第三十一話 手合わせ
昼下がりの晴れた都内。キイロノイズミ室長の八尾の豪邸の一室では、クッキーとアキ君がお茶を啜っていた。雨宮のアリーナライブから一か月が経とうとしていた。奈美ちゃんと米津志乃絵は時空の歪みに飲み込まれ行方不明のままだ。なんとか捜索の手立てをあれこれ考えたが、時空の歪みの中がどういう構造になっていて何処に繋がっているのか誰もわからない。捜索のしようがないまま時だけが過ぎていった。クッキーは二週間ほどで退院していた。病院から陰陽神社に戻ると、落ち込む淤加美を心配して小雪達が交代で側に付いていた。淤加美の側にはいつも奈美ちゃんがいた。だから必ず近くに誰かがいるようにしたのだ。そのせいもあってか、淤加美は比較的落ち着いているように見えた。きっと無理して気丈に振る舞っているのだろう。アキ君も普段と変わらないようにしていた。奈美ちゃんがいない……それ以外はいつもの日常が戻ってきていた。そして今日は、何やらキイロノイズミの京都総本部から、エリート捜査官が出張で東京支部に来るらしい。そして八尾の邸宅にも挨拶に来ると言うのだ。クッキー達にも挨拶がしたいとの事なので、八尾の執事が陰陽神社に迎えに来たのだ。淤加美と天音やタツ、将吾と双葉はそれぞれ仕事やら用事があって、後から合流するらしい。クッキーとアキ君は八尾の邸宅の応接間に通され、執事からお茶を頂いていた所なのだ。すると藤堂と近藤が部屋に入ってきた。
「……よお」
クッキーが片手を上げると
「あぁ……」
藤堂達も軽く会釈する。藤堂達と会うのはアリーナ以来だ。
「もう大丈夫なのか?」
藤堂がクッキーに聞くと
「……あぁ、まぁな。アンタも重傷だったらしいが、大丈夫なのか?」
と、クッキーが聞き返す。
「……お陰様でな。全て相崎奈美さんのおかげだ……」
藤堂が答えると、少し重苦しい空気になる。奈美ちゃんの事が話題になると、今はこうなってしまうのだ。
「……彼は今、室長と話しをしている。少ししたらこっちに来るそうだ」
近藤が気を取り直して言うと
「一体、どんな方なんです?」
と、アキ君が聞いた。
「キイロノイズミ京都総本部で捜査部長を努める優秀な人物だ。とある犯人を追って捜査でこっちに来たらしい」
藤堂が答えると
「京都総本部は東京支部と違って総勢百数十名の人員がいる。内、捜査員は約五十名。そのほとんどが神主で、ソイツらを束ねているのが今から会う、ラサール・タビコフ捜査部長だ」
と、近藤が説明してくれた。
「ラサール?外国人か?」
クッキーが聞くと、藤堂と近藤は顔を見合わせた。
「……まぁ、会えばわかる……」
藤堂が意味深な言い方をした直後、ドアがノックされた。部屋に入ってきたのは八尾室長ともう一人。その人物を見たクッキーが
「……おいおい……」
と、呟くように言う。八尾の後ろから入ってきたのは、スーツ姿の大きな猿だったのだ。背丈は2メートルぐらいあり、二本足で歩いている。綺麗なスーツを着ていて、ネクタイまで締めていた。
「紹介するわ。キイロノイズミ京都総本部のラサール・タビコフ捜査部長よ」
八尾がクッキー達に紹介すると、ラサールはクッキー達に軽く会釈をした。どう言う事だ?猿が捜査部長?と言うか、八尾の言葉がわかっているようだ。人間の言葉がわかる猿?ラサールをよく見ると、顔つきは猿の中でもチンパンジーに近いようだ。だが体の大きさは、まるでゴリラのようだ。クッキーとアキ君が明らかに戸惑っていると
