第二十七話 混沌のアリーナ
クッキーが一階フロアから西側通路へ飛び出した。このままエントランスに向かい、エントランスから東側通路へと回り込んでフロアの反対側へ行く気だ。あと姿を確認出来てないのは、淤加美と奈美ちゃんに天音とアキ君だ。みんな大丈夫だろうか?何より、警護対象の雨宮優寿寧もまだ確認出来ていない。斎藤達は神主ではないから、こちらには来ていないと思うが……。クッキーは西側通路を走っていく。すると正面からアキ君が走ってきた。よかった……無事だったか。アキ君はこちらに気づくと、笑顔で片手を上げて近づいてくる。それを見たクッキーは足を止めた。おかしい……こんな状況でいくらクッキーの顔を見て安心したとは言え、あんな笑顔になるのは違和感しかない。クッキーがそう思った次の瞬間、近づいてきたアキ君が隠し持っていた鍔のない短い日本刀、通称ドスでクッキーの脇腹を突き刺したのだった。
「こっちです!早く!」
奈美ちゃんが、雨宮を連れてステージ裏に回ってきたアキ君と天音に叫ぶ。ステージ裏から従業員用通路を使って、外へ避難するのだ。だが、ステージ裏にいる沢山のスタッフ達の中にまで正気を失っている者がいて、思い通りに進めない。天音が近寄ってくるスタッフ達を、加減しながら押しのけていく。中には正気を保っている人達もいて、オロオロと周囲を見渡している。
「早く避難して!」
天音が正気の人達に呼びかける。ステージ近くで警護するアキ君と天音と淤加美と奈美ちゃんは、斎藤達から入念に脱出ルートを教わっていたのだ。だが、ステージ上には正気を失った観客が怒涛の様に押し寄せていた。やむなくルートを変えてエントランスへと向かう。
「何?どう言う事?」
淤加美は走りながら八尾と無線で通信してるようだ。
「ですから、天岩戸隠れが発動出来たんです!ですが、不安定なまま強引に発動したので、貴方達と影人間の神主はこちらに残ってしまったのよ!それに、神主ではない斎藤さん達まで巻き込まれたみたいなの……」
と、八尾からの無線が飛ぶ。何という事だ……。どうやらクッキー達は天岩戸隠れによって別次元に飛ばされ、ステージ付近に居た淤加美、奈美ちゃん、天音、アキ君だけ残されてしまったようだ。本来、天岩戸隠れは神主を隔離する為に発動させるものだ。神主ではない普通の人間は対象外。普通の人間が天岩戸隠れに入るには、発動後に入らなければならないのだ。だが、今回は斎藤達も発動時に別次元に飛ばされたようだ。だから無線が途中で切れたのか……。
「なら早く天岩戸隠れを解いて!今は少しでも神主が多い方がイイから!」
と、淤加美が言うと
「……それが、向こうではすでに戦闘が始まっているようなの。どうやら魔月妃側の神主がアリーナ内に居たみたいで、斎藤さん達と交戦状態なのよ。これでは天岩戸隠れを解く事は出来ない……」
なんと、魔月妃側の神主がアリーナの中にいた?なぜ?一体、何の為に……?いや、今はそれよりも……
「……これは非常事態です。貴方達は三万人の観客と雨宮さんを守りながら、影人間と戦わねばなりません……すぐに神谷局長が黄泉国保安局を総動員して向かいますが、それまでなんとか持ち堪えてください……」
八尾が重苦しい口調で伝える。それだけ非常事態で、危険な状況を示している。黄泉国保安局が、後どのぐらいで到着するのかがわからない。それに、このまま無事に外に出れたとしても、何処に逃げればイイのかもわからない。アリーナの中は危険だが、外が安全とも限らないのだ。
「どうすんの?」
