69貴族令嬢はお布団を届けて別荘を買います。 カナリア諸島に羽毛布団を輸送します。
第69章 貴族令嬢はお布団を届けて別荘を買います
エルレンフェルトのホテルでは、朝からリネン室の前に大きな袋が並んでいました。
羽毛布団が十四組。
枕も十四。
シーツと枕カバー、それから布団のカバー。
ポリエステルでできた、見た目だけはつるつるした絹のようなローブ。
シャンプー、リンス、バスソープ。
そして、どろちゃんが前の世界でよく知っていた、ふかふかの今治タオルです。
リネン室から出してしまえば、また補充されます。
ですからホテルとしては困りません。
ただし、困ることがひとつだけありました。
「……軽いけれど、大きいですね」
フランソワさんが、羽毛布団の入った袋を両手で抱えて言いました。
「うん。人を乗せるときより、ふくらんでる」
「お嬢様。比べるものが少々おかしいと思います」
ホテルの給仕さんも、今日は食事を運ぶだけではありません。大きな袋をひとつずつ確認しながら、チェブラーシカちゃんへ積む順番を考えています。
オイゲンさんは、その様子をしばらく眺めていました。
「ドロテーヤ嬢。私は、もう少し外交上の意味がありそうな荷物を運ぶものと思っていたのだが」
「あるよ。ちゃんと寝られないと、みんな機嫌悪くなるし」
「……そう言われると、反論しにくいな」
ハンナさんは、ローブの箱と洗面用品の箱を別にしていました。
「こちらは濡れるものではありませんが、瓶が割れますと困ります。お布団とは離しておいた方がよろしいでしょう」
「うん。シャンプーとリンスも似た瓶だから、分かるようにしておいてね」
「もう札を付けました」
「はやい」
こうしてチェブラーシカちゃんの貨物室は、王様や女王様を逃がしたときとはまるで違う、やわらかい荷物でいっぱいになりました。
どろちゃんとフランソワさん。
オイゲンさんとハンナさん。
そして、いつもの給仕さん。
みんなが乗り込むと、チェブラーシカちゃんはエルレンフェルトを離れました。
◇
長い飛行のあと、テネリフェが見えてきました。
前回は、王様や女王様たちを次々に運び込み、スペイン側へ引き渡し、燃料や帰りの予定まで考えていました。
ですから、島そのものを落ち着いて見る余裕はほとんどありませんでした。
今回は違います。
貨物室にあるのは、お布団と枕とタオルです。
どろちゃんは着陸へ向けて高度を下げながら、島の地形を見ていました。
そのとき、前の世界の記憶が、ふいに頭の中へ出てきました。
――ここって、KLMとパンナムの……。
一瞬だけ、手が止まりそうになりました。
テネリフェ。
霧の中で、大きな旅客機同士が地上で衝突した事故。
どろちゃん自身も、飛んでいる飛行機が墜落して死んだわけではありません。
前の世界で、バイカル湖の島にある実家へ帰ろうとしていたとき、緊急着陸してきたAn-22に地上でひかれました。
そして、こちらへ来ました。
頭の中には、アントノフの技師さんたちまでいます。
――もしかしたら、あの事故でも、どこかの世界へ行った人がいるのかな。
――その人の頭の中には、ボーイングの技師さんたちがいたりして。
そんなことを考えてしまいました。
普通なら、そんなことがあるはずはない、と笑えば終わります。
でも、どろちゃん自身が、あまりにも変な実例でした。
『滑走路を見る方が先ですよ』
頭の中で、技師さんの声がしました。
厳しい声ではありません。
いつもの、少し呆れたような声です。
「うん」
どろちゃんは小さく返事をして、もう一度前を見ました。
チェブラーシカちゃんは、いつも通り大きな音を立てながら着陸しました。
◇
到着すると、まず荷物をスペイン側へ渡します。
羽毛布団十四組。
枕十四。
シーツ類。
ローブ。
シャンプー、リンス、バスソープ。
タオル類。
スペイン側の担当者が、ひとつずつ紙と照らし合わせていきます。
「こちらが十四組でございますね」
「うん。お布団と枕は全部あるよ。シーツも一緒」
「こちらの箱は?」
「シャンプーとリンス。こっちはバスソープ。瓶が似てるから、札を見てね」
ハンナさんが横から付け加えました。
「ローブとタオルはこちらです。島ごとの数につきましては、そちらでお願いいたします」
「承知いたしました」