「彼は昔、とある国の特殊な動物実験の研究施設で見つかったの。私達がその研究施設に踏み込んだ時には、何処かの組織に襲撃された後みたいで、無数の死体が転がるなか『ラサール』という名札のついた檻の中で彼は見つかったのよ。不思議な事に彼は無傷だった。そして彼はその後の調べで、とんでもない知能と神主の能力がある事がわかった。どうやら彼はその国で動物兵器として作られたみたいなの。他の国や組織に悪用されてしまう前に、私が彼を引き取ったのよ……。それが今ではキイロノイズミ京都総本部の捜査部長だなんてね……。ちなみにラサールのIQは120あって、人間の言葉が普通に喋れるわ。人間の歴史や文学、教養や一般常識など色々な事を学んでいるから、ほとんど普通の人間と変わらないのよ」
と、八尾が見兼ねて説明してくれた。
「……キミ達にはいずれお会いしたいと思っていた。これだけ名高い神々を守神としている神主達に、今まで会った事がないんでな……」
ラサールが流暢に話す。かなり低いバリトンボイスだが、はっきりとした話し方だ。そして一歩前に出て
「そこでだ……時量師神に意富加牟豆美命。せっかくだから、一つ手合わせを願いたいのだがな……」
と、言うと
「……ほぉ。総本部のエース様が稽古つけてくれんのか?神主の能力があるって言ってたが……」
と、クッキーが眉を顰める。
「動物が神主なんて……」
アキ君が呟くと
「動物でも呪力を持つ事は、充分考えられるのよ。その昔の九尾の狐や化け猫伝説なんかは有名でしょ?時に多大な呪力を持ち、人間を困らせたりしてたのよ。ラサールの神主になった経緯は不明なのだけれども、天野さんから特別措置として許可を頂いてるのよ」
と、八尾が答える。ラサールはチラリと八尾を見て
「室長、少しばかりお庭をお借りします」
と言い、スーツの上着を脱いで近くのソファに置いた。そして応接間のガラスの引き戸を開け、ネクタイを緩めながら八尾の邸宅の中にある広い日本庭園に降りていく。
「あらあら……。広い所でお願いね」
八尾がラサールに言うと、ラサールは軽く会釈をして芝生が広がっている場所まで歩いていく。クッキーとアキ君は、思わず顔を見合わせた。すると藤堂が
「……まぁ、京都総本部でも最強クラスの実力者だ。どんなもんか、見てみるのも悪くないだろ?」
と二人を促す。
「ほぉ……最強クラスねぇ」
クッキーが呟きながらラサールの後を追う。アキ君もクッキーに続いた。八尾と藤堂、近藤も観戦の為、三人並んで後に続く。八尾の邸宅の庭は広い。木や池などがある日本庭園風の所もあれば、芝生が広がり広場のようになってる所もあるのだ。周囲は高い塀で囲まれている為、誰かに見られる事もないだろう。
ラサールは芝生の真ん中までいくと、こちらに振り向く。するとラサールの背後に、鼻の長い赤ら顔の長い髭の老人が浮かび上がった。まるで天狗のようだ。
「……あれは猿田毘古神か……?」
アキ君が身構えながら言うと
「さて……どっちから行くか?」
クッキーも言いながら右腕にガントレットを装着した。
「……面倒だ。まとめてかかってこい……」
ラサールが低い声で言う。
「……なかなか舐められたもんですね。非力な僕はともかく、クッキーさんの時間軸の変更はチート級なのに……」
アキ君が両手で印を結びながら言うと
「……気をつけろよ。最強クラスと言われるからには、只者じゃあねぇだろう……」
クッキーも身構える。
「猿田毘古は導きの神。つまりは『勝利』へ導く事が出来る……。さて、あなた達二人だけで勝てるかしら?」
八尾が微笑みながら言うと
「勝利へと導くだと?勝利ってのはなぁ……導かれるんじゃなくて、もぎ取るもんだ!」
クッキーが叫びながらアキ君と一緒にラサールに飛びかかっていった。
都内の大きな通りを黒いワンボックスカーが走っている。土方が運転していて、助手席には斎藤が乗っていた。後部座席には天音とタツ、将吾と双葉と淤加美が乗っていた。用事があった者達は土方が送ってくれると言うので、みんなで待ち合わせてこれから八尾の邸宅に向かう所だ。土方と斎藤からは、ラサールに関しての一通りの説明は受けた。