ステージ裏の通路から西側通路を走りながら天音が叫ぶ。淤加美は必死で考えているようだ。
「……どうにか陰陽神社まで行ければ、なんとかなるんですが……」
アキ君も考えながら言う。だが、このアリーナから陰陽神社までは歩いてなど到底行ける距離ではない。電車か車が必須だ。電車は現実的に不可能だし、行けるとするなら車だ。そう言えば、雨宮のマネージャーの大黒は何処にいるのだろう。ライブが始まってから姿を見ていない。大黒の車なら陰陽神社まで戻れるはずだ。
「……とにかく、外へ出よう!観客達もアリーナから外へ出れば、影の支配下から外れて正気に戻るはず!」
淤加美が叫ぶ。淤加美の考えでは、影の支配下から出れば自然と正気に戻ると踏んだようだ。淤加美達はなんとかエントランスに辿り着いた。だが、エントランスには意外な人物が待ち受けていた。魔月妃側の神主、赤口焔だ。淤加美達は思わず立ち止まる。
「……淤加美神。天照の天岩戸隠れが発動してるようですが、私だけ取り残されたようです。貴方方も取り残されたようですが、一体何がどうなってるんですか?それに、あの黒い影人間は何者なんです?」
赤口が静かに尋ねると
「……答える必要はないね。アンタ達こそ、ここで何やってんのさ?まさか、ただライブを見に来た訳じゃないでしょ?」
淤加美が身構えながら答える。赤口は軽い溜息の後
「……答える必要はない、と言いたい所なんですがね……貴方方の戦力を削りに来たんですよ。これ以上、我々の脅威とならないようにね!これは我々からの正式な宣戦布告です!」
と言うと、赤口の体が炎に包まれた。凄まじい熱気が周囲に立ちこめる。天音とアキ君も身構えた。だが雨宮が
「……!……う、後ろ!」
と、叫んだ。振り向くと淤加美達の後ろには、いつの間にか影人間が立っていたのだ。慌てて天音が、雨宮を庇うように雨宮の前に立った。すると影人間が
『雨宮優寿寧はここだぁぁぁ!』
と叫んだ。その声は地響きのように響き渡る。すると、周囲から正気を失った観客達が集まってきたのだ。アキ君が素早く光のバリアを周囲に張る。さっきみたいに、これで足止めするつもりだ。だが影人間がアキ君に飛びかかる。アキ君は気づくのが遅れ、避けきれない。その瞬間
「でえあぁぁ!」
気合いと共に横から天音の右正拳突きが影人間に叩き込まれた。影人間が吹っ飛び地面を転がっていく。その隙にアキ君が光のバリアを何重にも重ねていった。バリアの強度を増す為だろう。アキ君と天音が影人間と観客達と戦っているすぐ後ろでは、淤加美と奈美ちゃんが赤口焔と対峙していた。
「奈美ちゃんは雨宮さんを……」
淤加美が一歩前へ出ながら言う。
「……ほぉ。淤加美神が相手ですか?天照や魔月妃さんですら一目置くと言う……真の力はあまり知られていない……」
赤口の全身を包み込む炎が一段と火力を増す。凄まじい熱気が離れていても感じられる。
「この姿にはなりたくないんだけどなぁ……しょうがないよね……」
淤加美はそう言うと、パンっと両手を合わせた。すると淤加美の着ている着物が、みるみる黒から白い着物に変わったのである。黒い髪も真っ白な髪色に変わり、全身が白くなったのだ。そしてフゥーっと息を吐き出すと、淤加美の全身が冷たい凍気に包まれた。すでに淤加美の足元周辺はパキパキと凍りつきだしている。
「……凄まじい凍気。まさに雪女ですね。ですが、我が火之迦具土の火力を押さえられますかな?」
と言う赤口の背後に、炎を纏った鬼のような者の姿が浮かびあがる。あれが火之迦具土か……?