ただし、その日のうちに各島へ配るわけではありません。
生活費を負担しているのは、スペイン王フェリペ五世の側です。
つまり、お孫さんのお財布です。
ですから、物を受け取って、どの家へ何を渡したのか、会計の書類を通さなければなりません。
皇帝夫妻がその場で自分のお布団を抱えて帰る、というわけにはいかないのです。
「配送は、明日以降になります」
「うん。急がなくていいよ。ちゃんと届けば」
どろちゃんたちは受領を確認すると、ようやく島を見る時間ができました。
◇
テネリフェの町を歩いていると、食べ物の匂いがします。
店には布もあり、食器もあり、果物も並んでいます。
どろちゃんはフランソワさんやハンナさんと店先を見ながら歩いていました。
「こっちは、思ったよりいろいろあるね」
「そうですね、お嬢様。先日はいらっしゃる方をお迎えするだけで、店を見る暇もございませんでしたから」
その少し先で、オイゲンさんの歩調が変わりました。
「……陛下」
どろちゃんも見ました。
「あ。ほんとだ」
皇帝夫妻がいました。
宮殿ではありません。
店先です。
皇后は並べられた品物を見ていますし、皇帝も店の人と何か話しています。
必要なものを選び、書類に署名すれば、あとでスペイン側の会計へ回ります。
顔を見せただけで何でも持って帰れるわけではありません。
でも、現金を持ち歩かなくても、署名できちんと買い物ができます。
オイゲンさんは近づくと、以前と変わらない作法で礼をしました。
「陛下。お久しゅうございます」
皇帝も気づきました。
「オイゲンか」
「はい。ドロテーヤ嬢の飛行機に乗せてもらいました。ハンナも一緒です」
ハンナさんも礼をします。
皇后は、少し驚いた顔をしてから笑いました。
「あなた方もこちらへ来ていたのですね」
「お布団を持ってきたよ」
どろちゃんが言いました。
「十四組。枕もシーツもあるよ。タオルとローブと、お風呂のものも」
「まあ。もう届いたのですね」
「スペインの人には渡したよ。でも書類があるから、島へ届くのは明日からだって」
皇帝が少しだけ苦笑しました。
「何をするにも紙は付いてくるものだな」
「お財布がお孫さんだからね」
皇帝は、少しだけ遠い目をしました。
そこからさらに歩くと、今度は辺境伯さんが食事をしていました。
どろちゃんが先に見つけます。
「……またいた」
「今度は誰だ?」
オイゲンさんが聞きます。
「あそこ。辺境伯さん」
辺境伯さんの島にも人はいます。
けれど、テネリフェほど店も食堂も多くありません。
島によっては、用意された住まいの周りに大きな商業地などありません。
ですから、買い物や外食のためにテネリフェへ来ることがあります。
結局、みんな一緒に食事をすることになりました。
◇
魚料理が出てきました。
焼いたものもあります。
煮たものもあります。
そして、薄く切った魚に油と柑橘の香りを合わせた皿もありました。
どろちゃんは一口食べます。
――カルパッチョ、おいしい。
もちろん、この時代の人はそんな名前を知りません。
どろちゃんの前の世界の頭が、勝手にそう呼んでいるだけです。
「これはいいな」
オイゲンさんも気に入ったようでした。
「もう一皿、頼んでもよいだろうか」
皇帝が笑いました。
「私に聞く必要はあるまい。ここでは私も署名して食べているだけだ」
「以前でしたら、陛下と同じ食卓につけば、もう少し帝国の話をしていたように思います」
「今は魚の話で十分だ」
「私も、そう思います」
ハンナさんは、別の魚料理を食べていました。
「こちらもおいしいですよ。ドロテーヤ様」
「ほんと?」
「はい。ただ、先ほどの薄い魚とはずいぶん違います」
食後には果物が出ました。
甘いもの。
酸味の強いもの。
香りの強いもの。
どろちゃんは、ひとつ食べて、また別のものにも手を伸ばしました。
「……果物もおいしい」
皇后も頷きます。
「こちらへ来る前は、島での暮らしをもう少し不自由なものと思っていました」
「買えるものは、いっぱいあるね」
「ええ。少なくとも、食べるものには困りません」
辺境伯さんが、静かに言いました。
「だから私は、こちらまで食べに来ている」
「やっぱり」
どろちゃんは笑いました。
テネリフェの店は、お客が増えます。
魚屋も果物屋も食堂も、ちゃんとお金を受け取ります。