「……で、そのラサールさんって方は、何の捜査で来たんですか?」
タツが聞くと
「石筒之男神の神主の岩田達夫と言う男を追ってるそうだ。関西の方で派手に暴れ回ってたが、こっちに逃げてきたらしい……」
と、斎藤が言う。
「岩田は生まれながらの神主で、傷害、強盗など前科多数。いわゆる半グレってやつです。危険な組織とも繋がりがあるようで、神主の力を悪用しまくってやりたい放題やってますね……」
土方が溜息まじりに言うと
「最近では檜山メイと言う女と連れ立って行動してたらしい。檜山は肥長比売の神主で、コイツも前科が多数ある。二人でこっちに逃げてきたと京都総本部はみてる……」
と斎藤が言いながら、岩田と檜山の資料を見せてくれた。なるほど。つまりタチの悪い凶悪犯達を追ってきたと言う訳か。
「たまにいるんだよねぇ……。神主の力を目一杯悪用しちゃう奴が……まぁ、大概は保安局か、ウチら閻魔省が成敗しちゃうんだけどねぇ……」
淤加美が窓の外を見ながら呟くと、車が八尾の邸宅に着き、学校の校門のような大きな門が開いた。門のそばには近藤が立っていて、車が門から中に入ると車に近づいてきた。土方が車の窓を開けると
「……ちょっと色々あって……ラサールさんとクッキー達が手合わせする事になってな……。今、手合わせの最中なんだが……」
と、近藤が言う。近藤までもがクッキーと呼ぶのか、などともはや誰も突っ込まない中
「手合わせ?練習試合みたいなものですか?」
と、土方が尋ねると
「まぁ、そうなんだが……割と本気モードと言うか……」
近藤が頭を掻きながら言葉を濁す。
「……とにかく庭の方にいるから、早く行ってやってくれ……」
近藤に促されるがまま、土方以外全員車から降りた。土方は車を停めに行き、他のみんなは歩いて庭に向かう。しばらく歩くと芝生が広がる広場に出た。広場にはワイシャツ姿のラサールが立っていて、その近くには誰かが倒れている。よく見ると、それはクッキーとアキ君だった。
「え?クッキー?アキ君?……なんで?」
天音が驚きの声を上げる。するとみんなの到着に気づいた藤堂が近づいてきた。
「二人共、ラサールさんに全く歯が立たない……」
と、藤堂が言うと
「……クッキーさんの時間軸の変更も歯が立たなかったんですか?」
と、タツが尋ねる。藤堂は無言のままアゴでクッキー達の方を指した。丁度クッキーがフラフラと起き上がった所だった。
「……くっそ!」
クッキーが吐き捨てるように言う。
「何度やっても同じだ。俺の『勝利』に揺るぎはない……」
ラサールが言うと
「……これで四回目か?……そろそろ限界が来ちまうな……」
クッキーが呟くように言い、ガントレットの稼動音が響く。クッキーがジリジリと間合いを詰めていくと、突然桃の形をした印がラサールの右腕に直撃した。アキ君が仰向けで寝たままの状態で両手で印を結び、ラサール目掛けて放ったのだ。一瞬ラサールが気を取られた隙に、クッキーが時間軸を変える。だが、ラサールはその直前に分身していたのだ。ガントレットで殴りかかるクッキーの前には、五体のラサールが立っている。
「くそ!またか?」
クッキーが叫びながら目の前のラサールを殴りつけた。だが、ガントレットは空振りする。すぐに近くのもう一体に殴りかかった。だが、こちらも空振り。三体目を空振りした所で、時間軸が元に戻った。その瞬間、ラサールの強烈な右拳がクッキーの顔面を捕らえた。クッキーが吹っ飛んで地面を転がる。ゴリラのような体格のラサール。その腕力は人間離れしているはずだ。