「……奈美ちゃん、アキ君に伝えて……。この姿になると加減が出来なくなるから、アタシの力からみんなを守るバリアも張っといてって……」
淤加美が冷たい眼差しで奈美ちゃんに言ったのだった。
「ガガッ…………黄泉国保安局の神谷だ。今の現状報告だ。天照大神の天岩戸隠れが発動。だが不安定な状態で発動した為、不測の事態が起こった。淤加美、相崎奈美、岬天音、安倍明晴、雨宮優寿寧の五名が現世に取り残された。影人間の神主もだ。加えて魔月妃側の神主もアリーナに潜伏していたと見られる。潜伏してたのは、大和田夏海、赤口焔、瑞波奈緒恵、大山積次郎の四名。うち、赤口焔が現世に取り残された。それと関東水神會の幹部を一名確認。以前、陰陽神社を襲撃した幹部と同様、神主の力を持っていると思われる。その幹部と一緒にいたのは、金山鉱次。金山毘古神の神主と見られ、以前から保安局がマークしてた男だ。天岩戸隠れにいるキイロノイズミのメンバーは速やかに魔月妃側の神主及び、水神會幹部と金山を取り押さえろ。我々も現世のアリーナに急行している。なお、激しい抵抗が予想される。各自、最善の方法で身を守れ。繰り返す……」
黄泉国保安局からの緊急通信を藤堂が切った。無線機が突然鳴り、今の緊急通信が流れたのだ。たぶん、キイロノイズミの全員に流れただろう。
「……なるほど、大体の状況は掴めた。さすがは天照の天耳通と天眼通。状況の把握が早い……」
藤堂が言いながら無線機をしまうと
「赤口が現世に一人か……ヤツなら大丈夫だろう……」
瑞波奈緒恵が小声で呟く。無線はスピーカーの様に大音量で流れ、聞こえていたからだ。近藤はガントレットを右腕に装着し、身構えている。
「……近藤、攻撃の息を合わせろ。波状攻撃で隙を与えるな」
藤堂が数珠と短い錫杖を持ちなおし構えながら言うと
「了解っす」
近藤がジリジリと瑞波との間合いを詰めていく。瑞波は妖刀村雨を刃を上に向け剣先を相手に向けて自分の頭の近くで水平に構えた。いわゆる『霞の構え』だ。両者、長い沈黙の後、先に動いたのは藤堂だった。音もなくしなやかに前に出ると、短い錫杖で突く。瑞波は下がりながら錫杖を払うが、藤堂はさらに連続で突きを繰り出す。瑞波は下がりながら錫杖を払っていく。だが、その隙に近藤が瑞波の右側に回り込んだ。ガントレットで渾身の右正拳突き。瑞波がガードするが、堪えきれず後ろに吹っ飛んだ。素早く後転して着地する。だが着地と同時に藤堂が、数珠を巻き付けた左手での掌底を打ち込み、瑞波の左肩に直撃した。
「ぐっ……!」
焼けるような音と煙があがり、瑞波が後ろに下がりながら苦悶の表情を浮かべる。
「……仏具を使った退魔術。僧侶か?」
瑞波が左肩を押さえながら言うと
「そんな大層なものではない。キイロノイズミに加わってから、修行した場所が寺だったと言うだけだ……。神具や印を使う術者と、仏具やお経を使う術者。日本は神仏習合。どちらも必要だからな……」
そして構え直しながら、ブツブツとお経を唱えだす。瑞波は全身にビリビリと電気が走る感じがした。なんだこれは?お経に酷い嫌悪感を感じている……。体の力が抜けていくようだ。私が一度、死んでいる身だからか?あのメガネの男を早急になんとかせねば……。瑞波がそんな事を考えながら再度、霞の構えをとる。
「さすがっすね、藤堂さん」
近藤も構えながら言うと
「油断するな。そろそろ本気を出してくるぞ……」
と、藤堂が言い終わらない内に瑞波が飛び込んできた。とんでもない速さの振り下ろしを、藤堂が辛うじて避ける。続けざまの横切りも剣先スレスレでかわした。
「阿鬼鮫!」
更に強力な瑞波の縦切りを、藤堂がしなやかにかわす。藤堂は長身の割に動きがしなやかだ。巧みに動き回り、誘い込んでいく。そう、ガントレットを構えている近藤の射程距離。そこに瑞波に気取られずに入るよう計算しながら動いているのだ。そして瑞波が近藤の射程距離に入った瞬間
