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45貴族令嬢は、世界地図に線を引きます スペイン継承戦争はこれで終結します

第45章 貴族令嬢は、世界地図に線を引きます


 翌朝。


 会議より先に、小さな箱が来ました。


 昨日、厨房へ来たホシザキよりずっと小さい箱です。


 神様から来た物資を受け取る棚に、朝になると置かれていました。


「やっぱり来た」


 どろちゃんが言いました。


「昨夜、お書きになっていたものですか?」


 フランソワさんが覗き込みます。


「うん」


 箱を開けます。


 中には、錠剤。


 もう一つ、小さな外用剤。


 説明書。


 どろちゃんは最初に説明書を読みました。


「アセチルサリチル酸。低用量」


「昨日の女王陛下のお薬ですか」


「候補。勝手に飲ませないよ」


 出血。


 胃。


 他の薬。


 既往歴。


 注意することが、きちんと書いてあります。


 もう一つは、サリチル酸メチルの外用剤でした。


「こっちは痛いところ用」


「同じ薬ではないのですね」


「似てるけど役割が違う」


 どろちゃんは錠剤の瓶を光へかざしました。


「こっちは、血を固める働きの一部を弱くする方。治す薬じゃないよ。詰まりを起こしにくくするために使う」


「では、女王陛下はこれで治るのですか」


「そんなに簡単だったらいいけどね」


 王室医師にも説明します。


 飲ませる前に、出血しやすい病気がないか。


 胃の具合はどうか。


 いま飲んでいる薬は何か。


 確認します。


 量も勝手に増やしません。


「工場へも一つ送る」


「お薬を?」


「標準品として」


 神様製の錠剤そのものを分解して作り方を盗むのではありません。


 純度。


 含量。


 保存したときの変化。


 現地で作ったアセチルサリチル酸が、同じものになっているか比べる基準にします。


「サリチル酸メチルの方が先に作れそう」


「こちらは?」


「アセチルサリチル酸も作れると思う。ハーバー・ボッシュの研究より、圧力はずっとかわいい」


「かわいい圧力というものがあるのでございますか」


「工場の人にはあるよ」


 フランソワさんは、納得しませんでした。


「患者さんには、先に神様製」


「工場には?」


「宿題」


 箱を閉じました。


「じゃあ、会議」


     ◇ ◇ ◇


 会議室には、四つの代表団がそろいました。


 前回より人の格が上がっています。


 王。


 君主。


 最終決定を任された者。


 その次席。


 財政を知る者。


 軍を知る者。


 通商を知る者。


 書記。


 そして夜の社交へ出る人たち。


 どろちゃんは、お父様の横に座りました。


 フランソワさんもいます。


 机の端には、昨日出した地図が重なっています。


 書記が最後の紙をそろえるまで、ほんの少し時間がありました。


 どろちゃんは、向かいにいるルイ十四世を見ました。


「王様」


「何だ」


「会議の前に、一つ聞いていい?」


「その顔は、一つで終わらぬ顔だな」


「たぶん」


「お嬢様」


 フランソワさんが小さく言いました。


「大事なことだよ」


「戦争よりもか」


 ルイ十四世が聞きました。


「王様の方が、何百年も残したいものの話」


 ルイ十四世が、少しだけ姿勢を変えました。


「申してみよ」


「私ね、王様のこと、すごいと思ってるところがあるの」


「ずいぶん限定された褒め方だな」


