沖縄は風が決めた
放課後の部室。
陽が傾き、窓から射すオレンジ色の光が、部屋の中をやわらかく染めていた。
いつも通り、文化部メンバーが集まっている――が、今日は空気が妙に熱い。
「みんな聞いたでしょ? 那須塩原学園創立百周年記念の修学旅行!」
「こういうのって普通は体育館で校歌合唱して終わりなのに……うふふ、楽しみですねぇ」美優はお茶を淹れながら、のほほんと笑う。
「俺らついてるよな、修学旅行に二回行けるなんて!」
真平が机に肘をついてニヤリ。
「全校生徒で行く“特別企画”なんだって!」
「全校生!?」萌香が目をまん丸にした。
「何人いると思ってんのよ、飛行機足りるの?」
「すごいスケールね……どこ行くの?」巫鈴が首をかしげる。
勇馬が眼鏡を押し上げながら淡々と答えた。
「候補は二つ。“台湾”か“沖縄”。どちらも歴史と文化の学びを重視しているそうです」
「つまり!」琴美が机をドンッと叩いた。
「南国決戦よ!!!」
「……大袈裟すぎる」沙羅が冷静に返す。
「沖縄ならビーチ、台湾なら夜市。どっちも勝ちでいいじゃない」
「いやいや! 旅行は“どこに行くか”より“テンション”なのよ! ねぇ、美優ちゃん!」
「はい どこでも美味しいものがあれば大勝利です」
「おまえら、平和だな……」真平が笑う。
その時、部室の奥で「ガッシャーン!」という派手な音。
ズーハンとシャオが大きな段ボールを引きずってきた。
「……おい、なに始める気だ?」真平。
「GG! 文化部は行き先を天に託す!」ズーハンが堂々と宣言。
「パォォ! 願掛けの儀式ですぅ!」シャオは白いハチマキを締めている。
二人が机の上に並べたのは――
シーサーの置物、スパム缶、紅いもタルト、海ブドウの瓶詰め、そしてなぜか金のドラゴンフィギュア。
「……なにこれ。海の幸と神話のミックスグリル?」巫鈴がため息。
「パォ! “沖縄召喚の陣”ですぅ!」
「GG! 願えば南国来たる!!」
「ちょっと待って、それどこ情報よ」沙羅が眉をひそめる。
「ネット!」
「ソース薄っ!」
そして二人は――なぜか白装束に着替え始めた。
「パォォ、シャオは“南風の巫女”ですぅ!」
「GG、我は“風読の呪師”!」
「ちょ、待って、なんでそれっぽい衣装あるの!?」萌香が突っ込む。
「コスプレ使い回し!」ズーハンが胸を張る。
「リサイクル精神は褒めたいけど、方向性がヤバいのよ!」巫鈴。
二人はペンライトを両手に構え、ぐるぐる回り始めた。
「……なにこれ。まさかのライブ形式?」萌香。
「パォォ! 南の風を呼ぶダンスですぅ!」
「GG! リズムは“島唄”!」
「いやそれ、著作権的に危ない!」勇馬がツッコむ。
琴美はノリノリでスマホを構えた。
「ちょっと動画撮らせて! “沖縄召喚チャレンジ”タグつけて投稿する!」
「やめなさい、炎上するわよ!」巫鈴が必死に止める。
「南の海よ〜! 我らに青空と修学旅行を〜!!!」
二人の声が部室に響き渡る。
すると――窓の外からピュウッと風が吹き込み、カーテンがふわりと舞った。
「うわっ!? 本当に風が来た!」萌香が驚く。
「GG! 見たか、風の返答だ!!」
「パォォォ! 成功ですぅ!!!」
「……二人にとって台湾は“帰省”。沖縄は“遠征”。祈りが偏るのは当然ね。」巫鈴が冷静にぼやく。
「バカ言わないで、ただの気圧変化よ!」
「でも……タイミング完璧だったわね」勇馬が小声でつぶやく。
そこに――ドアがガラッと開いた。
「ちょっとあなたたち、なにやってるの!!」
入ってきたのは顧問の織田市子先生。
「……宗教活動です」巫鈴が間髪入れず答える。
「やめなさい!」市子先生が即制止。
「先生も一緒に祈れば旅費アップです!」ズーハン。
「パォ、団体割引も来るですぅ!」シャオ。
「その発想どこから出てくるの!?」市子先生が頭を抱える。
「先生、祈りの心は自由です!」琴美が妙に真面目な顔で援護。
「自由の濫用って言うのよ、それ!」巫鈴。
そこへ校内放送が流れる。
『創立百周年記念修学旅行、行き先は――沖縄に決定しました』
「パォォォォォ!!!」
「GG!! 勝利!!」
部室で飛び跳ねる二人。
「……本当に叶ったわね」琴美が呆然。
「マジで!? ガチ成功じゃん!!」萌香が叫ぶ。
「科学的には説明不能……でも偶然にしては出来すぎね」巫鈴が冷静に分析。
「統計的に0.5%の奇跡です」勇馬がメモを取る。
「……先生の胃薬、また増えるわね」沙羅がため息。
その日の夕暮れ。
片付けを終えた部室の隅で、ズーハンとシャオがまた正座していた。
「GG、次は快晴祈願!」
「パォォ! 青い空とソフトクリームを呼ぶですぅ!」
「……あなたたち、懲りないわね」巫鈴が呆れ顔で笑う。
「でもまぁ、こういうのが文化部よね」琴美が微笑む。
「GG! 信じる心が勝利を呼ぶ!」
「パォォ! そしてソフトクリームを呼ぶですぅ!」
「……胃薬も呼ぶと思うわ」沙羅の一言に、全員が吹き出した。
こうして、文化部の“南国召喚儀式”は奇跡的に成功し、
那須塩原学園創立百年記念――全校修学旅行、行き先・沖縄が決定したのであった。




