信じる心のバースデイ
あの大騒動から数日後の放課後。文化部の部室は、いつになく落ち着きがなく、そわそわとした空気に包まれていた。
机の下には紙袋、ロッカーには段ボール箱、勇馬の足元にはクーラーボックス。
「おい……本当にバレてないんだろうな」
真平が小声で確認すると、琴美が親指をビシッと立てる。
「任せなさい! 昭和のドッキリ魂をなめないで!」
「……その言い方、逆に不安になるんだけど」沙羅が呆れ顔を返す。
「パォォ! クラッカー準備完了ですぅ!」
「GG! ケーキ冷えてる!」
シャオとズーハンもやる気満々だ。
博美はため息をつきながらも、どこか口元が緩んでいた。
「まあ……あの子が気づいてないなら、作戦成功ね」
ほどなくして、扉が開く。
スケジュール帳を片手にした巫鈴が入ってきた。
「……なに? みんな今日はやけに静かじゃない」
その瞬間だった。
「せーのっ!」
パンッ! パンッ! パンッ!
一斉にクラッカーが鳴り、色とりどりの紙テープが宙を舞う。
「巫鈴ちゃん! ハッピーバースデイ!!!」
巫鈴の瞳が大きく見開かれる。机の上には、勇馬が用意していたバースデーケーキ。
美優が腕によりをかけたオードブルに、沙羅特製のホットプレート焼きそば。
チョコプレートには「HAPPY BIRTHDAY MISUZU」と大きな文字が描かれていた。
「……っ、なにこれ……」
巫鈴の頬がほんのり赤く染まる。
まずは勇馬が真面目な顔で本を差し出す。
「……君なら喜ぶと思って。最新の教育学の専門書だ」
「……勇馬くんらしいわね」巫鈴は受け取りながら、少しだけ微笑んだ。
次に琴美が胸を張る。
「じゃーん! 特製昭和ノート! 寄せ書きアルバムだよ!」
めくった瞬間、字が雑すぎて判読不能なページが飛び込む。
「……これ、古文書解読レベルじゃない」
「魂で読むんだよ、魂で!」
萌香は得意げにUSBを掲げる。「♯巫鈴っち推し ♯祝16歳! 動画メッセージまとめといた!」
「……勝手にタグつけないで!」巫鈴が赤面して抗議する。
シャオとズーハンはどや顔で紙袋を出す。
「台湾伝統お菓子セットですぅ!」
「GG! ……半分味見済みだけど!」
「もう食べてるじゃない!」巫鈴は思わず額に手を当てた。
美優は小さな包みを差し出す。
「旅館で作った、抹茶バースデー羊羹です。えへへ……」
「……美優ちゃん、これは本当に嬉しい」巫鈴の表情が和らぐ。
沙羅と真平からは黒い箱。
「……実用的でしょ」沙羅が少し照れくさそうに。
「万年筆。受験でも役立つからな」真平が補足する。
「……ありがとう。大事にする」巫鈴の声が小さくなる。
博美は小瓶を手渡した。
「ハーバリウム。机の隅に置いておけば、少しは気が休まるでしょう」
「きれい……。ずっと飾っておけるわね」
最後に市子先生が、妙に爽やかな顔で紙切れを出す。
「はい。非公式だけど、赤点補習免除券。」
沈黙の後――
「先生! それ、私が欲しいぃぃ!!!」萌香が絶叫。
「ダメよ、主役限定特典だから」先生がさらりとかわすと、萌香は畳の上をゴロゴロ転がって悔しがった。
ケーキを食べ終えた頃、琴美が手を叩く。
「さぁ~て! 恒例イベントのお時間! 主役スピーチだよ!」
「えぇぇ!? 聞いてないんだけど!」巫鈴は狼狽する。
「スピーチ! スピーチ!」とコールが飛び、逃げ場はなくなった。
観念したように立ち上がり、巫鈴は一歩前へ。
「……あのね」
ざわめきが止まり、みんなが耳を傾ける。
「私は、人を信じるのが苦手で。誰かに期待すると裏切られるんじゃないかって、ずっと思ってた」
少しだけ視線を伏せる。
「でも……こうして祝ってもらって、プレゼントもらって。初めて仲間を信じていいんだって思えたの」
深呼吸をして、まっすぐ顔を上げた。
「ありがとう。これからも、みんなと一緒に前に進みたい」
部室は一瞬、感動の空気に包まれた。
だが次の瞬間――
「……で、もし私を泣かせたり裏切ったら、その場で宿題百倍返しだから!」
「ひぃぃぃ!!!」部員たちが総ツッコミでのけぞる。
「♯鬼教師再臨」萌香が即座にスマホに入力。
「オチまで用意するな!」真平が叫ぶと、巫鈴は赤面して顔をそむけた。
「……文化部だもの。オチは必須でしょ」
クラッカーの紙テープがまだ床に散らばる部室。
笑い声と甘いケーキの香りの中で、巫鈴はようやく仲間を信じられた誕生日を心に刻んだ。




