55貴族令嬢のお部屋に事務用品は似合いません 神様が事務用品もくれました 仕事させるために?
第55章 貴族令嬢のお部屋に事務用品は似合いません
朝。
どろちゃんが自分の部屋へ戻ると、見慣れないものがありました。
「……なに、これ」
部屋の真ん中です。
木の床。
木の机。
彫りの入った椅子。
壁際には、ずっと使っている木製の収納家具。
その中に。
ベージュ色の箱が立っていました。
薄い鋼板でできています。
前にはガラスの入った扉。
左右へ滑らせる形です。
どろちゃんは近づいて、指を掛けました。
軽く動きます。
「これ、ベアリング入ってる」
扉は、金属同士を擦って引きずるような動きではありません。
レールの上を、小さな車輪が転がっています。
ずいぶん滑らかです。
でも。
どろちゃんは一歩下がりました。
「……合わない」
便利そうです。
とても便利そうです。
ただし。
ここは、貴族の娘の部屋です。
木の家具。
布。
飾り。
壁。
全部が、長い時間をかけて部屋らしくなっています。
その中央に。
二十一世紀へ入る少し前の、学校か役所か研究室にありそうな、ベージュ色の鋼板製収納庫。
「ものすごく合わない」
しかも、真ん中です。
歩くと回り込まなければなりません。
フランソワさんが入ってきました。
止まりました。
「……お嬢様」
「ね」
「はい」
「合わないでしょう」
フランソワさんは、収納庫と部屋を見比べました。
「かなり」
「でしょう」
どろちゃんは、少し安心しました。
自分だけではありません。
◇ ◇ ◇
扉を開けました。
「わ」
中は、もっと見慣れたものでした。
白いチョーク。
色チョーク。
液体のり。
中央に支点のあるはさみ。
JETSTREAM。
油性マーカー。
ステープラー。
大きいものと、小さいもの。
それぞれの補充針。
メートル法の定規。
五ミリ方眼のノート。
A4の紙。
A3の紙。
束になっています。
OLFAのカッター。
三菱Hi-uniの鉛筆。
「これも日本だ」
鉛筆削りもありました。
電気ではありません。
机の端へ固定して、横のハンドルを回す形です。
二千年ごろの学校や事務室に置いてありそうな、頑丈な手回し式でした。
その横。
「テープまである」
セロハンテープ。
そして。
「重っ」
持ち上げようとして、思ったより重かったものがあります。
卓上用のテープホルダーです。
底が重くできています。
片手でテープを引いて、そのまま刃へ当てれば切れます。
「これ、便利」
「お部屋へ置かれますか」
「置かない」
返事は即答でした。
フランソワさんが、また部屋を見ました。
「では、どちらへ」
「倉庫」
「すぐに、でございますか」
「うん」
「中身をご覧になったばかりでございますが」
「中身はいいの」
どろちゃんは鋼板の側面を軽く叩きました。
「これが、お部屋に合わない」
「確かに」
「ものすごく」
「はい」
便利だからといって、何でも部屋の中へ置けばよいわけではありません。
どろちゃんは使用人さんたちを呼びました。
◇ ◇ ◇
中身を一度に全部出す必要はありませんでした。
ただし、そのまま持つには重いです。
扉が勝手に動かないようにします。
棚の中のものも動かないようにします。
床を傷つけないよう、下へ布と板を使います。
「こっち、ゆっくりでいいです」
「はい、お嬢様」
「壁、当てないでね」
「承知しております」
数人で運びます。
廊下。
階段。
曲がり角。
どろちゃんも後ろから見ています。
移動先は、普段の生活をする部屋ではありません。
倉庫です。
ここなら鋼板でも気になりません。
むしろ、木箱の間に置くと使いやすそうです。
「ここ」
「壁際でよろしゅうございますか」
「うん。扉が開くところ空けて」
設置しました。
どろちゃんは、もう一度扉を動かします。
滑らかです。
「ここならいい」
フランソワさんも見ました。
「ずいぶん馴染みましたね」
「倉庫だからね」
少なくとも、朝起きたら貴族の寝室の真ん中に事務用スチール棚が立っている、という光景ではなくなりました。
◇ ◇ ◇
どろちゃんは棚の中を、もう少し確認しました。
チョーク。
紙。
鉛筆。
ペン。
テープ。
補充針。
どれも消耗します。
神様が一度だけ置いていったものなのか。
それとも。
前に食器棚で起きたようなことがあるのか。
「試してみよう」
三菱Hi-uni。
一箱。
十二本入りです。
箱ごと取り出しました。
「これは?」
フランソワさんが聞きました。
「外に出したままにする」
「お使いになるのではなく?」
