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第三十三話 櫛八玉神







「……!……タツ君!」

淤加美が倒れこんだタツに駆け寄る。呼吸はしているが、意識はない。すると

「……今はいいが、すぐに内臓の筋肉まで痺れて最後は死に至る。もう予断は許さない状況だ……」

と、友井が淡々と言う。

「……き、貴様ぁ!」

立ち上がる近藤を、今度はラサールが引き止めた。

「……もう、一刻の猶予もない。早く次の勝負を……」

と、ラサールは言いながら、タツが座っていた椅子に座った。するとフラフラと淤加美が倒れた。

「……体が小さい者は、毒の回りも早い。淤加美神がチェックメイトかな?」

友井が椅子に胡座をかきながら言うと

「……か、神人に効く毒薬があるなんて……」

と、淤加美が倒れたまま呟く。最初の即効性のない毒が回ってきたのだ。淤加美が一番体が小さい為、最初に毒が回ったのだろう。クッキーや近藤、ラサールはまだ平気そうだ。

「アタシが作った特製だよ。神人にも人間にも効く……」

友井が得意気に言うと

「次の相手はアナタでイイの?」

土屋が目の前に座るラサールに聞く。

「そうだ。手早くたのむ……」

ラサールが低い声で言う。

「ラサールさんなら、間違いなく勝てる。何せ『勝利への道標』があるからな」

近藤が勝ち誇ったように言うと

「……その『勝利への道標』が、現時点ではオレは勝てないと示している……いくら未来が見通せても、未来を変える事は出来ない。『勝利への道標』は、仕入れた情報から勝利と言う未来を作り上げてくものだからな……便利なように見えて、意外と不便な物なんだよ……」

ラサールが呻くように言う。

「……え?」

近藤は驚きのあまり絶句してしまった。たしかに現時点では勝てないだろう……。櫛八玉神……土屋珠江の能力が何なのか?それがわからないと、大和辰巳君の二の舞いだ……。と、ラサールが考えている間に、土屋が次のチョコレートが乗ったトレーをテーブルに置いた。挿絵(By みてみん)

「シャッフルをどうぞ?」

土屋が言うと

「……後ろを向いて、見ないようにして貰えるかな?友井さん、貴方もだ……」

と、ラサールが土屋と友井に言う。何かタネがあるのは間違いない。とにかく疑わしいものを、しらみ潰しに一つずつ消していくしかない。まさかとは思うが、土屋が耳にイヤホンを付けていて、友井が隠しマイクで教えている可能性もある。二人は黙って後ろを向いた。その隙にラサールがチョコレートを素早くシャッフルする。念の為、向きも全て変えてみた。

「……どうぞ」

ラサールが言うと二人は振り返った。

「誰かコイントスを頼む。小銭を持ち合わせてなくてな……」

ラサールが言うと、クッキーが財布から10円玉を出した。

「私は裏にする。構わないかな?」

ラサールが言うと

「えぇ、もちろん。じゃあ、アタシが表ね」

と、土屋が言う。マジシャンなどは巧妙な話術でリードする。そして上手く相手の注意を逸らしたり、目線を誘導したりするのだ。なのでこちらが先にリードする……そうすれば何かとやりにくいはずだ……。クッキーが投げてキャッチしたコインは、またも表だった。

「あら、先攻ね……」

土屋がニンマリと笑う。そして

「……色々と考えてるみたいだけど、それでは勝てない……アタシの能力には……」

と、言いながら六個のチョコレートの内、五個を自分の所へ持ってきたのだ。

「……ば……バカな!」

近藤が思わず声を上げた。残った一個が必然的にラサールの分だ。ラサールはジッと土屋を見つめる。そんなラサールを尻目に土屋がチョコレートを、一個また一個と口に運んでいった。