「これで五回目だ。俺が本気でお前を殺す気なら、お前は今日、五回殺されている……。久喜と言ったな?確かにお前の時間軸の変更は強い。だが法則がわかれば対処は出来る。現に簡単な幻術でこのザマだ」
ラサールが低い声で言うと、ガントレットの稼動音が完全に止まった。クッキーは気を失ったようだ。ラサールがゆっくりと将吾達を見る。
「残りの神主達か?キミ達にも手合わせ願おう。早くかかって来い」
ラサールが将吾達に言うと、全員が顔を見合わせる。
「そう構えなくてよくてよ。簡単な腕試しだと思って、胸をお借りなさい?」
八尾が微笑みながら言うと
「あー、アタシはパス。って事でぇ……野朗ども、やっちまいなぁ!全員で叩き潰せぇ!」
淤加美が将吾と天音の背中を押しながら叫んだ。二人は戸惑いながらも、将吾が布都御魂を抜き天音が身構えた。
「……全員でって……いいの?」
双葉が言いながら雷神と風神を出す。
「神主の力を使いますよ?いいですね?」
タツが確認するように言うと
「当たり前だ。四人全員で全力で来い」
ラサールが身構えながら言う。そして
「……『勝利への道標』」
「今のお前達が四人全員で全力できても、俺の『勝利』に揺るぎがない……」
ラサールが自信満々に言うと
「まさか……あなたの言う『勝利に揺るぎがない』って言うのは……『勝利が確定している』って事ですか?」
タツが草薙の剣を出しながら聞く。
「そうだ。相手の戦力や戦い方を分析して、勝てる方法を見出す。そして予期せぬ事態も全て含め、未来の勝ちを見通す力……それが『勝利への道標』だ。神通力の一つ、宿命通とも言うがな……。そして、もう一つ……」
言い終わらない内にラサールが四体に分身して、一気に間合いを詰めて四人の目の前で拳を振りかぶる。早すぎて誰も見えなかった。
「先程の分身を作り出した力……幻影術だ!」
ラサールが叫びながら拳を振り回した。
クッキーは目が覚めた。あれ?気を失ってたのか?体を動かそうとすると、全身がかなり痛む。イテテテ……あのチンパンジーの野郎、馬鹿力で殴りやがって……。井幡の時と同じように、時量師神の弱点を突かれた形だ。時間制限がある分、距離と数に弱い。つまり時間をかけられると、何も出来なくなるのだ。時間を司る神様が、時間をかけられると弱いだなんて、皮肉な話しだ。クッキーはゆっくりと首を動かすと、天音と双葉が地面に座り込み、将吾とタツが倒れているのが見えた。アイツらも来たのか……。と言うか、四人でかかっていってもラサールに敵わなかったのか?
「岬天音、お前は空手のブランクを取り戻せ。戦いの勘みたいなのが戻れば、それで充分だ。南雲双葉、お前の雷神と風神は強いが、本体であるお前自身を狙われたらなす術がない。身を守る術を身につけろ。大和辰巳、お前も同じだ。八岐大蛇は強いが、お前自身がまだまだだ。武藤将吾と共に剣術の更なる向上が必須だ……」
ラサールは全員に的確な指示を出していった。そしてラサールはアキ君を見る。
「安倍明晴、お前はお前自身も神主の力も非力だ。聞く所によると、お前は酒呑童子を倒そうとしてるらしいな?今のままでは酒呑童子はおろか、配下の茨木童子にも敵わんぞ?」
ラサールが言うと、アキ君がゆっくり起き上がり
「……僕はどうすれば?」
と聞く。
「まず体術を学べ。そして呪力の底上げ。体術で茨木童子の攻撃をかわし、酒呑童子を一撃のもとに葬り去る呪力を得よ……」
と、ラサールが言うと、クッキーもゆっくりと起き上がる。フラフラの状態だが、両足を踏ん張りなんとか立ち上がったのだ。
「……もう止めておけ。何度やっても同じ事だ……」
ラサールがクッキーに言うと
「……まだだ……まだやれる……」
