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第188話

「……」


 レギュラオンの質問にテトラは言葉に詰まった。


 1度も戦闘を経験した事がなく、來冥力の解放の仕方すらよく分かっていない生まれたばかりの子ども。それが今のキュルキオネだ。戦力どころか成人男性の普通の蹴り1発で気絶させられてしまうほどに弱く脆い。そんな者と共闘など有り得ない話であった。


「私が先ほど口にした『この状況で』というのはそういう意味だ。ゲーテの計画を知った時はキュルキオネを利用する事で逆に返り討ちにしてやると思っていたが故に、戦闘に発展するような流れを考えた。だが、いざこの惨状を目の当たりにすれば計画を変えざるを得ない。今は耐え、目の前の小さな勝利を見送るのが最も賢い選択だ。キュルキオネは今後の生活次第では化ける可能性がある。今ここでクオリネが加勢し、文字通り全員が殺されたら終わりなんだ。それは可能性の芽が、完全に燃やされるのと同義だからな」


 その言葉にテトラは思わず考えてしまった。


 もしも本当に全員が殺されてしまったらそれはどれほど絶望的な結末なのかと。


 世界に通用するポテンシャルを秘めた司。來冥力だけで言えば開花適応レベル4相当のキュルキオネ。レイクネスを倒せるほどの実力者であり、WPUナンバーワンのレギュラオン。


 これらが一斉に葬られ、戦線離脱してしまうのだ。そうなってしまえば界庭羅船に勝つなど本当に夢物語になってしまう。特にレギュラオンを失うのは彼らにとって埋めようがない大きな穴になるはずだ。


 確かにクオリネが既にこの世界から姿を消していた場合、仮にフローラが未だ潜んでいたとしてもレギュラオンであれば対処できたかも知れない。だがもしもクオリネが居た場合は今彼女が話した最悪のケースに繋がる可能性だってある。


 レイクネスに勝ち、彼らが護衛する対象を逮捕できれば歴史上初の白星となる。しかしながらそれはあまりにも危険なギャンブルであった。


 その事を理解しているからこそ、キュルキオネの現実を知ったレギュラオンはレイクネスに勝てる実力を有しているにも拘らず敢えて手加減をした。戦闘不能レベルに追い込む事はせず、実力差だけを見せつける事でこの世界から追い出す道を選んだ。


 結局レギュラオンが今回の件で最も気にしていたのは、最初から最後まで『クオリネが加勢しない事』の一点であった。だからこそ彼女はキュルキオネの事を知るまでは戦う道を選ばず、穏便に済ませようとした。


 そしてキュルキオネの事を知ってからはクオリネが加勢しても問題無いはずだと勝機を見出し、実際に現実を見てからは再びその道を諦めたという訳だ。


「 (レギュラオンさんはレイクネスに勝てるはずなのに、敢えてその世界を捨てた。界庭羅船に初めて黒星を付ける事ができるチャンスだったのに、考え得る最悪の結末が訪れるリスクを回避したんだ……。ああ……やっぱり、凄いなぁこの人は。目の前の事で精一杯の私とは違うよ) 」


「お前は私を強いと言ったな。確かに私の來冥力ならばフローラまでなら倒せるかも知れない。だが界庭羅船上位3名の前では、そんなものは無力同然だ。何なら來冥者として覚醒したキュルキオネにも私は勝てない可能性が大いにある。私の來冥力ですらまだ届かない……そんな世界に奴らは居るのだからな」


「レギュラオンさんでも……届かない世界……」


 形態変化無しでもレイクネスを打ち負かしたレギュラオンを見ていると、どうしても彼女だったらきっとという気持ちが湧いてくる。


 だがレギュラオンはそんな考えは甘いのだと現実を突き付けた。


 WPUが束になっても、そしてレギュラオンですら勝てない來冥者が世界には居る。その事実は界庭羅船がいかに遠い存在なのかを改めて思い知らせてくれた。


「だがな、テトラ。我々は今回の加入試験を通じて、その世界に届く可能性がある來冥者に出会えたんだ」


「……うん。司くんと、きゅるちゃん……」


「その通りだ。2人ともまだ自分の來冥力については自覚すらしていないだろう。だがいつかきっと、界庭羅船に対抗する上での切り札になる。私はそう信じている」


「そっ……か。ふふ、だってさ、司くん、きゅるちゃん。楽しみだなぁ私。2人が、どれくらい成長……するの、か……」


 それを最後に限界を迎えたのかテトラも司同様にプツッと意識を手放した。これでこの空間にはレギュラオンの周りに3人が気絶状態で居るという事態に。


「長話が過ぎたか。司にテトラ……本当によく頑張ったな。見事だった」


 彼女は普段こんな事は基本的に言わない。そんな彼女ですら思わずそう口にしてしまうほどの功績だったのだろう。


 こうして、司にとって最初で最後のリバーシ加入試験は幕を閉じたのであった。

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