の一般人が人質にされたとあれば、レギュラオンも過激な動きはできないと踏んで。
『なるほどな。状況は把握した。それで、向こうから何か要求はあるのか?』
金か、それとも人質を返す代わりに今回は見逃してくれと懇願しているのか。
いずれにせよこうしてWPUと対峙してしまった以上、何らかの要求は既にされていると見て然るべきだろう。
シュレフォルンはその質問に対して即答してみせた。