痩せていくのは、たぶんフェリペ五世のお財布だけです。
◇
食事を終えてから、どろちゃんは島のお世話をしている人に尋ねました。
「このあたりで、売ってもらえる家ってある?」
「お屋敷でございますか?」
「そんなに大きくなくていいよ。寒いときに来て泊まれるところ」
エルレンフェルトの冬は寒いのです。
テネリフェなら、魚も果物もおいしい。
お世話係の人は少し考えてから、ひとつ心当たりを挙げました。
スペイン商人が破産し、差し押さえられた別荘があるというのです。
「見たい」
みんなで見に行くことになりました。
家は新しくありません。
長いあいだ誰も住んでいなかったわけでもありませんが、庭の草は少し伸びています。
それでも、建物は十分に使えそうでした。
庭と建物の外側をひと通り見てから、今度は屋敷の中へ入りました。
ハンナさんは景色より先に台所を見ました。
「水はこちらですね。厨房も、少し整えれば使えます。収納も十分ございます」
フランソワさんは寝室を見ています。
「お嬢様。こちらのお部屋でしたら、冬でも使いやすそうです」
オイゲンさんは窓から外を眺めました。
「私は、君が昼食を気に入った勢いで家まで買うとは思っていなかった」
「寒い日に使えるよ。お魚も果物もおいしいし」
「やはり、食事がかなり大きな理由ではないか」
「うん」
どろちゃんは隠しませんでした。
買うことに決めます。
ただし、ここでひとつ問題があります。
ナーロッパでのどろちゃんは、領主の娘です。
領主令嬢という身分は、お父様との関係で成り立っています。
その資格では、どろちゃん自身が独立した契約主体として、この家を買うことができません。
一方、英国で与えられた伯爵位は違います。
伯爵なのは、どろちゃん本人です。
「じゃあ、英国の伯爵の方で買うね」
書類が作り直されました。
どろちゃんは、本人として署名します。
オイゲンさんが横から紙を見ました。
「同じドロテーヤ嬢なのに、こちらの肩書なら家を買えるのか」
「うん。領主令嬢は、お父様の娘っていう身分だから。伯爵はわたしだからね」
「制度というものは、時々、人間より言葉の方をよく見ているな」
「でも、買えたからいいよ」
購入だけでは終わりません。
次に来たとき、草が伸び放題で、窓も開かず、水も使えないのでは困ります。
建物を点検して、必要な修繕をすること。
庭の草を刈り、簡単な手入れを続けること。
ときどき室内へ風を通し、水回りも確認しておくこと。
そうした管理をお願いしました。
「一年分、先に払っておくね」
管理を引き受ける人が、少し驚きました。
「一年分でございますか」
「うん。次に来たとき、すぐ使いたいから」
ハンナさんも確認します。
「厨房と寝室につきましても、使える状態を保っていただければ助かります」
「承知いたしました」
こうして、テネリフェにはどろちゃんの冬の家ができました。
◇
帰る前に、どろちゃんにはもうひとつ仕事がありました。
皇帝夫妻と辺境伯さんたちを、それぞれの島まで送ります。
普段の輸送なら、チェブラーシカちゃんはテネリフェまでです。
そこから先はスペイン側の船に任せればよいのです。
けれど、病気や大きな事故のときまで船を待つわけにはいきません。
もし急ぐ必要があれば、チェブラーシカちゃんで直接迎えに行くことになります。
そのため、一度、実際に使えそうな離着陸場所を確認しておくことにしました。
皇帝夫妻と辺境伯さんの一行が乗り込みます。
その前に、どろちゃんは市場へ寄りました。
チェブラーシカちゃんには、最初から臭いを通しにくい袋と、ポリスチレンの断熱箱を積んであります。
「お嬢様。最初から買うおつもりだったのですね」
フランソワさんが言いました。
「うん。お魚がおいしかったら買おうと思ってた」
「果物も、でございますね」
「もちろん」
魚を買います。
きちんと包んでもらい、臭気防止用の袋へ入れ、断熱箱へ収めます。
それから、亜熱帯の果物も買いました。
こちらは魚とは別です。
給仕さんも、荷物の位置を確認しています。
「お食事のものと、お持ち帰りのお魚が一緒になりますと少々困りますので、こちらへ固定しておきます」
「お願いします」
今度の貨物室には、お布団はありません。
代わりに、魚と果物があります。