「アカデミアとか、絵とか、彫刻とか、建物とか、音楽とか」


 ルイ十四世は黙って聞いています。


「土地って、取ったり取られたりするでしょう」


 今度は、何人かが地図を見ました。


「この町を取った。この城を取った。この地方を何年持った。それも歴史には残ると思う」


「それで?」


「でも、絵とか建物とか音楽は、もっと長く残せる」


「そうあってほしいものだ」


「王様が、画家や建築家や音楽家を、誰か一人のお金持ちに気に入られなくても仕事できるようにしたの、すごいと思う」


「国家がパトロンになる、ということか」


「うん。お金持ち一人が死んだり、飽きたり、喧嘩したら終わるのと違うでしょう」


「それがアカデミーの目的の一つでもある」


「だから聞きたいの」


 どろちゃんは、少し身を乗り出しました。


「誰を入れるか、誰が決めてるの?」


「アカデミーが決める」


「誰がアカデミーなの?」


「院長、教授、会員たちだ」


「その人たちは、何を見て決めるの?」


 ルイ十四世が、すぐには答えませんでした。


「技量。構想。古典についての知識。人物を扱う能力。いろいろあろう」


「歴史を描く絵が一番偉いっていうのも?」


「歴史画は、多くを必要とする。人体も、構図も、物語も、古典も知らねばならぬ」


「それは分かるよ」


 どろちゃんは頷きました。


「難しい課題なのも分かる。学校でやらせるのも分かる」


「では、何が気になる」


「難しいことと、一番偉いことって、同じ?」


 部屋が少し静かになりました。


「王様、ここにいる人たちのお屋敷に、何が掛かってる?」


「何が、とは」


「すごく大きな歴史の絵ばっかり?」


 どろちゃんは周りを見ました。


「明るい色で、きれいな服の人がいて、庭だったり部屋だったり、音楽してたり。輪郭が少し柔らかくて、見てて気持ちいい絵。そういうの、買ってない?」


 一人の貴族が、何も言わずに視線を外しました。


「買った?」


「……何枚か」


「何枚?」


「そこまで申す必要があるのですか」


「いっぱいなんだ」


 少し笑いが起きました。


 ルイ十四世も、口元だけ動きました。


「でね」


 どろちゃんは続けます。


「売れる絵と、アカデミーが偉いっていう絵が違うなら、アカデミーは何を育てたいの?」


「上手い画家だ」


「何が上手い?」


「……」


「王様の注文に応えられる人?」


「それも要る」


「外国へ売れる絵を作れる人?」


「それも悪くない」


「今までなかった絵を作る人?」


「必要であろう」


「ローマへ行かせる賞もあるでしょう」


「ある」


「昔のすごいものを見るのはいいよ。私も見たい。でも、昔のすごいものを上手に真似する人を作りたいのか、それを見て次を作る人を育てたいのかで、教えること変わるよね」


 今度は、ルイ十四世が長く黙りました。


「王様は、そこまで今も見てる?」


「余が一人ずつ入会作品を見るわけではない」


「それは無理だと思う」


「では、何を聞きたい」


「王様が作った仕組みなのに、王様が知らないうちに、今いる偉い人が好きな絵を描く人だけ選ぶ仕組みになってない?」


 トルシー侯が、どろちゃんを見ました。


 ルイ十四世は止めません。


「私人のパトロンに好かれなくても画家が生きられる仕組みを作ったのに、選ぶ人が新しいパトロンになっただけだったら、もったいないよ」


「……なるほど」


「教授が次の教授を選ぶ。偉い画家が、自分の考える偉い絵を描く人を選ぶ。それが百年続いたら、王様が作ったアカデミアじゃなくて、その人たちのアカデミアになるでしょう?」


