5-B
「ただいま」
彼はそう呟きながら玄関のドアを開ける。
口から出たその言葉に彼は気づいていなかった。
靴を脱ぎ、揃えてからいつもの定位置に座る。1時間ほど何時もよりずれているせいで、面白くも無いバラエティ番組を見ながら食べる羽目になった。
「この番組、どこに向かってるんだろ...」
放送開始直後は面白かったのに...なんて思いながらお弁当を綺麗に完食する。
「ごちそうさま」
空になった弁当の容器を袋に入れ、ゴミ箱に捨てる。
ポケットの携帯が鳴る。
久しぶりにアラーム以外の音を鳴らしたからか、彼には携帯が嬉しそうに見えた。
『◻︎◻︎です!お弁当美味しかったですか??今度お家行かせてくださいね!』
彼女からのメールだった。
文の間間には可愛く揺れる絵文字が打たれており、彼女の楽しそうな様子が目に浮かぶ。
しばらく眺めた後、携帯を閉じてポケットにしまう。
彼は、メールを返さなかった。
「そろそろ準備しないと...」
自分に言い聞かせるように彼はそう言って仕事の準備を始める。
いつもより1時間ほど遅れ焦っているのか、それとも別の理由があるのか、動作に無駄がなく、出発の30分前に準備が終わった。
「後30分...」
どうしたものか、と彼は唸る。
ふと携帯を取り出してメールボックスを開ける。そこには『初メールです』という可愛く装飾された件名のメールが、保存されていた。
彼は無言でメールを開ける。
『◻︎◻︎です!お弁当美味しかったですか??今度お家行かせてくださいね!』
もちろん先程と同じ文。可愛く装飾されたこの文を見つめ彼は何かを考えていた。
「あれ?」
何かを発見する。
「まだ下にスクロールできる」
彼はメールを下にスクロールする。
そこには隠されたかのように。彼を見透かすかのようにこう書かれていた。
「ちゃんと返事して下さいね」
そう彼が読み上げた瞬間、携帯に電話番号が映し出され大きな着信音が部屋に響いた。




