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隣の修羅場、定点観測。


第一話 雨のファミレスにて

静かな雨の午後。

ファミレスの窓際、兄妹はハンバーグとパスタを前にしていた。

「お兄ちゃん、そんなにソースかけたら味わかんなくなるよ」

「うるさい、これは味の設計なんだ」

――隣の席。

「もう無理なんだよ」

「待って、話、最後まで聞いて」

巫鈴がスプーンを止めた。

真平が目だけで「聞こえるなよ」と訴えるが、無理な話だった。

「努力してたって言葉がもう努力してない証拠なんだよ」

沈黙。雨。

巫鈴「別れって、音がないのに、こんなに響くんだね」

真平「音がないから、響くんだろ」

プリンアラモードだけが静かに甘かった。


第二話 回転寿司のレーンに流れるもの

寿司がくるくる回る午後。

兄妹はサーモンと茶碗蒸しを前に、まったり昼食。

「お兄ちゃん、皿積みすぎ」

「期間限定だ。研究だ」

――隣の席。

「だからもう無理だって言ってるでしょ!」

「なんで!? 一回の遅刻で!?」

巫鈴「……また?」

真平「まただな。デジャブ・オブ・ザ・イヤー」

巫鈴「でもね、静かな店ほど声って響くんだよ」

真平「じゃあもう、店選びから間違えてるな」

その直後、レーンを回ってきた涙色ほたてにふたり同時に吹き出した。


第三話 煙の焼肉屋で

ジュウ、と音を立てて脂が跳ねる。

兄妹はトングを握り合い、カルビの主導権争い。

「お兄ちゃん、焦げてる」

「炭の芸術だ」

――そのとき、隣。

「もう疲れたって言ってるでしょ!」

「俺は何をしたの!?」

真平「ねぇこれってデジャブ……?」

巫鈴「完全版だね」

煙の中、女の子の涙。

巫鈴「人って、焼き加減を間違えた関係、戻せないんだね」

真平「でも焦げてもタレつけりゃ食える」

巫鈴「慰めの方向性が雑!」


第四話 大衆食堂の昼下がり

「味噌汁、しょっぱいね」

「外食の醍醐味だろ」

兄妹が定食をつつく昼。

隣の席では――。

「……もう一緒にいられないの」

「なんでコロッケ前にそれ言う!?」

真平「勘弁してくれ~」

巫鈴「破局呼び寄せ体質じゃない?」

真平「そんな厄介な星回りいらん」

巫鈴「人生って定食みたい。メインが終わっても味噌汁は残る」

真平「……そのフォロー、地味に刺さる」


第五話 ラーメン屋の湯気の中で

湯気、湯気、湯気。

厨房では店主と女性スタッフが並んで寸胴をかき回す。

「……私、この店やめる」

「おい、今!? スープの真上で!?」

巫鈴「チャーシュー越しの決別だね」

真平「笑うと麺すすれない」

「店長、スープ薄いっす!」の声で空気が中和。

真平、ぼそっと。

「……替え玉、頼みにくい」

鍋がカン、と鳴った。

まるで恋の終わりの鐘みたいに。


第六話 ステーキ店の鉄板の音

「焼き加減どうする?」

「男はミディアムレア。血の滴る人生」

「でも胃はよく焼き仕様」

――隣の席から。

「誕生日だからって来たのに、なんで別れ話なの!?」

「誕生日だからこそケリをつけたくて!」

真平「はいはい……また始まった」

巫鈴「お兄ちゃん、もう常連みたいになってるね」

巫鈴「恋って火加減むずかしいね」

真平「焦げるか生かの二択」

鉄板の音が、どこか寂しく聞こえた。


第七話 映画館の暗闇で

スクリーンに映る海と夕陽。

ポップコーンを抱えた兄妹。

「音立てすぎ。静かなシーンだよ」

「粒が逃げるんだよ」

――後ろの席。

「もう終わりなんだって!」

「今!? 予告編終わったばっかりだよ!?」

巫鈴「お兄ちゃん、これ本編より緊迫してる」

真平「映画全然頭にはいってこん~」

スクリーンではさよなら、愛してた。

後ろではさよなら、LINEもしない。

現実のほうが脚本が上手かった。


第八話 食べ放題の夜に

タレの匂い、ざわめく客。

巫鈴は皿を山積み。

真平はため息。

「巫鈴、取るだけで満腹そう」

「戦略だよ。初動が命」

――隣のテーブル。

「もう、私たち終わりにしよう」

「え!? まだカレーも取ってないのに!?」

巫鈴「満腹破局きたね」

真平「話だけで腹膨れたわ~」

「あなたの優しさ、焦げてるの」

「俺の優しさ焦げてんの!?」

巫鈴「人間関係も焼き加減だね」

真平「お前の哲学、胃もたれするわ」

残り時間15分。

兄妹は箸を置き、BGMの「BELIEVE」を聞いて笑った。


終章 観測者たちの夜

店を出た夜道。

小雨が降り、街灯が滲む。

巫鈴「お兄ちゃん、今日もいろんな恋が消えてったね」

真平「まぁ、人のドラマはおかずがわりだ」

巫鈴「……でも、ほんとはちょっと切ないよね」

真平「そう思えるお前が、ちゃんと人間だってことだ」

コンビニの明かりの下、

二人は温かい肉まんを半分こした。

「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」

「次、どこ行く?」

「……できれば幸せなカップルが無音で食べる店」

「そんな店、存在しないよ」

二人、笑う。

世界はまた、どこかの店で誰かが別れを告げている。

――そして、観測者たちは、今日も腹八分目。



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