「では、王がすべてを選べと?」


「違うよ」


 どろちゃんはすぐ答えました。


「王様一人の好みにしたら、もっと危ないでしょう」


 今度は、ルイ十四世が笑いました。


「そこは分かっているようだな」


「見るところを一個にしなければいいと思う」


「一個に?」


「技術。新しいこと。注文された仕事をちゃんとできること。外国の人が欲しがること。フランスにしかないものを作ること。全部、同じ点数じゃないでしょう?」


「点数、という言い方は分からぬが、言いたいことは分かる」


「あと、審査する人もずっと同じにしない」


「そこまで考えていたか」


「今考えた」


「お嬢様」


「でも、まだある」


「やはり一つではなかったな」


 ルイ十四世は、もう止めませんでした。


「画家を育てるだけじゃ足りないと思う」


「では何が要る」


「絵を見る人」


「買う者か」


「買わなくてもいい」


 どろちゃんは首を振りました。


「見て、これは大事だって分かる人。どうしてこう描いたのか考える人。昔のものを、古いから捨てるんじゃなくて、残す理由が分かる人」


「それを国が育てるのか」


「国じゃないと、たくさんは育てにくいでしょう?」


「……」


「作る人だけ百人育てても、見る人が百人しかいなかったら、その百人がいなくなったら終わるよ」


「では、どれほど必要だ」


「いっぱい」


「曖昧だな」


「パリの人が、絵を見るために歩いて来るくらい」


 ルイ十四世は少し考えました。


「公開して見せる、と」


「うん。説明する人もいる。昔の絵も、新しい絵も見せる。版画にして遠くへも送る。見方が一つだけだって教えない」


「外国人にもか」


「もちろん」


「なぜだ」


「外国の人がフランスの絵を好きになったら、自分のお金で買って、自分の国へ持って帰るでしょう」


「……」


「服も。家具も。音楽も。建物の作り方も」


 どろちゃんは地図を指しました。


「土地を取らなくても、外国のお屋敷の中にフランスが増えるよ」


「文化で征服する、とでも言うのか」


「こっちの侵略なら、相手がお金払ってくれるよ」


「侵略と呼ぶな」


「でも、広いでしょう?」


「……悪くはない」


 会議室に、小さな笑いが起きました。


 どろちゃんは、笑わずに続けました。


「王様」


「まだあるのか」


「ある」


「申せ」


「きっと、何百年たっても、パリって芸術の都って言われると思う」


 今度は、本当に静かになりました。


「それは予言か」


「予想」


「ずいぶん大きな予想だ」


「王様が始めたものを、王様がいなくなったあとも続く仕組みにできたらね」


「余がいなくなる話を、本人の前でするな」


「何百年も生きないでしょう?」


「それはそうだが」


「だから、今いる人が好きなものを守る仕組みじゃなくて、次の人が新しいものを作れる仕組みにした方がいい」


 ルイ十四世は、しばらく何も言いませんでした。


 それから、トルシー侯ではなく、フランス側の書記を見ました。


「帰国したら、アカデミーごとに報告を出させよ」


「どのような内容でございましょう」


「誰が人を選び、誰が賞を決め、誰が金を配り、何を基準としているか。規則の文面ではない。実際に誰が決めているかだ」


「承知いたしました」


「それから、公開して見せる仕組みについても調べさせよ」


 どろちゃんが笑いました。


「見る人も育てる?」


「余の金で作ったものを、余の役人だけが理解していても仕方あるまい」


「うん」


「満足したか」


「まだちょっと」


「もう会議を始める」


「はい」


「では、始めます」


 お父様が言いました。


 最初の議題は、簡単でした。


 簡単ですが、とても重いものです。


「現在の停戦を、本日以後も継続するか」


 会議室が静かになりました。


 ケールでは、水玉船がまだ走っています。


 そのことを、どろちゃんは知っています。


 昨日、荷物を持った家族を見ました。


 止めれば。


 また撃ち始めるかもしれません。


「フランスから申し上げる」


 ルイ十四世が言いました。


 トルシー侯が少しだけ王の方を見ました。


 どろちゃんも見ました。


「余は、戦争をやめる」


 すぐには誰も話しませんでした。


「先ほどの話と、まったく別ではない」


 ルイ十四世は、机の上の地図を見ました。


「城と町を一つ増やすために、フランスそのものを痩せさせるのは、余の望む残し方ではない」


「全部?」


 どろちゃんが先に聞きました。


「お嬢様」


 フランソワさんが小さく言いました。


「だって大事でしょう」


「大事でございます」


 ルイ十四世は笑いませんでした。


「少なくとも、余がフランスの金と兵を使い、スペインのためにこの戦争を続けることはやめる」


 アン女王が姿勢を少し変えました。


