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第183話

「な……! テメェは……ッ!」


 レイクネスは驚愕で目を見開く。


 転移によって突然出現したレギュラオンが、レイクネスの振り下ろした金砕棒を片手で受け止める事で司への命中を阻止したのだから。


「れ、レギュラオンさん……」


 テトラは嬉しさと安心感からか、堪え切れないように涙を流した。


「神聖な試験会場に土足で踏み込んだ以上、覚悟はできているんだろうな。……ゲーテとか言ったか? お前もだ。ムショにぶち込まれる時、五体満足の状態であると思うなよ」


 レギュラオンの目はいつにも増して鋭く、そして声は低い。本気で怒っている事が容易に分かり、本職のような迫力があった。


「 (ま、まずい! この女が来るなんて完全に誤算だ……レイクネスさんがここまで暴れてる状況下で来ないからには、最後まで傍観を決め込むと思ったのに……!) 」


 ゲーテはレギュラオンを前にガクガクと震える。彼女を怒らせるとどうなるか、一応はエンペル・ギア職員として働いていたが故に分かるのだ。


 レギュラオンには躊躇という概念が無い上に、やると決めた時は倫理観など容赦なく投げ捨て手加減を一切しない。


 まさにゲーテにとって最も恐れていた事態が訪れてしまったのである。


「 (レイクネスさん、僕はもうこの世界に未練はありません。キュルキオネの事は完全に諦めます。だから逃げましょう! 連戦続きのあなたがこの女と無理に戦う必要なんてありません! 僕の身の安全を確保する事だけを考えてください……!) 」


 ゲーテはレイクネスに目でそう訴え、首を横に振る事で伝えようとする。偶然にも今レイクネスはゲーテ側の方を向き、レギュラオンは彼に背を向けている状態だ。ゲーテのその行動にレギュラオンが気付く事は無い。


 キュルキオネが自分の物にならなかった事に腹を立て、何とか金を取り戻そうとオークションで出品しようとまで考えていたゲーテだが、命の危機が迫ってはそんな事どうでも良くなったのだろう。


 今回の件は授業料として捉え、また一からやり直せば良い。そんな風に考えていた。


「……」


 レイクネスはゲーテの目や表情、仕草から彼の言いたい事を何となく察する。だが戦わずして逃げるのは戦って負けるよりも気分が悪い。


 そんな界庭羅船としてのプライドがゲーテの願いを簡単に破り捨てた。


「 (情けねぇ目で、不安そうな目でオレを見んじゃねぇよ……! このオレに、怖いから逃げましょうってか? 負ける可能性があるから戦略的撤退をしてくださいってか? ざけんじゃねぇ! オレは……オレは界庭羅船なんだぞ! こんな女に、オレが負けるはずねぇ!) ……ちょうど良い。テメェらに実力の差ってやつを見せてやらぁ」


 ボソッと口にしたレイクネスは金砕棒をもう1本召喚し、それを片方の手で持ってからレギュラオンに振るう。


 彼女のその行動を見たレギュラオンは完全にスイッチを切り替えたようだ。


「……そうか。それがお前の答えか」


 レギュラオンは金砕棒が自身に命中するよりも早く、片手で弾くように裏拳を金砕棒に命中させて粉々に粉砕した。


「こんの野郎! ナメんじゃ……」


「ふん……」


 興味無さそうな冷たい目をレイクネスに向けたレギュラオンは、金砕棒を掴んだ状態のまま、空いている方の手を使ってがら空きの彼女の腹に拳をめり込ませた。


「ごはぁっ!」


 唾と血が混じった液体を口から吐き出したレイクネス。パンチと同時にレギュラオンが金砕棒を掴んでいた手を放した事で、レイクネスは顔を歪ませながら数歩後退る。


 司とは比較にならない圧倒的な來冥力と破壊力。そしてその一撃を形態変化せずに放てる異次元さ。開花適応レベルでは司を上回っているとは言え、彼女も彼女で相当な化け物である事が確定した瞬間であった。

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