◇
最初の島が近づきました。
どろちゃんは、まず屋敷へ行きませんでした。
先に、上空から着陸に使えそうな場所を探します。
地面の状態。
使える長さ。
周囲の障害物。
風。
屋敷から人を運んで来られる道。
技師さんたちと確認しながら、今回使う場所を決めました。
「ここにする」
場所が決まってから、チェブラーシカちゃんは屋敷の上空へ向かいます。
隠れて近づくことなどできません。
チェブラーシカちゃんです。
大きな音が島へ響きます。
屋敷の人が気づかない方が難しいくらいです。
どろちゃんは、着陸場所と、そこへ迎えに来てほしいことを書いた紙を通信筒へ入れました。
「落とすよ」
通信筒が落ちます。
屋敷から人が出てきました。
ひとりが走って、通信筒を拾います。
どろちゃんは、それを上空から確認しました。
「拾ったね」
「はい、お嬢様。こちらを見ています」
「じゃあ、着陸場所へ行こう」
通信筒を落とすのは、飛行機が来たことを知らせるためではありません。
そんなものは爆音だけで十分すぎます。
どこへ迎えに来ればよいのかを、間違いなく伝えるためです。
チェブラーシカちゃんは先ほど決めた場所へ向かい、着陸しました。
少し待つと、屋敷から迎えが来ます。
皇帝夫妻を降ろし、地上からも周囲を確認しました。
屋敷からここまで、どれくらいかかるのか。
病人を運ぶとすれば、どの道が使えるのか。
次に本当に急いで来ることになったときのため、覚えておきます。
皇帝は、チェブラーシカちゃんを振り返りました。
「今日は買い物へ行って、食事をして、飛行機で家まで送ってもらったことになるな」
「うん。お布団は明日からだよ」
「それも忘れてはいない」
皇后が笑いました。
「次はこちらへ直接来られるのですね」
「病気とか、急ぐときだけね。普段はテネリフェから船でいいよ」
「その方がよいでしょう。毎回この音が来ましたら、島じゅうが何事かと思います」
「それはそうかも」
どろちゃんたちは、もう一度離陸しました。
◇
二つ目の島でも同じです。
まず着陸予定地を決めます。
それから辺境伯さんの屋敷上空へ行きます。
チェブラーシカちゃんの音を聞いて、人が外へ出てきました。
通信筒を落とします。
拾ったことを確認します。
それから、決めておいた場所へ向かって着陸しました。
辺境伯さんの一行を降ろします。
「今日は助かった」
「うん。またテネリフェでごはん食べてたら会うかも」
「その可能性は高いと思う」
「やっぱり」
ここでも、離着陸場所と屋敷までの道を確認しました。
病気のときには、ここへ直接来られます。
普段は必要ありません。
でも、使える場所を知らないのと、一度実際に使ったことがあるのとでは違います。
◇
二島を回り終えると、チェブラーシカちゃんはエルレンフェルトへ向かいました。
オイゲンさんとハンナさんも一緒です。
フランソワさんもいます。
給仕さんは、帰りの飲み物を用意しています。
貨物室には、テネリフェで買った魚と果物。
そしてテネリフェには、次に来たとき使えるよう、一年間管理を頼んだ別荘が残りました。
どろちゃんは席に座って、少し考えました。
前にこの島へ来たときは、王様や女王様を逃がすことで精いっぱいでした。
今日は、お布団を届けました。
皇帝夫妻と町で会いました。
辺境伯さんとも食事をしました。
魚と果物がおいしかったので、家まで買いました。
そして帰りには、みんなをそれぞれの島へ送って、急病のときに使える場所まで確認しました。
「ずいぶんいろいろしたね」
フランソワさんが笑いました。
「お嬢様は、お布団を届けにいらしたはずでございました」
「そうだった」
「別荘まで増えております」
「寒い日に使えるからいいよ」
オイゲンさんが、少し後ろから言いました。
「それに、魚と果物もある」
「うん。大事」
「私は、君の外交には食事がかなり大きな位置を占めているような気がしてきた」
「みんなでおいしいもの食べたら、喧嘩しにくいよ」
「……それだけで戦争がなくなるなら、私はずいぶん楽だったのだがな」
ハンナさんが笑っています。
チェブラーシカちゃんは、大きな音を立てながら北東へ飛び続けました。
帝国を失った人たちは、島で暮らし始めています。
買い物をして、食事をして、お布団を注文します。