 ネーデルラント側も。


 サヴォイア側も。


「陛下」


 トルシー侯が言いました。


「昨日までのお考えから、さらに進まれたと理解してよろしいでしょうか」


「よい」


「フェリペ陛下の王位については」


「孫がスペイン王であることまで捨てるとは言っていない」


 ルイ十四世は机の上のスペインを指で軽く叩きました。


「だが、考えてみれば妙な話だ」


「何がでございましょう」


「余が兵を出す。金を出す。馬を使う。火薬を使う。フランス人が死ぬ」


 指が一度止まりました。


「それでスペインを、また強い国に戻す」


 誰も口を挟みません。


「その強くなったスペインが、十年後も二十年後もフランスの味方であると、誰が保証する」


 ルイ十四世は横を向きました。


 アン女王です。


「そう思わぬか、イングランドは」


 アン女王は、少し間を置きました。


「同盟が永遠であると申し上げる国は、信用しない方がよろしいかと存じます」


「そうであろう」


「我が国も、永遠の友好を理由に国庫を空にすることは勧めません」


「余もやめる」


 ルイ十四世は、あっさり言いました。


「孫には王冠がある。それで十分だ。スペイン国内で誰が誰を支持するかまで、フランス軍が町を一つずつ取りに行く必要はない」


「スペインの内側は、スペインで決めさせる、と」


 お父様が確認しました。


「そうだ」


「フランス軍は?」


「停戦を維持する。撤退の順序は相談する」


「ケール方面も?」


 どろちゃんが聞きました。


「そこもだ」


「じゃあ、水玉船まだ走れるね」


 一瞬、会議室の空気が変わりました。


 王国の戦争の話をしているところへ、定期船が入ってきました。


「お嬢様」


「昨日、逃げ始めた人いたから」


 ルイ十四世は黙りました。


「家を持ったまま逃げられるなら、その方がよい」


「うん」


 それで、停戦の継続そのものはほぼ決まりました。


     ◇ ◇ ◇


 戦争をやめる。


 それで会議が終わるわけではありませんでした。


 むしろ、ここからが大変でした。


「では、スペインをどう扱うか」


 お父様が言いました。


 アン女王は、すぐには答えません。


 紙を一枚見ます。


 隣の者と短く話します。


 それから、たいへん穏やかな顔で言いました。


「一つ、原則を申し上げてもよろしいでしょうか」


「どうぞ」


「我が国だけが案を出すのは、好ましくないと考えます」


「どうして?」


 どろちゃんが聞きました。


「イングランドがスペインから利益を得るために、すべてを組み替えようとしているように見えるからです」


「違うの?」


 少し間がありました。


「利益がないとは申しません」


「やっぱり」


「ですから」


 アン女王は平然としていました。


「四者が、それぞれ一つずつ懸念と希望を出す。どこか一国の案を採るのではなく、それを重ねて決めるべきです」


「一人で全部取らない?」


「その方が、長く続くでしょう」


 ネーデルラント側が頷きました。


「賛成します」


 サヴォイア側も、


「異存ありません」


 と言いました。


 ルイ十四世は椅子にもたれました。


「余にも言えということか」


「ぜひ」


「ずいぶん公平な顔をするものだな」


「会議ですから」


「利益は欲しい」


「もちろんです」


 どろちゃんは小さく笑いました。


 フランソワさんが見ました。


「笑ってないよ」


「まだ何も申し上げておりません」


     ◇ ◇ ◇


 最初はフランスでした。


「フランスは、スペイン王位とフランス王位が一つになることを求めない」


 ルイ十四世が言いました。


「フェリペがスペイン王であることは認めさせたい。だが、そのためにスペインが持つ遠い領地を全部守る義務まで、フランスが負うつもりはない」


「国境は?」


「フランス側が守りやすく、スペイン側も越えにくいところでよい」


「山?」


 どろちゃんが聞きました。


「山は分かりやすい」


「じゃあそこは早いね」


「まだ線は引くな」


「はい」


 次はネーデルラントでした。


「我々は、遠いスペイン王の都合で低地地方へ大軍が置かれる状態を終わらせたい」


「近いところの人が決める?」


「少なくとも、マドリードから命令されるよりは」


「水の管理もあるしね」


「そこは、たいへん重要です」


 どろちゃんにはよく分かります。


 堤防。


 水路。


 港。


 河口。


 低い土地は、遠くの王様が地図だけ見て切ると困ります。


 次はサヴォイア。


「我々は、山の向こうとこちらを大国が直接接する形を減らしたい」


「間に自分たちがいると便利?」


「便利という言葉で申されますと」


「違う?」


「便利ではございます」


「じゃあ便利」


