戦国武将診断と八頭身パォの午後
休日の午後。
吉峰家のリビングには、昭和歌謡が穏やかに流れていた。
琴美はノートPCの前で、昭和のパソコンユーザーのような前傾姿勢のまま画面をスクロールしている。眉間には深いしわ。だが次の瞬間、そのしわがぱっと解けた。
「うわっ、これ面白そう!」
思わず声が弾む。
画面にはこう書かれていた。
戦国武将診断──あなたはどの大名タイプ?
琴美の目は、一瞬でそのタイトルに奪われた。
背後でゲームをしていたアレンが呆れたように顔だけ向ける。
「姉ちゃん、そういうの毎回当たらないじゃん」
「失礼ねアレン! こういうのを見ることで文化の本質が理解できるのよ!」
新聞をめくっていたジョージ父が、眼鏡越しに笑った。
「……戦国武将で文化の本質……?」
キッチンからさくら母がひょいと顔を出す。
「琴美、また変な企画しようとしてるのね。ごはん前にテンション上げすぎないでよ~」
しかし琴美はそれどころではなかった。
スマホを素早く操作し、誰かにメッセージを送る。
――もちろん、真平である。
文化部・戦国武将診断大会 開幕
放課後の文化部部室。
扉を開けるなり、琴美はA4の紙束を机に叩きつけた。
「見て見て! 戦国武将診断!!」
沙羅は紙束を見て、眉をひそめた。
「……紙? なんで印刷してんのよ」
「スマホより紙のほうが戦国の重み出るでしょ!」
「いや、そういう問題じゃないでしょ……」
真平は深いため息をつき、シャオはぱぁっと笑顔を広げた。
「パォ! 武将になるの!? カッコイイです!」
美優は両手を胸の前で組み、うっとりとつぶやく。
「わたし、政宗がいいなぁ……三日月の兜かわいいですし~」
萌香がすかさず突っ込む。
「美優っち、それ完全に見た目だけで選んでるやつ」
勇馬は真剣な顔で紙を覗き込み、メガネを押し上げた。
「……この診断、統計的根拠があるんですか?」
琴美は大げさにため息をついた。
「勇馬はね、そういう理屈で損するタイプ! 男はノリと勢いなの!!」
沙羅の小声が刺さる。
「……あんた昭和男児か」
笑いが広がる中、診断大会が始まった。
第一問:あなたがリーダーなら、どう動く?
「はい第一問! あなたがリーダーなら何を優先する?」
琴美は即答する。
「もちろん革命よ! 信長タイプね!」
真平は控えめに手を挙げる。
「……周りの意見、かな。家康寄り?」
沙羅は腕を組んで冷静に言った。
「効率と勝率。謙信か秀吉ね」
シャオは元気いっぱい、拳を突き上げた。
「勢いです! 突撃パォ!!」
「知ってたよ」
真平の苦笑が部室に混じる。
美優は湯呑をそっと置きながら微笑んだ。
「皆さんがお茶を飲んで仲良くなれるように……秀吉さん?」
「それ美優っち本人やん」萌香が笑う。
勇馬は紙を凝視し、独り言のように言った。
「僕は……壊れた武具を直すので……鍛冶担当?」
琴美が勢いで斬る。
「武士じゃなくて修理班ーーっ!!」
笑いが絶えない中、診断結果が発表されていく。
一通り結果が出揃い、部室が落ち着いたころ。
真平がぽつりとつぶやいた。
「……でもさ。シャオって、どう考えても山県昌景だよな」
シャオが小首を傾げる。
「パォ?」
琴美が驚いた顔で続く。
「なんでそこ!? 赤備えの猛将でしょ?」
勇馬が解説モードに入り、メガネが光る。
「山県昌景は身長140cm前後とされていて――」
美優が指を折りながら優しく微笑んだ。
「いまのシャオちゃんより小さい……かわいいですねぇ……」
その一言で。
シャオの肩がぴくりと震えた。
「…………………パォ……」
完全にダメージである。
「シャオっち固まった!!」萌香が叫び、
沙羅が鋭い目で勇馬をにらむ。
「勇馬、情報の使いどころ悪すぎ」
琴美がしゃがみ込み、心配そうに覗き込む。
「シャオ、背のこと気にしてたの?」
シャオは小さな声でつぶやいた。
「わたし……もっと大きくなりたい……パォ……山県さんよりは……勝ちたい……」
真平がすぐさま突っ込む。
「だから勝負の方向性がおかしいんだって!」
そのとき、美優がそっと微笑んだ。
「小さくても強いのは、とっても魅力的ですよ?」
――その瞬間。
シャオの目に光が灯った。
「パォッ!!じゃあいいです!!」
部室中に、安心の笑いが広がる。
ズーハンが勢いよく立ち上がる。
「ナイス! オレの相棒は猛将シャオだ! 小さくても火力は最強!!」
部室
「おぉ~~!!」
シャオの瞳は完全復活していた。
「パォォ! 私、赤備えです!かわいくて強い!最強パンダ戦士ですぅ!!」
琴美が額を押さえる。
「最後のパンダやめなさい!!」
真平はもはや混乱していた。
「フォローなのか悪化なのか分からん……」
別の日。
また背のことでいじられ、シャオは机に突っ伏していた。
「……パォ……」
そんな彼女に、真平が静かに声をかける。
「おまえの姉ちゃん見ろよ。八頭身美人だろ?おまえも将来そうなるって」
シャオが顔を上げる。
「……パォ?」
――その瞬間。
部室は一度、静寂した。
美優が震えた声で口を開く。
「……八頭身でパォって……かわいすぎます~~!!」
堰を切ったように、笑いが爆発した。
「ギャハハハ!!」
「腹痛ぇ!!」
琴美
「モデル体型でパォは反則!!」
沙羅
「ランウェイでパォ言われたら耐えられない……」
ズーハン
「GG!!最強のモデルパンダ誕生!!」
勇馬
「昭和特撮の新ヒーロー……パォレッド……」
シャオは顔を真っ赤にし、机をバンバン叩く。
「パォォォ!!笑うなですぅぅ!!八頭身でもパォはパォですぅぅ!!」
萌香は涙を拭いながら叫ぶ。
「かわいすぎるんよ!!」
そのとき──
巫鈴が静かに本を閉じ、ひと言だけ落とした。
「……まぁ、ギャップは最強の武器だからね」
その瞬間、部室は二度目の爆発を迎えた。
真平が笑いながら肩をすくめる。
「ほらな。おまえ、将来とんでもないギャップ美人になるって」
琴美
「八頭身パォ、世界狙えるわよ!」
シャオ
「狙わないですぅ!!」
だが、その声はもうすっかり明るいパォだった。




