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激辛粉末暴発事件

 昼下がりの那須塩原市・黒磯。

 冬の気配が混ざりはじめた風の中、

 地元スーパーの入口で、琴美は宝物を見つけた子どもみたいな笑顔だった。

「見て真平!! ペヤング獄激辛が一個50円だって!!

 ほぼ昭和価格よ!!昭和魂が買い占めろって叫んでるわ!!」

「叫んでねぇよ。どの時代でもそんな魂いねぇよ……」

 真平が突っ込んだときにはもう遅かった。

 琴美はカートに箱ごと突っ込み始めていた。

 24個入りの段ボールを四箱。

 合計96個。

 通りすがりの主婦が目を丸くする。

「え……あの子、そんなに? 舌どうなってんの……?」

 琴美は胸を張って答えた。

「文化部の非常食です! 士気が上がります!」

 真平は静かに言う。

「……下がるわ。主に健康度が。」

 スーパーの入口に、彼のため息が白く溶けていった。


 部室に戻った瞬間、空気が変わった。

 沙羅が、仁王立ちで待っていたのだ。

 その表情は、火山が噴火する三秒前のように静かで冷たい。

「……琴美。それ、なに?」

「昭和特価の激辛よ! ほら、これが昭和魂――」

「昭和にこんな凶器ないわよ!!!!」

 部室の壁がビリッと震えた。

 琴美は一瞬でシャオの口癖がうつった。

「パ、パォ!?」

 真平は淡々と呟く。

「俺と勇馬はまず倒れるな……間違いなく……」

 美優は、いつもどおりニコニコ。

「えへへ……これ食べたら……天国見えるかな……?」

「見える。帰って来れない意味でな。」

 萌香がスマホを構える。

「これ動画ネタじゃん。獄激辛100個買った女でバズる!」

「乗るな!!」

 勇馬は眼鏡を押し上げた。

「これは昭和文化ではありません。ただの暴力です。」

 沙羅の一喝が響く。

「文化部を殺す気なの!?」

 琴美は涙目で詰んだ顔をした。

 夕暮れの赤い光が入る部室。

 机の上に積まれた獄激辛カップ麺の山。

 見るだけで喉が痛む光景だった。

 琴美が腕まくりして宣言する。

「さぁ!文化部名物・昭和の鍋パーティーよ!

 今日は獄激辛スペシャル!!」

「昭和が謝罪するやつだろそれ……」

 お湯を注いだ瞬間――

 目が、痛い。

「これ空気に辛さ溶けてない!?」「窓開けろ窓!!」

 部室に地獄の蒸気が立ちこめる。

 文化部はじりじりと後退した。


「いざ参る!! 昭和魂の意地!!」

 ズルッ。

 次の瞬間。

「――ッッッッアアアアア!!!!!!」

 琴美は机に崩れ落ちた。

「早ッ!!」「死んだ!?」「火出てるパォ!!」

 勇馬があわてて「牛乳を!!」

 美優は冷静に「お水はだめです……広がっちゃいます……えへへ……」

「……よし、行くか。避けられねぇよな……」真平は焼きそばを口に運ぶ

 ズズッ。

 無言の五秒。

「……これ、親が泣く味だ……」

「泣くの親!?」「悟ってる!!」

「しょうがない。味見してやるわ。」沙羅が挑む

 ズズッ。

 沈黙。

「どう!?」

「――悪くないわね。」

「強すぎる!!!!」

「沙羅先輩、人間じゃないです……」

「オレいく。カバー入る!」

 ズズズッ。

「……GG……完全にGG……」

「えへへ……では……」

 ズズ。

「辛い……です……でも……なんか……楽しい……」

「楽しくねぇよ!!」

 そこへ、扉がノックされた。

 開くと――

 黒髪ロングに静かな微笑み。

 完璧美少女、大野博美。

「市子先生に呼ばれました。地獄級の辛さ問題が発生したと。」

 琴美「地獄級……」

 博美は1つのカップを手に取ると、静かに麺を口へ運んだ。

「……うん。辛いですね。」

 普通の声。普通の顔。

 そして――完食。

「ごちそうさま。おいしかったですよ。」

 全員が叫んだ「怪物か!!!!」


 荒れた部室で、真平が空のカップを睨む。

「……麺は普通なんだよ。犯人は――これだ。」

 指には、激辛粉末ソースの袋。

「全部コイツのせい。」

「なるほどぉぉぉ!!」

 文化部に雷が落ちたような衝撃が走る。

 そこへ巫鈴が入ってきた。

 一目で状況を把握し、言う。

「激辛粉末、捨てるのは非効率。再利用しよ。案は三つ。」

 1:害獣対策

 2:理科実験

 3:心理実験の刺激

 真平が「お前……激辛粉で世界変えようとしてない?」

「変わるなら変えていいよ?」

「怖い!!!!」


 部員全員で袋を裂く。

 スッ……スッ……スッ……

 山のように積み上がる赤い粉末。

「すごい量ね……」「どら焼きの餡……」「これは地獄だ」

 シャオが暑さに負け、ふらっと立つ。

「パォ……暑い……窓、開けますね……」

「今はダメ!!」

「パォ☆」

 ――開いた。


 突風が吹き込み、粉末が舞い上がり――

 空へ吸い込まれる。

 ブワァァァァァァァァァッ!!!!!!!

 琴美は呆然と「昭和の黄砂!?黒磯に激辛降る!!」

「ニュースになるよこれ!!」萌香はスマホで動画撮影。


「目……痛い……」美優が呟いた。

 巫鈴は冷静に「刺激風速……2メートル……ふむ……」

「測るな!!!!」


 廊下奥から迫る怒涛の足音。

「あなたたちぃぃぃぃぃ!!!!外が!!辛いの!!! 目が痛いの!! 何したの!!」

 文化部

「…………」

「すっとぼけるな!!!!」

 廊下では泣く生徒、目を押さえる教師。

 校長は頭を抱えた。


 琴美がしょんぼり呟く。

「昭和魂……風に散っちゃった……」

 真平は呆れながら「お前の昭和魂は災害なんだよ。」

 巫鈴は「でもデータ的には――」

「問題じゃない!!!!」

 萌香はにんまりと「動画投稿完――」

「すんな!!!!」

 地獄のような一日がようやく終わった。

 だけど文化部は、変わらず今日も文化部だった。


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