 最後にイングランド。


「海です」


「やっぱり海」


 どろちゃんが言いました。


「我が国でございますので」


「港?」


「港。通商。海峡。航路。そして、スペインだけが海の向こうの市場を閉じる仕組みを終わらせること」


「土地より商売?」


「土地も無価値ではありません」


「でも商売の方が長い」


「……そのお言葉は、こちらから申し上げる予定でした」


「取っちゃった」


「はい」


 四つとも、言い方は違いました。


 でも、重なるところがあります。


 スペインを、もう一度ヨーロッパ全体を脅かすほど巨大な軍事国家へ戻さない。


 フランスだけを強くしない。


 イングランドだけを儲けさせない。


 ネーデルラントだけを安全にしない。


 サヴォイアだけを広くしない。


 そして。


 誰か一国が、全部を持っていかない。


     ◇ ◇ ◇


 問題は、ここからでした。


「では、この地方は」


「それではこちらの防衛が」


「その港を含めるなら」


「川のこちら側まで必要です」


「山道が」


「旧来の権利が」


「その線では飛び地になります」


「こちらにも飛び地がございます」


「だから増やさない方がいいんじゃない?」


「過去の権利を消すことはできません」


「全部残したら終わらないよ」


 終わりませんでした。


 午前が終わりました。


 昼食を食べました。


 午後になりました。


 同じ地方の話をしています。


 線が一本増えます。


 消されます。


 別の線が増えます。


 また消されます。


 どろちゃんは地図を見ていました。


 知っている形があります。


 でも言えません。


 未来の国名は言えません。


 未来の戦争も言えません。


 未来の国境を知っているとも言えません。


 ただ。


 山は今もあります。


 川もあります。


 港もあります。


 人が行き来する道もあります。


 後世まで残る地形は、今でも同じです。


「ねえ」


 どろちゃんが言いました。


 誰も止まりません。


「ねえ」


 もう一度言いました。


 お父様が先に気づきました。


「どうした」


「地図、貸して」


「何をする」


「まとめる」


 何人かが会話を止めました。


「お嬢様」


 アン女王が言いました。


「いま、まさにまとめているところでございます」


「まとまってないよ」


 静かになりました。


「だって朝から同じところでしょう」


「国境とは、そのようなものです」


「じゃあ私が一回引く」


「一回?」


「嫌だったら直せばいいでしょう」


 どろちゃんは赤い鉛筆を取りました。


 フランソワさんが止めません。


「フランソワさん」


「はい」


「定規」


「こちらに」


「ありがとう」


 机の上の大きな地図を、自分の方へ少し引きました。


「まず、飛び地減らす」


 線を引きます。


「ここ、山で切る」


 また引きます。


「川は、川そのものを境にした方がいいところと、川の流域を一緒にした方がいいところがあるから、全部川の真ん中にはしない」


 ネーデルラント側が、急に真面目な顔になりました。


「その区別は重要です」


「水を使う人が両側にいるところは、勝手に片側だけで決めない」


「同意します」


「港は、後ろの土地と切り離さない」


 アン女王が見ています。


「その港だけ欲しいとか言わない」


「まだ何も申していません」


「顔に書いてある」


「書いてありません」


「じゃあいい」


 線が増えました。


 ピレネー。


 低地地方。


 アルプス。


 イタリア方面。


 地中海。


 海峡。


 島。


 港。


 古い権利を全部捨てたわけではありません。


 でも、地理的に不自然な飛び地は減らします。


 遠い王が遠い土地を一つだけ持つ形も減らします。


 軍隊を置かなければ維持できない細長い領地も減らします。


「……ずいぶん、思い切りましたね」


 ネーデルラント側が言いました。


「分かりやすいでしょう?」


「分かりやすくはございます」


「守りやすい?」


 サヴォイア側が地図へ顔を寄せました。


「こちらは、かなり」


「こっちは?」


「そこは修正が必要です」


「じゃあ青で直して」


「よろしいのですか」


「私の線が法律じゃないよ」


「そうでございました」


 今度は、みんなが地図へ書き始めました。


 さっきまでの話とは少し違います。


 何もないところから自分の欲しい線を出すのではなく。


 どろちゃんが引いた一本を、必要なところだけ直します。


「そこは町が二つに割れます」


「じゃあ町はこっち」


「この谷は同じ市場を使います」


「谷ごと」


「その峠は両側から使います」


「通行自由にする?」