「今日は使わない」
「では、なぜ」
「明日見る」
棚の外。
別の台の上へ置きました。
棚の中には、その分だけ空きがあります。
「これで一晩」
「何か起こるのでございますか」
「分からない」
「分からないのでございますね」
「だから試すの」
今日のところは、それだけです。
朝の時点では、まだ何も分かりません。
◇ ◇ ◇
お昼ごろ。
会議棟の掃除をしていた使用人さんが、どろちゃんを探してきました。
「お嬢様」
「なに?」
「会議棟に、また見慣れないものが届いております」
「また?」
「はい」
「箱?」
「いえ」
使用人さんは、少し困った顔をしました。
「机のようなものが、たくさん」
「机?」
「百ほど」
「……百?」
「数えましたところ、そのようでございました」
どろちゃんは立ち上がりました。
「見に行く」
◇ ◇ ◇
会議棟へ入ると、すぐ分かりました。
「うわ」
机ではありません。
ドラフターです。
大きな製図板。
金属の脚。
角度を変えられる機構。
製図用のアーム。
平行に動かせる定規。
見覚えがあります。
「古い」
フランソワさんが見ました。
「古いのでございますか」
「あ」
どろちゃんは、少しだけ止まりました。
言い方を間違えました。
机の上に置いてあったJETSTREAMを指します。
「このペンよりは、ずっと前の感じ」
「このペンより、でございますか」
「うん。神様の道具の中ではね」
それでごまかしました。
だいたい、一九八〇年代を思わせる製図設備です。
コンピュータで図面を引くより前。
大きな紙へ、鉛筆やペンで正確に線を引くための道具。
でも、この世界から見れば。
十分に未来です。
「百組……」
並んでいます。
部屋の一角では済みません。
会議に使う場所まで圧迫しています。
「邪魔だね」
「かなり」
朝の収納庫とは、理由が違います。
あちらは部屋に似合わない。
こちらは、単純に数が多すぎます。
「ライデンに持っていこう」
「全部でございますか」
「……無理かな」
見回しました。
百組です。
ドラフターは軽い文具ではありません。
しかも、かさばります。
「ミツバチちゃんに積めるだけ」
どろちゃんは決めました。
◇ ◇ ◇
最初の積み込みが始まりました。
ミツバチちゃんの後部扉。
客室兼貨物室。
製図板を傷つけないようにします。
可動部分は動かないようにします。
重いものを片側へ寄せません。
床へ固定します。
「もっと入る?」
「重量にはまだ余裕がございます」
「場所は?」
「こちらが限界かと」
「やっぱり」
重さより、先に場所がなくなります。
大きな板と脚。
何組も積めば、客室が埋まります。
「じゃあ、これで行く」
フランソワさんも右席へ入ります。
扉を閉めました。
始動。
離陸。
ミツバチちゃんはライデンへ向かいました。
◇ ◇ ◇
ライデン大学へ着くと、すぐ人が集まりました。
「これを使ってください」
「これは?」
「製図する机」
大学の人たちが、荷下ろしされたドラフターを見ます。
板。
アーム。
定規。
角度の目盛。
動かしてみたい顔をしています。
「今日は置いて帰るけど」
どろちゃんは、手を上げました。
「次に来たとき、使い方説明するから」
「次、とは」
「もう一回持ってくる」
少し間がありました。
「まだあるのですか」
「いっぱいある」
「何台ほど」
「百組来た」
その場にいた人の顔が変わりました。
「百?」
「うん」
「すべて同じものですか」
「だいたい同じ」
どろちゃんは、製図板を指しました。
「だから、製図する人、集めておいてね」
「工房の者も?」
「うん」
「数学の者は?」
「図面描くなら」
「測量の者もよろしいでしょうか」
「もちろん」
質問が始まりそうです。
でも、今はまだです。
「次に来たときね」
どろちゃんは、いったんエルレンフェルトへ戻りました。
◇ ◇ ◇
会議棟。
「……減った?」
どろちゃんは首を傾けました。
ドラフターは、まだたくさんあります。
ものすごくたくさんあります。
「減ってないように見える」
「運びましたので、減っているはずでございます」
「でも、いっぱいある」
「数えましょうか」
「うん」
数えました。
減っています。
「よかった」
どろちゃんは本気で安心しました。
「補充されてない」
朝の文具棚で、補充されるかもしれない試験を始めたばかりです。
その日のうちに、ドラフターまで無限に戻ってきたら困ります。
こちらは違いました。
運べば、ちゃんと減ります。
「でも、まだ多いね」
「はい」