「うらぁぁっ!」
近藤が気合いと共に、右正拳突きを叩き込んだ。瑞波が慌ててガードする。だが、これは瑞波の策だったのだ。ワザと藤堂の誘いに乗り、近藤に近づいたのだ。ガードした瑞波は堪えきれず、後ろに吹っ飛ぶ。だが、飛んだ先に藤堂がいたのだ。瑞波は藤堂の方へ飛ぶように、予め角度を見極めていたのだ。凄まじい速さで飛んできた瑞波の剣先が、藤堂の右肩を貫いた。さすがの藤堂も、予期せぬ攻撃に避けきれなかったのだ。
「うぐぅぅ‥」
藤堂が苦悶の表情を浮かべ、短い錫杖で瑞波を突き飛ばした。右肩から剣先が抜け、夥しい血が流れる。藤堂が横へ移動しながら体制を整えようとするが、瑞波が逃さない。同じく横移動しながら、容赦ない剣撃を連続で繰り出す。藤堂は短い錫杖で必死に弾いていた。
「藤堂さん!」
近藤が横からガントレットで殴りつけるが、瑞波が最も簡単に避ける。だが、空振りした近藤がそのまま右肩でタックルすると、瑞波が壁に叩きつけられた。近藤はそのまま地面に倒れ込む。
「でぇあぁぁぁ!」
壁に叩きつけられた瑞波に、藤堂が叫びながら飛びかかった。
「‥舐めるなぁぁぁ!斬鮫!」
瑞波が壁を蹴り付け妖刀村雨を逆手持ちに切り替え、飛び出しながら真横に斬りつけた。その剣先が藤堂の右脇腹を切り裂いたのだった。
「二人共!聞こえた?」
フロア一階では双葉が走り回りながら、タツと将吾に叫ぶ。さっきの神谷からの緊急通信の事だ。これで何となく状況が飲み込めた。
「聞こえた!とにかくコイツらをなんとかしよう!」
同じく一階で、将吾が鴉天狗と激しく斬り合いながら叫ぶ。大和田夏海の引き連れている巨大な龍、夜刀神が双葉に上から噛みついてくる。双葉が雷神にサポートされながら避けると、沢山の椅子が弾け飛んだ。双葉は風神を夜刀の周りを飛び回らせ牽制しながら、雷神で自分の身を守っているのだ。
「ほらほらぁ、早く逃げないと夜刀に喰い殺されるよぉ」
夏海はニヤつきながら、無人のステージ上で高見の見物だ。フロアの二階では八岐大蛇と大百足が暴れまわり、端の方でタツと大山積次郎が戦いを繰り広げていた。タツは大山の力強い体術を必死でかわしている。
「大蛇の小僧!逃げてばかりでは勝てんぞ!」
大山が叫ぶと、パワフルな掌底を右手左手と交互に繰り出した。タツは草薙の剣でガードすると、後ろに吹き飛びながらもなんとか堪えた。大山の強力な攻撃を、まるで吸収しているかのようだ。
「‥むぅ‥これが草薙の剣の防御力か‥?まるで魔法の壁でもあるかのようじゃ‥」
大山が唸る。怪訝な顔をするタツに
「‥なんじゃ?知らんのか?建御雷神の布都御魂や瑞波の妖刀村雨は剣撃に特化した剣。それに対し須佐野の十拳の剣とお主の草薙の剣は魔法剣の類なのじゃ。十拳の剣が攻撃に特化し、草薙の剣は防御に特化していると言われておる‥」
なるほど‥。さっきから強力な攻撃を何度も受けているのに、衝撃をあまり感じないのはそういう訳か‥。
「‥このままでは埒があかないのぅ。数で攻めてみようかの‥」
大山はそう言うと右手を挙げた。すると八岐大蛇と戦っていた大百足が雄叫びを上げる。そして大山の周りに人間と同じくらいの大きさの百足が何匹も現れたのだ。
「さぁて。これでどうじゃ?」
大山がニンマリ笑うとタツに向かって飛びかかってきた。
「布都御魂ぁ!子の刻!」
将吾の素早い連続突きを鴉天狗がかわした。大きな翼で飛び回りながら避けている。
「‥はぁはぁはぁ‥ぐっ‥‥」
将吾は呼吸を整えながら左腕を押さえた。先ほど鴉天狗から受けた先制攻撃が効いているのだ。左腕が痛みで痺れて感覚がない。大山の掌底でやられた右肩も酷く痛む。布都御魂を握っているだけで精一杯だ。そんな動きの悪い将吾に、鴉天狗が容赦なく襲いかかる。長い錫杖での連続突きからの体当たり。思わず体制を崩した将吾に鴉天狗の前蹴り。
「ぐっ‥‥」