「これはもはや、タネとかそういうレベルじゃない……」

ラサールがその様子を見ながら言う。そして最後の一個になると

「さぁ、最後のは同時に」

土屋が最後の一つを摘みながら言う。ラサールが

「……貴方の能力……それは……」

と言いながら、自分のチョコレートに手を伸ばす。土屋が自分の口に最後のチョコレートを放り込んだ。

「……透視能力……アナタは中身が全て見えている……」

ラサールが言いながら、チョコレートを口に入れた。

「さっすが。ご名答!」

嬉しそうに言う土屋の前で、ラサールがゆっくりと倒れていった。




「楽しかったぁ!」

ひーちゃんが叫びながら凪と一緒に走っていく。

「コラァ、走るなぁ!」

天音が後ろから叫んだ。途端に二人が走るのを止めて歩きだした。天音の怖さはよく知ってるからだ。

「……今日はごめんね。ありがとね」

天音が隣を歩く将吾に言う。

「……あぁ、いえ。気分転換になったし……」

将吾が苦笑いで返した。水族館を楽しんだ一行は、少し早めの帰路についたのだ。水族館から出ると周辺の地域全体が綺麗なショッピング街になっていて、飲食店も数多く立ち並ぶ。ここからバスに乗り、駅まで行って電車で帰るのだ。今は水族館のゲートを出て、バス停に向かって歩いている所だ。まだ少し時間が早いせいか、帰路につく人もあまりいないようだ。バス停に着くと、バスを待っているのは女性が一人だけだ。水族館や遊園地の閉園時間が近づけば、もっと混雑するだろう。時刻表を見ると、10分後に来るようだ。天音、将吾、ひーちゃんと凪は、女性の後ろに並んで待つ。ひーちゃんと凪は『いっせーのせっ』と言う遊びを、将吾を巻き込んで始めた。それぞれが両手の拳を合わせて突き出し、『いっせーのせっ』の掛け声で親指を立てる数を予想して言い合う遊びだ。予想が当たれば片手を引っ込めて、両手共引っ込められれば抜けられる。三人が輪になってゲームに夢中になっていると、最初に並んでいた女性がその様子をジッと見ている。

「……あ、うるさいですよね。ごめんなさい」

天音が気づいて声をかけた。すると

「あ、いえ……大丈夫ですよ。懐かしいなぁ、と思ってただけです」

女性が笑顔で言う。長い黒髪のポニーテールで、革ジャンを羽織っている。キリッとした目つきで大人っぽい顔立ちだが、おそらく将吾と同じぐらいの二十代だろう。挿絵(By みてみん)

「お姉さんもやる?」

ひーちゃんが女性に聞くと

「やろうよ、やろうよ!」

と、凪も女性を誘う。

「……お、おいおい」

将吾が慌てて嗜めるが

「いいの?……よぉし、やろう」

と、女性が笑顔で乗ってきた。

「天音ちゃんも一緒に!」

ひーちゃんが天音も入れと言い出し、バス停の前で五人で遊び始めたのだった。しばらく遊んでいるとバスが来た。五人はバスに乗り込んでいく。女性はバスの一番後ろの席へ歩いていく。ひーちゃんと凪が先にバスに乗り込み、吸い込まれるように女性についていった。天音と将吾もひーちゃん達の後についていく。女性がバスの一番後ろの右側に座り、ひーちゃんと凪が真ん中に座り、天音と将吾がバスの左側に座った。バスには中年の女性の二人組と、高齢の女性が一人、会社員らしき男性が一人乗っていた。

「何年生?」

バスが走りだすと、女性がひーちゃん達に聞く。

「四年生」

「三年生」

ひーちゃんと凪が続けて答え、リュックに付いてる名札を見せた。

「八千代市立第二小学校、蛯原妃瑠子ちゃんと伊坂凪君か……。でも見知らぬ人には、名札を見せない方がイイよぉ。世の中、悪い人は沢山いるから……」

女性が笑顔でひーちゃん達に言うと

「じゃあ、お姉さんは?お姉さんが自己紹介すれば、見知らぬ人じゃなくなるよ?」

と、ひーちゃんが言う。

「まぁ……そうだね。アタシは佐久間恋乃葉(さくまこのは)。八千代の隣の日川市に住んでるよ」

女性が苦笑いで答えた。八千代市は大きな市で、その隣に小さな日川市や立野市が隣接しているのだ。

「……ちょっ、ちょっと……」

天音が慌ててひーちゃんを嗜める。さすがに見知らぬ人に、これ以上構うのは申し訳ないと思ったのだ。すると

「……あぁ、大丈夫ですよ。子供と話しをするのは好きなんで……」

佐久間が笑顔で天音に言う。見た目は気が強そうに見えるが、感じのイイ人だ。

「……すいません。ご迷惑じゃないとイイんだけど……」

天音は苦笑いで返した。するとバスが停留所に止まる。この辺は繁華街が近い場所だ。停留所からはガラの悪そうな男性と、これまたガラの悪そうな女性がバスに乗り込んできた。男性は長めの金髪で後ろに流している。目つきが鋭く、無精髭を生やし、大柄な体格だ。女性も目つきが鋭く、肩までぐらいの黒髪で、気が強そうな顔立ちだ。二人共、三十代ぐらいだろう。二人はゆっくりと乗客を見ながら、バスの真ん中ぐらいで手すりに掴まり立った。将吾がそんな二人に気づいた。……あれ?どこかで見覚えが……?将吾は男の顔をどこかで見たような気がしたのだ。変にジロジロ見るのも失礼なので、将吾が男に気づかれないようにさりげなく見る。知り合いではないし、他人の空似かな……?う〜ん……気のせいか……?将吾は一人で首を傾げていた。