「もう一回」
二回目の積み込みです。
◇ ◇ ◇
二回目のミツバチちゃんがライデンへ着くころには、言っておいた人たちが集まっていました。
製図をする人。
測量をする人。
機械を考える人。
建物を考える人。
数学や物理の研究者。
工房の職人。
人数は、どろちゃんが想像していたより多くなっています。
「こんなに?」
「製図をする者、とお伝えしましたので」
「みんなするんだ」
「これからする者もおります」
「そっか」
ドラフターを一組、使える状態にします。
紙を固定します。
用紙の位置を決めます。
定規を動かします。
「これ、動かしても平行のまま」
横へ。
上へ。
下へ。
また横へ。
定規の向きが崩れません。
「ここで角度変える」
固定。
解除。
また固定。
「無理に力かけないでね」
聞いている人たちが、いっせいに近づきます。
「触っていいよ。一人ずつ」
最初の人が動かします。
「軽い」
「うん」
「この位置でも固定できる?」
「できる」
「角度はどこで読む?」
「ここ」
「同じ角度を別の場所でも?」
「そのまま動かせばいい」
次の質問。
「長い平行線を何本も引く場合は?」
「こう」
どろちゃんが実際に線を引きます。
「直角は?」
「これ」
「縮尺の違う図面では?」
「定規を替えてもいいし、数字で換算してもいい」
「測量図にも使えますか」
「使えるよ」
「機械部品の断面図は?」
「もちろん」
「建築の平面図は?」
「それも」
「曲線は?」
「それは別の道具も使う」
質問が止まりません。
◇ ◇ ◇
どろちゃんは、途中から黒板も使いました。
紙だけでは説明しにくくなったからです。
線。
中心線。
寸法。
基準。
同じ図面を他の人が見ても分かるようにすること。
「きれいな絵を描く道具じゃないよ」
どろちゃんは言いました。
「同じものを、別の人が作れるようにするための図面を描くの」
一人の職人が頷きました。
「寸法を残す」
「うん」
「材料も?」
「必要なら書く」
「加工する場所も?」
「書く」
「仕上げも?」
「書いた方がいい」
機械を作る人は、そこを気にします。
建物を作る人は、別のところを聞きます。
「壁の厚さを全部書くのですか」
「必要なところは」
「現場で測ればよい部分は?」
「それで間違わないならいいけど」
測量の人が割り込みました。
「地図で高さを示す場合は」
「それは……」
また別の話になります。
質問。
説明。
実演。
今度は実際に描いてもらいます。
紙を斜めに置いた人がいます。
「そこ、まず紙をまっすぐ」
「あ」
「ドラフターが正確でも、紙がずれてたら困るでしょう」
「確かに」
笑いが起きました。
◇ ◇ ◇
昼を過ぎました。
まだ終わりません。
どろちゃんは途中で食事を取りました。
集まった人たちも交代で食べます。
午後。
質問は、もっと具体的になりました。
「鉄道の線路配置にも使える?」
「使える」
「橋梁の部材図は?」
「使える」
「水路の断面は?」
「使える」
「船は?」
「使える」
「飛行機は?」
「使えるけど、飛行機の図面は勝手に持ち出さないでね」
少し笑いが起きます。
「秘密だから?」
「それもあるし、間違って作ったら危ないから」
そこは、どろちゃんも少し真面目です。
ドラフターがあるからといって、何でも作れるわけではありません。
でも。
作る前に考えたことを紙へ残す力は、一気に上がります。
これまで一人の職人の頭の中だけにあった形。
現物へ墨を付けて決めていた寸法。
言葉で伝えていた位置。
それを、図面へ移せます。
しかも。
同じ図面を、別の場所へ送れます。
ライデン。
エルレンフェルト。
工場。
造船所。
鉄道工事現場。
同じ線を見ながら話せます。
「これ、いっぱい要るね」
どろちゃんは、自分で言ってから止まりました。
「……いっぱいあるけど」
百組です。
周囲が笑いました。
◇ ◇ ◇
気づけば、窓から入る光が変わっていました。
「もう夕方?」
「そのようです」
フランソワさんが答えました。
「一日終わった」
「ほぼ」
まだ質問したそうな人がいます。
どろちゃんは手を上げました。
「今日はここまで」
「次は?」
「使ってみて。分からないこと出たら、まとめておいて」
「承知しました」
「壊したら?」
「壊さないように使います」
「うん」
少し安心しました。
ドラフターは電卓ほど繊細ではありません。
でも、乱暴に扱えば精度が狂います。
「動き悪くなったら、無理に回さないでね」
「はい」
「勝手に削らない」
「はい」
「油も、何でも入れない」