将吾の鳩尾に入り、堪らず後ろに下がった。鴉天狗が飛び上がり強烈な振り下ろし。将吾が布都御魂でガードするが腕に力が入らず、布都御魂は叩き落とされてしまった。ガシャンと地面に叩きつけられる布都御魂。そして丸腰になってしまった呼吸の荒い将吾が、鴉天狗と対峙していた。
一階フロアでは双葉が走り回りながら、夜刀の容赦ない攻撃を避けていた。夜刀の噛みつきはフロアの椅子を粉々に噛み砕いていく。そして尻尾での叩きつけは床を砕く勢いだ。双葉は逃げ回りながら、なんとか夏海の方へ近づこうとしていた。だが、夜刀がそれをさせない。夜刀の激しい攻撃で、なかなか夏海へ近づけないのだ。風神や雷神が夜刀への攻撃を試みたが、なかなか大きなダメージを与えられない。それならばと、夏海に攻撃を仕掛けようとしたのだ。夏海もそれに感づいていて、夜刀の影になるように立ち回っている。
「‥ちっ‥ちょこまかと逃げ回りやがって‥」
夏海がイラつきながら言うと
「逃げ回ってんのは、そっちでしょ!」
双葉が負けじと叫ぶ。
「あぁ?」
夏海が更にイラついた声を出す。双葉は逃げ回りながら考えていたのだ。大和田夏海はどう見ても中学生か高校生ぐらい。まだ子供だ。それにかなり気の荒い性格のようだ。少し煽ればイラついてボロを出してくれるかもしれない‥。そうすればこちらも攻め込む隙が出来るはずだ。
「コソコソ隠れてないで、出てきなさいよ!」
双葉が更に煽るが
「‥‥ふん。煽って前に出させるつもり?そんな見え見えの手には乗らねぇよ!」
夏海は夜刀を盾にして動かない。意外と夏海は冷静だ。煽り作戦は失敗か‥?
「そもそも、子供の貴方が何で魔月妃と行動を共にしているの?何か理由があるんでしょ?」
止まらない夜刀の攻撃をかわしながら双葉が叫ぶと
「‥うるせぇな。アンタには関係ねぇだろ?」
夏海の顔が一瞬引き攣る。双葉はその変化を見逃さなかった。
「一度、亡くなってるって聞いたけど……何があったの?話してみてよ?」
必要以上の親切やしつこい優しさは、逆に相手の神経を逆撫でする事もある。その効果は双葉の予想以上のようだ。
「‥‥アンタに‥‥アンタなんかに何がわかる‥」
夏海が俯きながら言う。その声は怒りに震えているようだ。
「私は以前、死にたいと思った事がある。でも、そこからみんなのおかげで‥‥」
「テメェに何がわかるんだよ!平々凡々と暮らしてきたヤツなんかに!」
ダメ押しで叫ぶ双葉を夏海が遮る。その目は怒りで見開き、鬼のような形相だった。
「わかる訳がねぇ!わかってたまるかぁぁぁ!」
夏海が叫ぶと夜刀も大きな雄叫びを上げた。そしてアリーナの壁や天井などに、その怒りをぶつけるように闇雲に攻撃を始めたのだ。壁や天井が崩れ瓦礫が落ちてくる。かなり危険な状態だ。
「‥いかん、怒りで我を忘れておる。お目付け役の赤口がおらんとこうなる‥」
異変に気づいた大山が、一階フロアを見ながら言う。暴れ回る夜刀のせいで、アリーナ全体が地響きを起こして揺れているのだ。双葉は暴れる夜刀に注意して、落ちてくる瓦礫を避けながら夏海との距離を一気に詰めようとする。
「来るなぁぁぁぁ!」
夏海が絶叫すると夜刀が再び双葉に狙いを定める。だが、上空には雷神が飛び上がっていたのだ。
「一刺槍電!」
雷神の稲妻の槍が夜刀の頭目掛けて放たれると、大きな雷鳴と稲光が起こり夜刀の頭から尻尾にかけて電気が走った。夜刀が苦痛の雄叫びを上げる。双葉は空を飛ぶ風神の背中に乗り、滑空しながら夏海に迫った。そして
「疾風怒刀!」
風神の手には細身の剣が握られていて、夏海に斬りつけたのだった。
[登場人物紹介]
名前:五島弘志
別名:五島
年齢:42歳
守神:久久能智神
能力:樹木を操る事が出来る
備考:関東水神會 若頭
クッキーとは昔からの対立関係
赤星によって生きながらにして神主となる
その為、反魂の儀による神主化より力は弱い
クッキーと天音に敗れ、守神が消えてしまう
その為、現在は意識不明の昏睡状態