 

「バカな!透視能力だと?……そんなのイカサマだ!」

近藤が驚いて叫ぶ。だが、頭を押さえて少しふらついているようだ。最初の毒が回り始めたのだ。

「……イカサマは見破れなければイカサマじゃない……って言うじゃない?今のは惜しかったね。もう少し、早ければ……」

友井が言いながら、コーヒーを口にする。するとクッキーが無言のまま、ラサールが座っていた席へと座った。

「お、おい……。中身が見えてるんじゃあ、勝ち目なんてないぞ……」

近藤がクッキーに言うと

「……ちょっとしたルール変更がしたい……」

と、クッキーが土屋に言う。

「……どんな?」

土屋が怪訝な顔で尋ねると

「……一度に何個も取るのはなしだ。必ず一つずつ。それとオレの先攻からで頼む」

と、クッキーが言う。

「……つまり、アンタが三回連続で毒入りを引かなければ、必然的に勝ちが決まる……珠ちゃんの透視能力は関係なく、己の運に賭ける訳ね……」

と、友井が顎に手を当てながら言うと、クッキーが頷いた。

「……イイわよ。自分に全てを賭ける……なんかイイじゃない。でも最後の二個になったら、同時に選ぶ事にしない?」

土屋が笑顔で言いながら、新しいチョコレートが乗ったトレーをテーブルに置いた。クッキーが頷くと

「……や、やっぱりオレがいった方が……お前なら最後に残ったとしても、時量師神の力で……」

と、近藤が言いかける。

「……いや、少量とはいえアルコール入りのチョコレートだ。お前は帰りの運転があるだろ?帰りの心配しとけ。それにな……時量師神の力は使わねぇ……」

と、クッキーが言いながらニヤリと笑った。

「……もう一度言う。時量師神の力は使わねぇ」

クッキーが言いながら迷わず一つ目のチョコレートを口に放り込んだ。クッキーがチョコレートを噛み砕きながら、顎で土屋を促す。土屋が残りの五個の中から一つを選び口にした。残りは4分の1。クッキーが四つのチョコレートを吟味する。挿絵(By みてみん)

「……アンタが最後までチョコレートを引かない確率は31.25%……」

友井が呟くように言うと、クッキーは一つのチョコレートを選び口に放り込む。土屋はクッキーの反応を待たずに、三個の中から一つを選んで口にした。答えがわかっているからだ。そしてチョコレートは残り二つとなった。

「……じゃあ、せーので同時に選びましょう。食べたい方のチョコレートを指差して。いくわよ……」

土屋が言うと、呼吸が荒くなってきた近藤が固唾を飲んで見守る。

「……ここまで来れれば、オレの勝ちだ……」

クッキーが呟くと

「せーのっ!」

土屋の掛け声で、クッキーと土屋が同時にチョコレートを指差した。クッキーは右のチョコレート、土屋は左のチョコレートを指差している。綺麗に別れた形だ。土屋は考えていた。この男、時量師神はアタシが答えを知ってる事がわかっている。つまりアタシが指す方に毒が入ってないと考えるはずだ。そして最後に口に入れる瞬間、時量師神の力を使ってチョコレートを入れ替える……。だから『ここまで来れれば、オレの勝ちだ』と言ったに違いない。この男は絶対に最後に力を使う。なぜなら、時量師神の額には汗が浮かんでいるからだ。最初の毒が回り始めて、今座っているのもやっとのはず。かなり焦っているはずだ。時量師神の力を使わないとか言ってたけど、間違いなくブラフ。ハッタリだ。そう言っておけば、アタシが安心して毒入りじゃないチョコレートを選ぶ。この男はそう考えた……。土屋は毒入りのチョコレートを摘み上げた。クッキーはもう片方を摘み上げる。さぁ、時間軸を変えて、チョコレートを入れ替えなさい!そして二人は同時にチョコレートを口に入れた。チョコレートを噛み砕き、ゆっくりと倒れたのは……土屋珠江だった。

「……なぜ、時間軸を変えてチョコレートを入れ替えなかったの?」

友井が解毒剤の入った小型のジェラルミンケースを出しながら聞く。

「……言ったろ?時量師神の力は使わねぇって……。アンタらはオレ達を殺ろうと思えばいつだって出来た。痺れ薬なんか使わずに猛毒でやれば、少なくとも最初のタツは殺せたはずだ……。それをしねぇって事は、ただ単に遊んでやがんだな、って思ってな……どうせ八尾の婆さんから色々聞いていて、遊んでみたくなったんだろ?遊びなら、ズルしちゃあ悪りぃしな……?それに三回共当たりを引かない確率が、31.なんとかあるって聞いた時、意外と高えな……と思ったしな……」