「それなら」


 急に速くなりました。


 お父様が書記を見ました。


「変更箇所は、すべて記録を」


「はい」


「元の線も消さないように」


「承知しました」


 どろちゃんの赤い線の上に。


 青。


 黒。


 細い注記。


 点線。


 新しい地図ができていきます。


     ◇ ◇ ◇


「まだある」


 アン女王が言いました。


 どろちゃんは嫌な予感がしました。


「どこ?」


「海の向こうです」


「やっぱり」


 大きな地図が出てきました。


 大西洋。


 その向こう。


 スペインが持つ広大な土地。


 島。


 港。


 鉱山。


 海路。


「全部スペインに残すの?」


 どろちゃんが聞きました。


「それでは、スペインの国力を大きく残すことになります」


 アン女王が答えました。


「全部イングランドが取る?」


「それを私が申し上げますと、先ほどの話が台無しになります」


「じゃあどうするの?」


「皆様のご意見を」


「また四つ?」


「そのための四者です」


 ルイ十四世が笑いました。


「便利な公平だ」


「長く続く公平です」


「イングランドだけが得をする公平ではないのか」


「フランスにも港は開きます」


「なるほど」


「ネーデルラントにも」


「当然です」


「サヴォイアにも」


「海運の能力には差がありますが、権利は必要です」


 どろちゃんは地図を見ました。


 ここはもっと面倒です。


 広い。


 距離が長い。


 山が大きい。


 川も大きい。


 現地には、スペインから来た人だけが住んでいるわけではありません。


 もともと住んでいた人たちもいます。


 町ごとに違います。


 海岸と高地でも違います。


 細かく線を引けば。


 未来のどこかで見たような、小さな国がたくさんできます。


 国境を越えるたびに税関。


 隣国との戦争。


 港をめぐる争い。


 外国の金。


 武器。


 密輸。


 政府より強い商人や私兵。


 そういう未来を、どろちゃんは知っています。


 全部を防げるとは思いません。


 でも。


 わざわざ細かく割る必要もありません。


「大きくする」


「何をです?」


 アン女王が聞きました。


「国」


「スペインを?」


「違う。切り離した後」


 どろちゃんは鉛筆を持ちました。


「細かくいっぱい作らない」


「理由を伺っても?」


「小さい国が全部悪いわけじゃないよ。うちも小さいし」


 お父様が少しだけ笑いました。


「でも、ここは広すぎる。山も川も港もある。小さく切ると、港だけ持ってるところと、畑だけ持ってるところと、鉱山だけ持ってるところができる」


「交易で補えばよいのでは」


「仲がいい間はね」


「仲が悪くなれば?」


「国境閉めるでしょう」


「あり得ます」


「だから、生活に必要なものがある程度まとまる大きさにする」


 地図の北側。


「ここ。メヒコを中心に、北の大きなまとまり」


 線。


 南へ。


「ここは、海と大きな川の出口を一緒にする」


 線。


 山沿い。


「ここはアンデスの高地を、途中で細かく切りすぎない」


 線。


 さらに南。


「大きな川の水系は、なるべく一つ」


 線。


 細長い海岸。


「ここは山の向こうと一緒にするより、海沿いで別の方がいい」


 線。


 アン女王が、ずっと見ていました。


「お嬢様」


「なに?」


「それでは、かなり大きな国が複数できます」


「うん」


「スペインから切り離して、別の大国を作ることになりませんか」


「一つに全部持たせない」


 どろちゃんは地図を指しました。


「海の出口も一つじゃない。鉱山も一つに集めない。全部の地域が同じものを持たないようにする」


「なるほど」


「それと、港を四つの国に開く」


 アン女王の顔が少し変わりました。


「そこまでお考えでしたか」


「イングランドさん、それが欲しかったんでしょう」


「我が国だけではありません」


「はいはい」


「本当でございます」


「じゃあ四つとも使える」


 ネーデルラント側が言いました。


「関税は?」


「現地に残す分と、最初の整備に使う分を決める」


「整備?」


「港。道。倉庫。水。町」


「投資した側には?」


「一定期間、決めた割合で戻す」


 今度は四つとも黙りました。


「それなら、戦争のお金をこっちへ使えるでしょう」


 どろちゃんは言いました。


「兵隊にご飯食べさせて、馬をつぶして、火薬を撃って、町を壊すより。港とか道を作ったら、あとで商売できる」


 お父様が、前回の会議で話したことと同じです。


 戦争へ使わなかった金は消えません。


 別のものへ使えます。


「スペインを弱くしながら、四者は豊かになる」


