ギャル美優、参上!
放課後の旧職員室。
黄ばんだ段ボールの山を前に、文化部の面々は片づけに追われていた。
「となりの旧職員室、倉庫になってたから整理頼まれたのよ」
琴美が腕まくりしながら鼻歌をうたう。
「うわ、すごいホコリ……!」萌香がむせる。
「パォ~!」シャオがマスク越しに悲鳴を上げた。
中から現れたのは、古いファッション誌の束。
『mcシスター』『non-no』『anan特集・平成ギャル革命!』――。
「これ、懐かしい……!」琴美が思わず声を上げる。
「平成のギャル文化か……ある意味、社会現象だった時代ですね」勇馬が分析口調でうなずいた。
そのとき、美優がページをめくって目を丸くする。
「わぁ……すごい。みんな、自分に自信ありそう……」
そのつぶやきに萌香が反応した。
「……美優っチ、ギャルやってみる?」
「えっ!? わたしが!?」
「ぜーったい似合うよ!ナチュラル清楚×ギャルは最強!」
琴美も「昭和で言うとキャンディーズの進化系ね!」と妙な例えを重ねる。
「その例え誰もわかんないよ……」真平が苦笑い。
美優は少し考えて、小さく頷いた。
「……やってみたいです」
その声には、ほんの少しだけ勇気が宿っていた。
萌香の部屋。机の上は化粧品とコテとヘアブラシで埋め尽くされていた。
「というわけで、ギャル美優プロジェクト開幕~!」
萌香がノリノリで宣言。
沙羅は隣で腕を組み、「……また始まったのね」と半笑い。
巫鈴は椅子に座って紅茶をすすりながら、静かに観察している。
「まず髪をふわっとさせよう!」
萌香がドライヤーを握る。
「温度高めで空気を入れる感じ!」
「……はいっ!」美優は少し緊張しながら鏡の前に座った。
「目元はどうする?」沙羅がブラシを手に取る。
「清楚路線残しで、でも視線を集める目。」
「お姉ちゃん、それ美容雑誌みたいな言い方……」萌香が吹き出す。
巫鈴は横でメモを取りながら呟いた。
「髪の立ち上がり角度45度、光の反射率は約18%……」
「巫鈴、それ理科の実験じゃないから!」
数十分後。
髪がふわりと巻かれ、頬は自然な血色に染まり、唇にグロスの光が乗った。
萌香が後ろから満足げに手を叩く。
「はい完成~☆ ふわギャル美優、爆誕!!」
「……これ、ほんとに、わたし?」
鏡をのぞき込んだ美優の瞳が、わずかに震える。
「似合ってるわ」沙羅が微笑む。
「派手すぎず、でも華がある。あとは――」
「――勇気、ね」巫鈴が言葉を重ねた。
「顔を上げて、笑って。自分を信じること」
美優はそっと息を吸い、笑った。
「……えへへ。なんだか、少しだけ自信がわいてきました」
「それでいいのよ!」萌香が満足げにうなずいた。
翌朝。旧校舎のドアが開く。
ふわりと甘い香水の香りが漂った。
「おはよ~ございますぅ♡」
部室の空気が止まる。
ゆる巻きヘアにピンクのグロス、爪先には小さなハート。
「えへへ……どうですか? ギャル村美優、参上です♡」
その直後、萌香が後ろから登場。
「美優っチ!まだ固いよ、最後にここをこうして――」
そう言って、美優のシャツの一番上のボタンを指で軽くつまむ。
「ちょ、萌香ちゃん!?」
「ギャルは自信! 胸張ってこ!」
ポンとボタンが外れ、鎖骨がちらりと光る。
「昭和のアイドルを令和に召喚したみたいですね」勇馬。
「パォ~~!かわいいっ!!」シャオ。
「え、もしかして……美優!?」琴美がスマホを構える。
「GG……文明の到達点……!」ズーハンがつぶやいた。
昼休み、購買前。
「……花村さん、今日やばくね?」
「目が合った!生きててよかった!」
「#ギャルっチ降臨 #日ノ本の奇跡」――SNSが一瞬でざわめいた。
チョコメロンパンを手に、振り返る美優。
「みんな~! これ限定なんですよ~♡」
その笑顔で購買列が崩壊。男子三名、精神的戦闘不能。
沙羅が額を押さえる。
「……もうアイドルじゃない」
真平「文化部、いつから芸能事務所になったんだ」
勇馬「照明と反射率の問題ですね。科学的奇跡です」
沙羅「いや、それ奇跡って言わない!」
午後の授業。
「花村、鏡見すぎ」
「は、はいぃ♡」
その一言で男子の心臓がまた何人か止まった。
放課後。
「やっぱり、わたしには難しいですね~。でも、自分を楽しむって、ちょっとわかった気がします」
鏡を見つめながら微笑む美優。
「またいつでも戻っておいで、ギャルっチ!」萌香が笑う。
「やめてくださいよぉ~」美優は恥ずかしそうに笑った。
琴美はカメラを回しながら言った。
「昭和で言うなら真打登場ね!」
夜。駅前のガラスに映る自分を見つめる。
髪はふわふわ、まつげはピン。
「……楽しかったなぁ」
その呟きはどこか誇らしかった。
花村旅館・玄関。
「ただいま戻りました~」
母・由香「おかえ……っ!?!?!?」
父「誰だ!?お客様!?妖怪!?」
祖母「まさか、美優……?」
兄「おまえ、配信デビューでもしたの?」
「ち、違うんですぅ~!文化部でちょっと!」
母「すぐ顔洗ってきなさい!」
父「客が見たら倒れるぞ!」
洗面所でクレンジングを手に取り、ふっと笑う。
「ギャルも旅館の娘も、どっちもわたしなんだなぁ」
化粧を落とすと、いつもの柔らかな笑顔が戻る。
けれどその瞳には、確かな自信が宿っていた。
翌朝、朝食の間。
祖母がぽつり。
「昨日のあれ……あれはあれで、悪くなかったね」
家族全員、沈黙。
「えへへ……もうちょっとだけ練習してみようかな~♡」
「やめてぇぇぇぇ!」
旅館の天井に笑い声が響く。
――こうして、ギャル美優の一日は、日ノ本文化部の伝説になった。