クッキーがゆっくり倒れこみながら言うと

「……まぁ……八尾さんから聞いてはいたけど……アンタもさ……だいぶイカれてるね?」

友井がジェラルミンケースから出した注射器を、クッキーの腕に刺しながら笑った。友井は次々と解毒剤の入った注射器を、倒れた者達に打っていく。友井は医療の知識もあるようだ。しばらくすると一人ずつ目が覚めて、ゆっくりと体を起こす。

「……アンタさぁ……なんで力を使わないのよ?」

土屋が体を起こし頭を振りながらクッキーに尋ねる。

「……うぅ……友井茜……アンタとは絶対に仲良くなれない……」

淤加美がまだ体を起こせず、床に寝たまま呟いた。

「そりゃどうも……」

友井は涼しい顔してコーヒーを飲んでいる。ラサールもゆっくりと体を起こし、額を抑えながら

「なんでこんな事を……?」

と尋ねる。

「……八尾さんの知り合いとはいえ、しょうもないヤツらとつるみたくないんだ……。アタシの主義かな……?」

と、友井がコーヒーを置きながら言う。

「……なるほど……では我々はしょうもないヤツらではなかった、と言う事でよろしいかな?」

と、ラサールが言いながら立ち上がると

「……わかったよ……どうせ、アタシの力を使って『探し物』でしょ?」

友井が溜息をつきながら、カタカタとパソコンのキーボードを叩き始めた。

「で?探し物は?」

と友井が言うと、ラサールが岩田の資料を出して友井に渡す。

「岩田達夫、石筒之男神の神主だ。コイツの足取りを追ってほしい」

ラサールが言うと、友井が資料にザッと目を通した。

「……オッケー」

友井が言いながら、椅子に座り直した。そして目を閉じて軽く深呼吸をする。すると、今まで目の前のモニター以外は画面が消えていたのだが、一斉に全モニターの画面に電源が入ったのだ。そして12台並んでいるモニターに、どこかの監視カメラの映像が次々と流れ始めた。一つのモニターの画面が細かく分割されていて、それぞれ違う場所の監視カメラのようだ。つまり12台のモニターに一度に何百ヶ所かの場所の監視カメラ映像を映しだし、それが数秒でまた違う場所へと切り替わっていくのだ。

「……凄いですね……まさか、日本中の監視カメラ映像ですか?」

まだ顔が青ざめているタツが尋ねると

「そう……今はとりあえず、少し前の関西方面の全ての監視カメラに、この男が映ってないか検索中。ヒットした場所から辿って行けば、現在の居場所がわかる……」

と、友井が説明してくれた。すると、ポーンとモニターから音が鳴る。

「見つけた……。一週間前に大阪にいる……」

友井が左端のモニターの画面を指差した。全てのモニターが目紛しく監視カメラ映像を次々と映し出す中、左端のモニターの真ん中の映像だけが静止画になっていて、そこに岩田の姿が映っていたのだ。

「じゃあ、ここから追跡開始……」

友井がまたもカタカタとキーボードを叩く。すると、ポーンポーンと連続で音が鳴り始めた。

「次が名古屋……次が横浜……」

友井が言いながら、捉えた岩田の静止画をピックアップしていく。そして

「……しばらく東京を回ってたようね……うん……これが現在地……今はこのバスに乗ってるみたいよ」

と、友井が目の前のモニターに、監視カメラの静止画を拡大して映しだした。そこにはバスの真後ろを斜め上から映した映像が映っており、バスの左側からバスに乗り込む岩田の姿が映っていたのだ。その後ろには檜山メイの姿も見える。

「……見つけたぞ。すぐにこのバスが、今何処を走っているか調べよう……」

ラサールが満足そうに言うと

「……おい……これ、天音と将吾じゃねぇか?」

クッキーが画面を指差す。クッキーが指差した先には、バスの後ろの窓から後部座席に座っている天音と将吾の横顔が映っていたのだった。








[登場人物紹介]

挿絵(By みてみん)

名前:思金神(おもいかねのかみ)

別名:友井茜(ともいあかね) 茜ちゃん

年齢:不詳

守神:なし

能力:この世のあらゆる機械をハッキングする事が出来る

   パスワードなども読み取れるので、防ぐ事は出来ない

   ハッキングした機械は自由に操れる

   ハッキングした形跡は残らない

備考:神人 知恵や学問の神様

   頭が良く、あらゆる知識に長けている

   黄泉国ではなく現世で暮らしている

   誰とも交流を持たず、土屋が面倒を見ている

   八尾だけが土屋の連絡先を知っている

   力を使って危ない仕事で小遣い稼ぎをしている

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