そしてどろちゃんも、その島に冬の家をひとつ持つことになりました。
【小さな説明】
【ホテルの寝具と備品】
エルレンフェルトのホテルでは、リネン室から出した寝具や備品が補充される設定です。そのため、羽毛布団、枕、シーツ類、ローブ、洗面用品、タオルなどを予備として十四組まとめてカナリア諸島側へ送っています。各王家への配分はスペイン側が担当します。
【カナリア諸島】
カナリア諸島は、アフリカ北西岸の沖、大西洋上にあるスペイン領の火山島群です。この物語で主に扱うのは、テネリフェ、グラン・カナリア、ランサローテ、フエルテベントゥラ、ラ・パルマ、ラ・ゴメラ、エル・イエロの七島です。
テネリフェは大きく高い島で、中央には標高三七一五メートルのテイデ山があります。これはイベリア半島ではなく、スペイン全土で最も高い山です。グラン・カナリアも中央部が高く谷が深い島です。東側のランサローテとフエルテベントゥラは比較的低く乾燥しています。西側のラ・パルマは高く急峻で、ラ・ゴメラは小さいながら深い谷が多く、エル・イエロも小さな島に急な斜面が詰まっています。同じカナリア諸島でも、島ごとに地形はかなり違います。
名前の「カナリア」は、ラテン語の Canariae Insulae に由来し、一般には「犬の島々」という意味だと説明されます。古代ローマの記録に大きな犬のいた島が現れることと結びつけられていますが、語源には異説もあります。なお、小鳥のカナリアから島名がついたのではありません。島の名前が先にあり、そこにいる鳥がカナリアと呼ばれるようになりました。
航空機にとっても簡単な場所ではありません。海から来る貿易風が高い火山地形に当たるため、島の風下側などでは乱流や風の急変が起こりやすくなります。現代のテネリフェやグラン・カナリアでも、地形に関係するウインドシアは航空上の重要な問題です。そのため、どろちゃんは初めて各島へ直接降りるとき、上空から地形と風を見て、着陸予定地を慎重に決めています。
【カナリア諸島での生活費】
避難した王侯たちの生活費は、スペイン王フェリペ五世側が負担しています。王侯本人がテネリフェの店で商品を選び、署名によって購入し、あとでスペイン側の会計が精算する仕組みです。現地の商店や職人へ実際にお金が流れるため、王侯たちの生活そのものが島の経済活動にもなっています。
【テネリフェの別荘】
どろちゃんが購入したのは、破産したスペイン商人の差し押さえ物件です。ナーロッパでの「領主令嬢」は父である領主との関係による身分で、どろちゃん本人が独立した契約主体になる資格ではありません。一方、英国での伯爵位はどろちゃん本人に与えられたものなので、英国伯爵として本人名義で購入契約を結んでいます。
【別荘の管理】
購入後、建物の点検や必要な修繕、庭の草刈り、室内の換気、水回りなどの管理を現地へ依頼し、一年分の管理費を先払いしています。次回訪問時にすぐ使用できる状態を維持してもらうためです。
【各島への直接飛行】
通常の人員・物資輸送では、チェブラーシカちゃんはテネリフェまで飛び、そこから各島へはスペイン側の船などを利用します。ただし、急病や大きな事故など時間を優先する場合に備え、今回は皇帝夫妻と辺境伯一行を送る途中で、それぞれの島に直接着陸できる場所を実地確認しています。
【通信筒】
初めて使う島では、まず上空から着陸予定地を確定します。その後で邸宅上空へ行き、着陸場所と迎えを依頼する内容を書いた通信筒を投下します。地上の人が通信筒を拾ったことを確認してから、先に決めた着陸場所へ向かいます。チェブラーシカちゃんは非常に大きな音を出すため、通信筒は航空機の到着を知らせるものではなく、着陸場所などの情報を確実に伝えるために使われます。
【テネリフェと航空事故の記憶】
どろちゃんは前の世界で航空機事故によってこちらの世界へ来ています。前世では、ターボプロップ化されたAn-2でバイカル湖の島にある実家へ帰ろうとしていたところ、緊急着陸してきたAn-22に地上でひかれました。そのため、テネリフェという地名から、前の世界で起きた有名な地上航空事故を連想しています。ただし、今回の物語では、その記憶を長く引きずるのではなく、現在の安全な飛行と日常の出来事へ戻っています。