「はい」
工房の人が少し笑っています。
「分かってる?」
「よく分かりました」
今度こそ終わりました。
◇ ◇ ◇
ミツバチちゃんへ戻ります。
帰りは、行きより軽いです。
ドラフターは積んでいません。
空になった固定具。
持ってきた道具。
それだけ。
どろちゃんは左席。
フランソワさんは右席。
始動。
滑走。
離陸。
夕方のライデンが下へ離れました。
「今日は、文房具の日だったね」
「朝は収納庫でございました」
「昼から机」
「製図機でございます」
「机みたいなもの」
「百組」
「まだいっぱい残ってる」
「はい」
「帰ったら、もう運ばない」
「よろしいのでございますか」
「ミツバチちゃんで全部運んでたら、何往復するか分からない」
しかも、ライデンだけで使うものでもありません。
エルレンフェルトにも必要です。
鉄道にも。
工場にも。
建築にも。
「会議棟に置く場所作ろう」
「承知いたしました」
「会議するとき邪魔にならないところ」
「倉庫区画を整理いたします」
「うん」
空は暗くなり始めています。
どろちゃんは前を見ました。
今日は、ここまでです。
◇ ◇ ◇
エルレンフェルトへ戻ったのは夕方でした。
残っているドラフターは、もう運びません。
会議棟の一角。
普段の会議を邪魔しない場所。
出し入れできる通路。
製図板を傷めない置き方。
それを考えて、専用の保管場所を作ることにしました。
全部を一つの大学へ渡す必要もありません。
必要なところへ、必要な数だけ。
その方が使えます。
どろちゃんは部屋へ戻りました。
朝には、あそこへベージュ色の鋼板棚が立っていました。
今はありません。
木の机。
木の椅子。
いつもの部屋です。
「うん」
落ち着きます。
便利なものは好きです。
でも。
何でも部屋の真ん中に置いてほしいわけではありません。
◇ ◇ ◇
翌朝。
どろちゃんは倉庫へ行きました。
「さて」
昨日の鉛筆。
外へ出しておいた一箱。
十二本入り。
そのままあります。
誰も戻していません。
文具ラックの前まで来て。
どろちゃんは止まりました。
「……増えてる」
まだ扉を開けていません。
ラックの前に、昨日はなかった紙の束が置かれています。
大きいです。
一つ。
もう一つ。
札を見ました。
「A2」
隣。
「A1」
A3より大きな紙です。
ドラフターで使うには、こちらの方が都合のよい図面もたくさんあります。
「神様、昨日見てた?」
返事はありません。
昨日、ライデンでドラフターの説明をして。
大きな図面を描くことになって。
翌朝には、その紙まで来ています。
「……先にこっち置くんだ」
どろちゃんは、少し笑いました。
それから。
本来の確認です。
文具ラックの扉を開けました。
「あ」
中。
昨日、空いていた場所です。
一箱あります。
三菱Hi-uni。
同じ箱。
十二本。
どろちゃんは、外に出しておいた箱を見ました。
中の箱を見ました。
もう一度、外を見ました。
「増えた」
フランソワさんも確認します。
「昨日の箱はこちらにございます」
「うん」
「棚の中にもございます」
「補充された」
これで分かりました。
少なくとも鉛筆は。
規定数から減らして一晩置けば、補充されます。
「神様、消耗品は戻してくれるんだ」
ただし。
何でもではありません。
関数電卓は、一ダース届いたままです。
配れば減ります。
翌朝になっても増えません。
正式晩餐用の花柄や金彩の食器。
高級なクリスタルグラス。
あれも増えません。
特別なもの。
長く使うもの。
高価なもの。
それは有限です。
紙。
鉛筆。
チョーク。
ペン。
テープ。
針。
使えばなくなるもの。
そういうものは補充される。
「よく考えてるね」
「神様が、でございますか」
「うん」
無限に電卓が増えるわけではありません。
高級食器を出せば出すほど増えるわけでもありません。
ドラフターもそうです。
昨日二往復して運んだ分は、ちゃんと減っていました。
百組は百組です。
でも。
研究室や工房で毎日使う紙や鉛筆は、なくならない。
どろちゃんは、棚の中のA3用紙を見ました。
その横。
JETSTREAM。
チョーク。
セロハンテープ。
ステープラーの針。
「これ、ライデンにもいっぱい持っていけるね」
昨日。
ドラフターの使い方を教えながら、紙を何枚も使いました。
これからもっと使います。
図面が増えれば、紙も鉛筆も減ります。
でも。
ここから持っていけます。
「神様、昨日ドラフター百個くれたでしょう」
「はい」
「描く紙もなくならないようにしてる」