 ルイ十四世が言いました。


「言い方が悪い?」


 どろちゃんが聞きました。


「いや。今まで皆が上品に言っていたことを、そのまま言っただけだ」


 アン女王が少し咳をしました。


「我々は、スペインの永続的な安定を」


「はいはい」


「ドロテーヤ伯爵」


「聞いてるよ」


     ◇ ◇ ◇


 もちろん、その場で海の向こうのすべてが決まったわけではありません。


 どろちゃんの線は、最終国境ではありません。


 現地の町。


 住民。


 港。


 道。


 既存の行政。


 宗教。


 交易。


 全部を調べなければなりません。


「ここに住む人の話を聞かずに、細かい線まで決めない」


 どろちゃんが言いました。


「先ほどは、かなり大胆にお引きになりましたが」


 アン女王が言いました。


「あれは大枠」


「大枠にしては、ずいぶん大きいですね」


「大きいところだから」


「そういう意味では」


「細かいところは現地で直す」


 お父様が頷きました。


「原則線として残しましょう」


「原則線?」


「この地形と、この考え方を基準にする。現地確認で修正する」


「それならいい」


 フランソワさんが、地図の端へ小さく書きました。


 ――現地確認前。確定せず。


 タドポール君で地図を書いたときと同じでした。


 見えたものと。


 推測したものを。


 混ぜません。


     ◇ ◇ ◇


 夕方。


 会議室の机には、朝とは違う地図がありました。


 ヨーロッパの線。


 海の向こうの線。


 港の印。


 自由通商にする候補。


 共同で保証する地域。


 現地確認が必要なところ。


 軍の撤退順序。


 停戦をそのまま継続する文言。


「今日、決まったのは何?」


 どろちゃんが聞きました。


 お父様が指を折りました。


「フランスは戦争継続を求めない」


「うん」


「停戦を延長する」


「うん」


「スペイン王位とフランス王位は一つにしない」


「うん」


「スペインの欧州領は整理する」


「うん」


「海外領についても、スペインだけの閉じた経済圏には戻さない」


「うん」


「四者が一国だけで利益を独占しない」


「そこ大事」


「どろちゃんが引いた線は、原則案として検討する」


「私のも入った」


「かなり入った」


「じゃあ、戦争終わり?」


「まだ文書ができていない」


「また紙」


「紙にしなければ、明日違うことを言える」


「じゃあ紙大事」


「そうだ」


 書記たちは、まだ仕事をしています。


     ◇ ◇ ◇


 その日の夕食。


 料理長さんが海まで行って選んだ魚が出ました。


 ホシザキで冷やしておいた魚です。


「これ?」


 どろちゃんが小声で聞きました。


「はい」


 フランソワさんが答えます。


「おいしい」


「料理長殿がお聞きになれば喜ばれます」


「飛行機で買いに行った甲斐あったね」


「ございましたね」


 少し離れた席では、ルイ十四世とアン女王がまだ話しています。


 昼間より声が小さいです。


「スペインを弱くしすぎれば、別の問題が起きる」


「ですから四者で支えるのです」


「支えると言いながら利益を取る」


「利益がなければ、支援は長続きいたしません」


「それは気に入った」


 どろちゃんには聞こえました。


 聞こえないふりをしました。


     ◇ ◇ ◇


 その夜も、会議場の書記室だけは遅くまで明かりが消えませんでした。


 会議で決まったことを、決まった順番に並べる。


 似た意味の文を一つにする。


 誰か一国だけに都合よく読める言葉を直す。


 地図に書かれた線のうち、確定したものと、まだ現地確認が必要なものを分ける。


 軍の撤退。


 ケール。


 王冠。


 港。


 関税。


 海外領。


 投資したお金を、どうやって戻すか。


 帝国代表がどこまで署名できて、どこから先は署名できないのか。


 昼間に何時間も話した内容が、夜になると紙の上で短い文章になります。


 短くするほど、意味を落としてはいけません。


 書記たちには、会議よりこちらの方が大仕事でした。


     ◇ ◇ ◇


 翌朝。


 会議室の中央に、同じ厚さの文書が六組並んでいました。


 どろちゃんは、まだ誰も座っていないうちに一番端の束を見ました。


「六つ?」


「正本が六通でございます」


 フランソワさんが答えました。


「全部同じ?」


「同じ文面でございます」


「文字も?」


「はい」


 どろちゃんは二つ目を開きました。


 本当に同じです。


 この世界では、フランスの王様も、イングランドの女王様も、ネーデルラントの役人も、サヴォイアの公爵も、エルレンフェルトのお父様も、外交の場では同じナーロッパの共通語を読みます。


