6-B
携帯に映し出された見慣れない電話番号。彼は疑問に思った。
ふと彼女の顔が頭によぎる。
しかしその可能性を頭の中で振り払う。
彼女はとても常識ある人だ。いきなり電話をかけて来るわけが無い。そう思いながらも「とりあえず出よう」彼はそう思い至り電話にでた。
ツーという音が耳に入る。
「もしもし?」
返事は無く、電話の向こうで何か動く音が聞こえるだけだった。
「あの、多分間違い電話だと思うんですけど、あの、聞いてますか?」
耳に当てている高性能なハコの中は、静まり返っていて返事が無い。
耳から離しそのハコを見つめる。
もう一度耳に当て再度呼びかけた。
「もしもし?切りますよ?」
そう言った時だった。
「も、もしもし、○○さんですか?良かった、出てくれた。出てくれなかったらどうしようかと思いました。」
声、聞き覚えのある声、声の主は彼女だった。
「どうしたの?何があったの?」
「なんでも無いですよ、ただちょっと○○さんに伝えたいことがあったから。」
その返事が嘘だと、彼はすぐにわかった。
「じゃあ」
なぜなら、
「どうして」
彼女は、
「泣いてるの?」
「泣いてなんか無いですよ」
涙声で彼女は否定する。
「そんな事よりも、伝えたいことがあるんです」
そんな事よりも。
彼女は自分の悲しみよりも、もっと大切なことがあると言わんばかりに、言葉を続ける。
「あの、ですね、私、○○さんの事が好きでした」
過去形。
「本当、なんでもっと早く言えなかったんですかね、もう会えないのに」
「どうして、何かあったの?家でなんかあったの??」
「違います、私、だめ、あの。店長に、何も言わずに辞めてごめんなさいって言っといてもらえますか?」
こんな時にも、彼女は人のことを考える。僕に話しかけてくれたように。
彼女は震えていた。
「ありがとうございます、あ、あの、大好きでした。もう会えないのが悲しいです。ここ、どこ」
何か鈍い音と共に勢いよく電話が切れる。
「ここ、どこ」と言う彼女のセリフが頭から離れない。
箱の中の静寂、何かの動く音、震える彼女の声。何か引っかかる。
何か。何処かで聞いたような。気がする。




