表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/269

信じる心のバースデイ

 あの大騒動から数日後の放課後。文化部の部室は、いつになく落ち着きがなく、そわそわとした空気に包まれていた。

 机の下には紙袋、ロッカーには段ボール箱、勇馬の足元にはクーラーボックス。

「おい……本当にバレてないんだろうな」

真平が小声で確認すると、琴美が親指をビシッと立てる。

「任せなさい! 昭和のドッキリ魂をなめないで!」

「……その言い方、逆に不安になるんだけど」沙羅が呆れ顔を返す。

「パォォ! クラッカー準備完了ですぅ!」

「GG! ケーキ冷えてる!」

 シャオとズーハンもやる気満々だ。

 博美はため息をつきながらも、どこか口元が緩んでいた。

「まあ……あの子が気づいてないなら、作戦成功ね」

 ほどなくして、扉が開く。

 スケジュール帳を片手にした巫鈴が入ってきた。

「……なに? みんな今日はやけに静かじゃない」

 その瞬間だった。

「せーのっ!」

パンッ! パンッ! パンッ!

 一斉にクラッカーが鳴り、色とりどりの紙テープが宙を舞う。

「巫鈴ちゃん! ハッピーバースデイ!!!」

 巫鈴の瞳が大きく見開かれる。机の上には、勇馬が用意していたバースデーケーキ。

美優が腕によりをかけたオードブルに、沙羅特製のホットプレート焼きそば。

チョコプレートには「HAPPY BIRTHDAY MISUZU」と大きな文字が描かれていた。

「……っ、なにこれ……」

 巫鈴の頬がほんのり赤く染まる。


 まずは勇馬が真面目な顔で本を差し出す。

「……君なら喜ぶと思って。最新の教育学の専門書だ」

「……勇馬くんらしいわね」巫鈴は受け取りながら、少しだけ微笑んだ。

 次に琴美が胸を張る。

「じゃーん! 特製昭和ノート! 寄せ書きアルバムだよ!」

 めくった瞬間、字が雑すぎて判読不能なページが飛び込む。

「……これ、古文書解読レベルじゃない」

「魂で読むんだよ、魂で!」

 萌香は得意げにUSBを掲げる。「♯巫鈴っち推し ♯祝16歳! 動画メッセージまとめといた!」

「……勝手にタグつけないで!」巫鈴が赤面して抗議する。

 シャオとズーハンはどや顔で紙袋を出す。

「台湾伝統お菓子セットですぅ!」

「GG! ……半分味見済みだけど!」

「もう食べてるじゃない!」巫鈴は思わず額に手を当てた。

 美優は小さな包みを差し出す。

「旅館で作った、抹茶バースデー羊羹です。えへへ……」

「……美優ちゃん、これは本当に嬉しい」巫鈴の表情が和らぐ。

 沙羅と真平からは黒い箱。

「……実用的でしょ」沙羅が少し照れくさそうに。

「万年筆。受験でも役立つからな」真平が補足する。

「……ありがとう。大事にする」巫鈴の声が小さくなる。

 博美は小瓶を手渡した。

「ハーバリウム。机の隅に置いておけば、少しは気が休まるでしょう」

「きれい……。ずっと飾っておけるわね」

 最後に市子先生が、妙に爽やかな顔で紙切れを出す。

「はい。非公式だけど、赤点補習免除券。」

 沈黙の後――

「先生! それ、私が欲しいぃぃ!!!」萌香が絶叫。

「ダメよ、主役限定特典だから」先生がさらりとかわすと、萌香は畳の上をゴロゴロ転がって悔しがった。


 ケーキを食べ終えた頃、琴美が手を叩く。

「さぁ~て! 恒例イベントのお時間! 主役スピーチだよ!」

「えぇぇ!? 聞いてないんだけど!」巫鈴は狼狽する。

「スピーチ! スピーチ!」とコールが飛び、逃げ場はなくなった。

 観念したように立ち上がり、巫鈴は一歩前へ。

「……あのね」

 ざわめきが止まり、みんなが耳を傾ける。

「私は、人を信じるのが苦手で。誰かに期待すると裏切られるんじゃないかって、ずっと思ってた」

 少しだけ視線を伏せる。

「でも……こうして祝ってもらって、プレゼントもらって。初めて仲間を信じていいんだって思えたの」

 深呼吸をして、まっすぐ顔を上げた。

「ありがとう。これからも、みんなと一緒に前に進みたい」

 部室は一瞬、感動の空気に包まれた。

 だが次の瞬間――

「……で、もし私を泣かせたり裏切ったら、その場で宿題百倍返しだから!」

「ひぃぃぃ!!!」部員たちが総ツッコミでのけぞる。

「♯鬼教師再臨」萌香が即座にスマホに入力。

「オチまで用意するな!」真平が叫ぶと、巫鈴は赤面して顔をそむけた。

「……文化部だもの。オチは必須でしょ」

 クラッカーの紙テープがまだ床に散らばる部室。

 笑い声と甘いケーキの香りの中で、巫鈴はようやく仲間を信じられた誕生日を心に刻んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