「そのようでございますね」
「セットなんだ」
どろちゃんは、少し笑いました。
昨日は、ただの邪魔な鋼板棚だと思いました。
今も。
自分の部屋へ戻したいとは、まったく思いません。
でも。
倉庫にあるなら。
とてもありがたい棚でした。
◇ ◇ ◇
第55章の小さな説明
【神様の文具保管ラック】
最初にどろちゃんの私室中央へ出現します。
ベージュ色の薄鋼板製で、ガラス入りの引き違い扉を備えています。扉はベアリング入りのレール上を滑らかに動き、二十世紀末から二十一世紀初頭の日本の学校、役所、研究室などにありそうな事務用スチール収納庫を思わせる外観です。
機能上は便利ですが、どろちゃんの私室にある木製の貴族家具や内装とはまったく調和しません。このことが移設の最大の理由です。部屋中央に置かれて動線を邪魔していたこともあり、倉庫へ移します。
【文具ラックの中身】
白チョーク、色チョーク、液体のり、中央支点式はさみ、JETSTREAM、油性マーカー、大小二種類のステープラーと補充針、メートル法定規、五ミリ方眼ノート、A4・A3用紙、OLFAカッター、三菱Hi-uni鉛筆、二千年前後を思わせる手回し式鉛筆削り、セロハンテープ、重量のある据え置き式テープホルダーなどが入っています。
A2・A1用紙は最初からラック内に入っていたのではなく、ドラフター講習の翌朝、ラック前へ追加で束の状態で届きます。
テープホルダーは底が重く、卓上で片手でもテープを引き出して切れるタイプです。
【文具の補充】
ラックが届いた当日には、まだ補充されるかどうか分かりません。
どろちゃんは三菱Hi-uni一箱、一ダースを棚の外へ出したままにして、一晩待ちます。
翌朝、ラック前には、それまで入っていなかったA2用紙とA1用紙の束も新たに置かれていました。前日にライデン大学でドラフター講習を行ったため、神様が大判図面用紙の必要性まで見越して追加したように見えます。
そのうえで扉を開けると、外へ出したHi-uni一箱はそのまま残っているのに、ラック内には同じ一箱が補充されていました。ここで初めて、通常の消耗文具が規定在庫まで補充されることを確認します。
【補充されないもの】
神様から届くものすべてが補充されるわけではありません。
CASIOの非プログラム型関数電卓一ダースは有限です。
四か国会議後に届いた正式晩餐用の花柄・金彩食器や高級クリスタルグラスも有限です。
ドラフター百組も有限であり、ライデン大学へ運んだ分は実際に減っています。
日常的に消耗する紙、鉛筆、チョーク、ペン、テープ、ステープラー針などは補充され、長期間使う高価・特殊な道具や格式用品は補充されないよう、神様は区別しています。
【ドラフター百組】
文具ラックが届いた日の昼ごろ、会議棟を掃除していた使用人から、大量の見慣れない製図設備が届いていると報告されます。
届いたのは、一九八〇年代を思わせるドラフター百組です。
個人用の文具ではなく、機械、建築、測量、鉄道、河川、造船などの設計・教育に使える本格的な製図設備です。
【ライデンへの輸送】
会議棟では場所を取るため、どろちゃんはAn-28「Пчёлка(プチョールカ。ミツバチ。)」で積めるだけライデン大学へ運びます。
ドラフターは重量だけでなく容積を取るため、一便に積める数には限界があります。
一回目の配送時に、どろちゃんは「二回目に来たとき使い方を説明するから、製図する人を集めておいて」と伝えます。
エルレンフェルトへ戻り、二回目を積んで再びライデンへ向かいます。
【ドラフターの講習】
二回目には、製図担当者、測量関係者、機械・建築・物理・数学関係の研究者、工房職人などが集まっています。
どろちゃんは、用紙固定、平行移動、角度設定、定規の扱いなど基本的な使い方を実演します。
その後、機械図面、建築図面、測量図、鉄道、橋梁、水路、船などへの応用について質問が続き、質疑応答を含めてほぼ一日を使います。
夕方に説明を終え、どろちゃんはミツバチちゃんでエルレンフェルトへ帰国します。
【残ったドラフター】
二往復しても、会議棟にはまだ大量のドラフターが残っています。
見た目には減っていないように感じるため、どろちゃんは実際に数え、確かに運んだ分だけ減っていることを確認します。
全数をAn-28で航空輸送するのは非効率なので、それ以上の輸送はやめ、会議棟内に専用保管スペースを設けます。
今後はライデン大学だけでなく、鉄道、工場、建築、測量など必要な場所へ必要な数を配分していきます。




