芋きんつば・ケース・ゼロ
――放課後、ポップコーン騒動の後片づけ。
部室の床にはまだ甘い香りが残り、文化部の面々は膨大な白い山を前にため息をついていた。
「……これ、どうするの?」萌香が袋を持ち上げる。
「燃えるゴミだけど、三袋分は重いな」真平が肩を回す。
「よし、みんなで分担して出してこ!」琴美が明るく号令をかけた。
「留守番、必要じゃない?」巫鈴の言葉に、全員の視線が一点に集まる。
「パォ~! わたしたち残るです!」
「GG! 任せろ!」
シャオとズーハン、即答。
「頼んだぞ。火気厳禁だからな」真平が念を押し、一行はゴミ袋を抱えて部室を後にした。
――部室に残されたのは、シャオとズーハンだけ。
外ではカラスの声。蛍光灯がじぃ、と鳴る。
「ねぇズーハン、今日の夜ごはん何?」
「ポップコーン以外ならなんでもいい」
「パォ~、わたしも……甘いもの食べたい」
――ピンポーン。
扉の向こうに、新入りの郵便配達員が立っていた。
「ここ、日ノ本文化部さんですよね? お届け物です」
「パォ~! ありがとうございまーす!」
差し出されたのは小包ひとつ。送り主は「銘菓本舗」。
「なんか……おいしそうな名前」
シャオは一瞬だけ悩んで、開けてしまった。
――黄金色の光。
中にはつややかに輝く「芋きんつば」。
「パォ……おいしそう……」
「食べたら怒られるだろ」
「一個だけなら、ばれないよ」
シャオは迷いなく一つをつまみ、ペロリ。
「パォ~……ハオチ~!(おいしい~!)」
ズーハンが眉をひそめる。
「ずるいぞ姉貴! そんなら俺も!」
シャオは、箱を少し傾けて見せた。
「こうやって並べ直せば、減ったのわからないパォ」
ふたり、しばし無言で見つめ合う。
「「……………………………………」」
「パォ~我慢できない!」
「GG、毒を食らわば皿まで!」
――数分後。静寂。
机の上、空になった箱。
「……GGだな」ズーハンが小さくつぶやく。
「やばいパォ……どうしよう……」シャオが頭を抱える。
沈黙。
次の瞬間、シャオの目がきらりと光った。
「大丈夫! 任せて! わたし、再現する!」
「まさか――また実験か?」
「今こそ文化部の科学力を見せるときですぅ!」
そこからの行動が早かった。
シャオはパソコンとスキャナを立ち上げ、包み紙を完コピ。
ズーハンは学校中を駆け回り、石けんを大量確保。
「パォ~これ混ぜたらいける気がする!」
「色も形も完璧だ!」
――完成したのは、石けん製芋きんつばレプリカ。
二人は満足げに笑い合う。
「お疲れパォ~」
「GG!」
そして、そのまま寮へ逃走。
しばらくして、部室に戻ってきた文化部の面々。
「やっと片付いたね~。お茶でも飲もっか」琴美がほっと息をつく。
萌香が机の上の小包を見つけて叫ぶ。
「わ、芋きんつば!? だれ、買ってきてくれたの?」
「いいじゃない、いただきましょ!」美優が微笑む。
――数秒後。
泡。
琴美、テーブルに倒れこみながら叫ぶ。
「これっ……昭和の味じゃないっ!!!」
沙羅「いや、昭和どころか化学だろ」
巫鈴「界面活性剤の香りがしますね」
勇馬「つまり……石けん」
琴美、ゆっくりと立ち上がり、目を光らせた。
「……シャオとズーハンを、吊るし上げるわよ!!」
夜の女子寮に、雷鳴のような足音が響いた。
「文化部特別査問会、開廷ッ!!!」
そのころ、市子先生が職員室でコーヒーをすすりながら、ぽつり。
「……日ノ本文化部、今日も平和ねぇ」
蛍光灯がじぃ、と鳴った。
秋の夕暮れ、甘い香りと洗剤の匂いが混ざる部室で――
日ノ本文化部の伝説が、また一つ増えた。




