文化部危機一髪 ~飛んだら勝ちです!~
放課後の部室。
夕陽が差し込み、机の上で段ボールがひとつ。
琴美が誇らしげにフタを開けた。
「ジャーン! 本日のレトロ企画はこれっ!」
色あせたパッケージには、堂々と『黒ひげ危機一髪』の文字。
「……また妙なの持ってきたな」真平が眉をひそめる。
「妙じゃない! これは昭和の家庭を救った娯楽革命よ!」琴美は胸を張る。
「家庭を救った……?」沙羅が半眼。
「そう! テレビもスマホもなかった時代、家族の笑顔を一本の剣で取り戻したの!」
「……昭和魂、発動ですね」勇馬が神妙にうなずいた。
美優がふわっと微笑む。「えへへ、なんか楽しそう~」
琴美が剣を掲げた。
「ルールは簡単! 順番に刺して、黒ひげさんが飛んだら負け! ――いざ、昭和のスリル体験!」
ズーハンが勢いよく前のめり。
「GG! バトルロイヤル形式でいい? 俺、勝負強い!」
「……ただのパーティーゲームなんだけど」真平がぼそり。
「勝負に勝つのは運じゃない、流れを読む力だ!」琴美がキメ顔。
一本目。
沙羅が無言で刺す――飛ばない。
美優「えへへ、ここかな~?」――飛ばない。
勇馬、角度を測って――飛ばない。
シャオ「パォ~! 勝利の女神はわたしに微笑む!」――飛ばない。
最後、真平。
「……またオチ役か」ため息をつきながら刺した瞬間――
ボンッ!!
黒ひげ、見事に天井へ。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きたーっ! 真平さん優勝~!」美優が拍手。
「違う、負けだって!」
「真平ちゃん、また昭和に負けたね」萌香が冷静にコメント。
琴美は腕を組み、ドヤ顔で言い放った。
「これが昭和の教訓よ――油断する者ほど飛ぶ!」
「そんな教訓ないから」沙羅。
二回戦。
全員慎重に差し込み……黒ひげ、動かず。
「……あれ? 飛ばない?」琴美が首をかしげ、
上からのぞきこむ。
沙羅が横から手を伸ばす。
「ここ、ちゃんと刺さってないわよ」
カチッ。
ボンッ!!
黒ひげ、一直線に飛び――カチン、と小さな音を立てて琴美の額に突き刺さった。
「ひゃあああぁぁぁ!!!」
「GG! 文化部危機一髪!!!」
「パォォ! 当たったですぅ!!」
「当たったじゃない! 痛いの!!!」琴美が涙目。
巫鈴が淡々とメモを取る。
「……教訓。覗く者、飛ぶ。」
沙羅が静かにうなずく。
「それはまぁ、正しいわね。」
――翌日、放課後。
黒ひげ危機一髪は、すでにただの玩具ではなくなっていた。
机の上で、勇馬が真剣な顔でドライバーを握っている。
「勇馬……まさかとは思うけど、それ、直してるんじゃなくて――」真平。
「ええ、改良してます」勇馬の眼鏡が光った。
「きたっ! これが昭和の技術魂!」琴美が背後から身を乗り出す。
「違う、令和の暴走だろ……」沙羅が冷ややかにツッコミ。
「このスプリングを強化すれば、黒ひげさんの跳躍力が約三倍に。
さらに、この回路を通せば――飛ぶ瞬間に危機一髪の文字がLEDで光ります! 美学です!」
「いやそれ、危機一髪どころか爆誕だよ!」真平が叫ぶ。
「パォ~! それ、ロケットみたいです!」シャオが目を輝かせた。
「……発射実験、いってみましょうか」勇馬が静かにスイッチを入れる。
カチッ。
次の瞬間――
ドゴォン!!
黒ひげが天井の蛍光灯を越え、部室の壁に「バンッ!」と刺さった。
全員、硬直。
「お、おい勇馬……これもう、事件だぞ」真平。
「成功です! 昭和技術の可能性を証明しました!」勇馬、満面の笑み。
「これが、未来へ飛ぶ昭和魂よ!」琴美が拳を握る。
「……校長室行き確定よ」沙羅。
そこへ、タイミング悪く扉が開いた。
「あなたたち、また爆発音……って、天井に刺さってるの何?」
顧問の織田市子先生が目を丸くする。
「昭和の夢です!」琴美、即答。
「そう……あとで職員室に夢の説明に来なさい」
市子先生はこめかみを押さえ、ため息を残して去っていった。
美優はおずおずと落ちてきた黒ひげを拾い上げ、ぽつり。
「……なんか、この子、空を見た気がしますね~」
放課後の校庭。
夕陽を背に、シャオとズーハンがなにやら巨大なものを組み立てていた。
「パォ~! ズーハン、こっちもうちょっと右です!」
「了解! でもこれ……マジでやるのか?」
転がされているのは――ドラム缶。
側面には穴がズラリ。
そこに竹刀やほうき、傘の骨まで突き刺さっている。
「これ、黒ひげ危機一髪の――」真平が口を開いた瞬間、琴美が胸を張って宣言。
「等身大バージョン! 昭和ロマン拡張計画!」
「……いや、昭和の人もやってないよそれ」沙羅が冷ややかに。
「安全基準どこいった……」勇馬が小声でつぶやく。
「これね~、中に人が入るのです~!」シャオが無邪気に笑う。
「だ、誰が!?」真平が即ツッコミ。
「オレ! 実験は体で覚えるタイプだから!」ズーハンが自信満々に胸を叩く。
「お前それ一歩間違えたらニュースになるやつだぞ……」
琴美はメガホンを握りしめ、叫んだ。
「さあ、昭和のスリル再現ショー、開幕よ!」
数秒後。
「いくわよ、せーのっ!」沙羅。
ガシャンッ!(竹刀が差し込まれる)
……沈黙。
「えへへ……ドキドキしますね~」美優が胸に手を当てる。
琴美も一突き。ガコン! 音だけ派手。
……まだ動かない。
「では、物理的限界点を――」勇馬が工具を持ち上げる。
「やめろ勇馬、それ以上はマジで飛ぶ!」真平が慌てる。
そして――シャオの順番。
「パォ! 運命の一刀、いきます!」
ズバッ。
ドカァン!!
ドラム缶がぐるんと一回転。
夕陽を背に、ズーハンが黒ひげポーズで空を切り裂くように飛び出した。
「うおおっ!? ナイスジャンプ!!」
「GGッ! 飛んだ! オレ、飛んだよ!」
「ズーハン生きてる!?」美優が駆け寄る。
「成功よ! 昭和魂、完全再現ッ!」琴美が歓喜のポーズ。
「再現じゃなくて災難よ……」沙羅がぼやく。
――数日後。
那須塩原学園では黒ひげ祭り騒動として生徒会議題に上がり、
生徒安全委員会から「ドラム缶使用の文化活動は禁止」と正式に通達された。
巫鈴は静かにノートを閉じ、記す。
「……記録。文化部、黒ひげを超越す。」
それでも、シャオとズーハンはどこか誇らしげに言った。
「パォ~! 飛んだら勝ちです!」
「な、昭和魂ってやつだろ?」
――たぶん違う。