クッキーが呟くように言う。ラサールは軽く溜息をつくと
「その心意気はよし。だが気合いだけでは、どうにもならん事もある。お前も自分の弱点に気づいているのだろう?『時間軸の変更の時間制限』……これがお前の弱点だ。つまり制限なく時間軸の変更が出来れば、お前の強さは本物になる。それこそまさに五神通の一つ、神足通と呼べる力だ」
と言った。
「……どうすれば、その力が手に入る?」
クッキーが尋ねると
「……さあな?一つだけ言える事は、ちょっとやそっとで手に入る力ではないと言う事だけだ……」
と、ラサールが言う。そしてラサールは八尾の近くまで歩いていくと
「今日の所はここまでにしときます……」
と、八尾に一礼した。
「そうね……では本題の方を……。岩田と檜山の足どりは掴めているのかしら?」
と、八尾が尋ねると
「ある程度の目星はついてるんですが……ハッキリとは。そこでお願いがありまして……思金神の力をお借り出来ないでしょうか?」
ラサールが八尾に進言する。八尾は少し考えた後
「……思金神……友井茜さんね……」
と呟いた。ラサールが頷くと
「……変わり者で有名な方ですので、すんなり受けてくれるかどうか……ですが、取り次ぐだけ取り次いでみます。……さぁ、では少しゆっくりしましょう。ラサールも部屋を用意してあるので、荷物を置いてきたら?」
と八尾が促す。ラサールは再度一礼すると、八尾の邸宅に向かって歩きだした。芝生の上では斎藤達が倒れてる天音達を引っ張り起こしている。クッキーも近藤に肩を担がれて歩きだした。
その日の夜、八尾の邸宅では豪華な食事会が開かれた。キイロノイズミ東京支部が勢揃いしての食事会は初めての事だ。藤堂と近藤はこの後当直なので食事だけだが、後のメンバーにはお酒も振る舞われた。
「元々、酒は飲めんからな……」
藤堂が言うと近藤も頷く。二人共、お酒が苦手なようだ。テーブルには豪華な食事が沢山並んでいる。八尾の専属シェフが腕を奮ったそうだ。最初は大人しくしていた天音も、土方と一緒に飲みだすと止まらなくなってきた。
「一美ちゃん!こっち来て恋バナしよぉ!」
天音が双葉を捕まえてソファに陣取り、斎藤に叫ぶと
「……一美ちゃんが広まったのは、お前のせいだからな……」
斎藤が恨めしそうに淤加美を見る。
「あぁ!クッキーがクッキー食べてる!」
土方が焼き菓子を食べてるクッキーを指差した。クッキーは時量師神の力の使いすぎで体が動かなかったのだ。限界突破はしてないので軽めの方ではあったが、一人掛けのソファでグッタリとビールを飲んでいたのだ。手の届く所に焼き菓子しかなく、仕方なしにふてくされた顔でビールと焼き菓子を頬張っていた所だ。
「マジ?共食いじゃん!」
天音が土方の隣に来て叫んだ。二人共、ワイングラスを手にして、顔が赤くなっている。
「共食いじゃねぇ!同じ種族にすんな……」
クッキーがすかさず突っ込むと
「……夫婦漫才かよ」
将吾がボソッと呟く。
「おぉい?将吾ぉ、聞こえたぞ?なんかツマミを持ってこい……」
聞き逃さなかったクッキーが、丁度手の届く将吾の太ももを連続でパンチした。
「イテテ……わかった、わかったって!」
将吾が堪らず叫んだ。テーブルでは八尾が上座に座って、両サイドにタツとアキ君が座っていた。その隣にはラサールと菅野が座っている。
「貴方のご両親にはお会いした事があるのよ?とても立派なご両親でした……」
八尾がアキ君に言う。アキ君の両親は陰陽神社の宮司と巫女で、黄泉国のゲートの守人をしていたのだ。
「いやいや……そうでしたか……」
アキ君が驚いて言うと
「将吾の母親には会った事あるのかい?」
菅野がウイスキーグラスを片手で揺らしながら聞く。
「えぇ……もちろん。ゲートの守人をしている方達とは、常に連絡を取り合っているのよ」
八尾が上品に刺身を食べながら答えた。
「うむ……やはり日本の酒は世界一美味いな……」
ラサールがお猪口で日本酒を飲み干して言うと
「……これ、飲みやすいですよね?」
タツもお猪口を煽りながら言う。
「……お前らが飲んでる日本酒、一本で数万円はするぞ?」
菅野がタツに耳打ちすると、タツが日本酒を吹き出しそうになる。
「ほ、ホントに?」
タツが驚いて尋ねると
「あぁ、オレのこのウイスキーも数万円はするだろうし、天音と土方がガバガバ飲んでるワインなんて、ん十万円するだろうよ……」
菅野が意地悪そうな笑みを浮かべて言う。
「……そうね。後で皆さんに請求しようかしら?」
八尾が和かな笑みを浮かべて言うと、タツとアキ君の顔が青ざめ、藤堂と近藤が慌てて天音と土方からワインボトルを取り上げた。すると
「……こんばんわぁ」
と言いながら、雨宮優寿寧がひょっこり顔を出す。
「……え?……ええぇ!」
土方がさらに顔を赤くして飛び上がった。
「皆さんが集まってるって聞いて、少しだけでも顔を出そうかと……」
雨宮が皆んなに会釈をしながら部屋に入ってくると、場が一気に盛り上がる。
「どどどどどうぞ!」
土方が言いながら高級ワインをドボドボとグラスに注ぐのを、慌てて近藤が羽交締めで止めた。
「……一美さん?天音ちゃんが呼んでますよぉ?」
双葉が言いながら淤加美と斎藤の所へ来た。双葉も少し顔が赤くなっている。斎藤があからさまに嫌な顔をして見せた。すると、淤加美がふと
「……楽しいねぇ…………奈美ちゃんがいたら、もっと楽しかったろうになぁ……」
と、呟いた。一瞬の間の後
「淤加美ちゃん、アタシは諦めてないからね。だから……だから……そんな事言わないで……」
双葉が真っ直ぐ淤加美を見ながら言う。その声にみんなが二人を見る。
「……ごめん、双葉。思わず口に出ちゃっただけ……」
淤加美が双葉に謝る。
「……奈美さんは、我々を含むあの場の全員の命を助けたんだ……このままでは終わらせない……」
と斎藤が静かに言い、続けて
「それに焼き菓子が、きっと見つけだすさ……」
と、クッキーを見ながら言う。
「誰が焼き菓子だ?もはや、あだ名の原型留めてねぇだろ!」
クッキーが顰めっ面で突っ込むと、淤加美と双葉が吹き出した。
「……か、一美ちゃんが言うと……ウケる」
淤加美が笑いながら言う。双葉も腹を抱えて笑っていた。すると淤加美が笑いながら
「頼むぞ……焼き菓子!」
と親指を立てて見せる。笑ってはいるが、瞳は真っ直ぐクッキーを見ていた。
「……総称で呼ぶんじゃねぇ……」
クッキーは呟くように言うと、淤加美達がまたも笑いだした。そう……この楽しい宴会は、きっとまた出来る。そしてその時は、この中に奈美がいる……。その時までに、オレが必ず見つけだす……。そうすれば、みんなが少しずつ負ってる責任を帳消しに出来る……またみんな普通に笑い合える。だから、オレが見つけだす。この時量師神の力を使って……。クッキーはそんな事を考えながら、ビールを一気に飲み干したのだった。
[登場人物紹介]
名前:ラサール・タビコフ
別名:ラサール ラサールさん
年齢:推定30歳
守神:猿田毘古神
能力:神通力の一つ、未来を見通す宿命通を使う
見通した未来を元に勝つ為の戦術、勝利への道標を使う
未来を見通せるが、未来を変える事は出来ない
備考:キイロノイズミ京都総本部 捜査部長
某国の動物研究施設で見つかり、八尾が保護する
京都総本部では最強と名高い
IQは120あり人間の言葉が普通に喋れる
人間の歴史や文学、教養や一般常識などを学んでいる