 正文を国ごとの言葉へ訳して、どの言葉の文が優先するかを決める必要がありません。


 六通とも、同じ言葉。


 同じ条文。


 同じ付属地図。


 違うのは、最後に誰がどの一通を持って帰るかだけです。


「名前は?」


 どろちゃんが聞きました。


「何の名前だ」


 入ってきたお父様が答えました。


「この紙」


「条約名か」


「うん」


 お父様は表紙を見ました。


「エルレンフェルト条約、とした」


「うちの名前ついた」


「ここで結んだ条約だからな」


「お父様の条約みたいに見えない?」


「中を読めば分かる」


「読まない人もいるよ」


「それは条約の責任ではない」


 いつものお父様でした。


     ◇ ◇ ◇


 全員がそろうと、すぐには署名しませんでした。


 まず、読みます。


 前文。


 第一条。


 敵対行為の終結。


 第二条。


 フランスが、スペイン継承をめぐる戦争へフランス軍とフランスの金を従来どおり投入することをやめること。


 第三条。


 フェリペのスペイン王位は認める。


 ただし、フランス王冠とスペイン王冠は一人にまとめない。


 ルイ十四世は、その部分で一度だけ書記を止めました。


「第三項をもう一度」


 書記が読み直します。


 継承。


 婚姻。


 退位。


 譲渡。


 名前だけ王冠を分けて、実際には一つの政府にするような抜け道も認めない。


 ルイ十四世は最後まで聞きました。


「よい」


 トルシー侯が隣で何も言わずに紙へ印を付けました。


 次。


 ヨーロッパ側の国境原則。


 飛び地を減らす。


 山と分水界を見る。


 川は何でも真ん中で切らない。


 水を一緒に使うところは、水の仕組みも一緒に考える。


 港だけを後ろの土地から切り取らない。


 町や谷を理由なく二つに割らない。


 ネーデルラント側の代表、アントニー・ハインシウスが手を上げました。


「第四条第四項ですが、『共同利用』に排水も含むと読んでよろしいですね」


「含めます」


 お父様が答えました。


「堤防、排水、水路、航行を別々の国が勝手に変更することを認める趣旨ではありません」


「それであれば異存ありません」


 どろちゃんは、ハインシウスの横に置かれた地図を見ました。


 低い土地の人は、水のところだけ急に細かくなります。


 やっぱり大事らしいです。


 サヴォイアの条項。


 アルプス。


 谷。


 峠。


 分水界。


 細長く突き出して、守るためだけに兵隊を置き続けるような土地を減らす。


 ヴィットーリオ・アメデーオは、付属地図と条文を何度も見比べました。


「この文面なら、地図の線そのものを確定したことにはならないのだな」


「なりません」


 お父様が答えます。


「現地を見て、町と谷と道を確認してからです」


「ではよい」


 次は海の向こう。


 スペインだけの閉じた市場へ戻さない。


 でも、四つの国のどこか一つだけが全部取ることもしない。


 港は四者へ同じ条件で開く。


 関税は取ってよい。


 現地へ残す分を決める。


 港、道、倉庫、水利へ投資したお金は、最初に割合と期間を決めてから回収する。


 アン女王が、そこでは書記を止めませんでした。


 最後まで読ませてから言いました。


「第八条第二項を残してください」


「排他的通商権を認めない部分ですか」


「はい。イングランドにも、です」


 ルイ十四世がアン女王を見ました。


「自ら書いておくのか」


「他国にだけ守らせる条文は、長くもちません」


「商売人だな」


「国庫を預かっておりますので」


 どろちゃんは笑いそうになりました。


 今度は、ちゃんと我慢しました。


     ◇ ◇ ◇


 ケールについても読みます。


 撤退の途中で、住民の家や財産を壊さない。


 撤退を理由に略奪しない。


 安全が許す限り、民間の交通を止めない。


 水玉船という名前までは書いてありません。


 でも、あの白い水玉の船も、この条文の中に入ります。


 どろちゃんはそこだけ二回読みました。


「これなら、船止めなくていいね」


「安全上の理由がなければ、です」


 お父様が言いました。


「うん。それでいい」


     ◇ ◇ ◇


 エルレンフェルトの条項。


 どの国も、ここを他国へ攻め込むための通路にしない。


 武装した軍隊が通るなら、エルレンフェルトの明示的な同意が必要。


 でも、商人、学者、医師、旅人、郵便まで止めない。


 昔からお父様が何度も文書にしてきたことが、今度は大きな条約の中にも入りました。


 その次。


 神聖ローマ帝国。


 帝国側の席にいた男が、紙を少し前へ出しました。


 ヨハン・ヴェンツェル・ヴラティスラフ・フォン・ミトロヴィッツ。


 皇帝側の外交を扱う人です。


「ここは確認しておきます」


「どうぞ」


「私はこの会議に出席し、文書を読み、署名が行われたことを証明できます。しかし、皇帝陛下の名で帝国全体をこの条約へ加入させる全権は受けておりません」


「そのとおりです」


 お父様が答えました。


「だから、そのこと自体を条文にしました」


「私が署名したことで、後日『帝国も同意したではないか』と言われないためです」


「こちらも、そのようには扱いません」


 ルイ十四世が言いました。


 アン女王も頷きます。


 ヴィットーリオ・アメデーオ。


 ハインシウス。


 四者とも異議を出しませんでした。


「では、私はオブザーバーとして署名します」


「お願いします」


 どろちゃんはその欄を見ました。


 ちゃんと、帝国を拘束する全権を持たない、と下に印刷されています。


「書いてあるね」


「書いておかないと、あとで困るからな」


「紙、大事」


「昨日も言っただろう」


     ◇ ◇ ◇


 最後に、付属地図を確認します。


 赤。


 青。


 黒。


 点線。


 欄外に、はっきり書いてあります。


 原則線。


 現地確認前。


 確定せず。


 どろちゃんは、自分が最初に赤鉛筆で引いた線を見ました。


「これ、残るんだ」


「残す」


 お父様が言いました。


「あとで直すのに?」


「どこをどう直したか分かるようにな」


「最初のへんな線も?」


「それもだ」


「消したいところあるんだけど」


「だめだ」


「やっぱり」


 ハインシウスが、少しだけ笑いました。


「最初の案を残していただく方が、後の者には助かります」


「後の人、私の失敗も見るよ」


「それも記録です」


「記録、厳しい」


     ◇ ◇ ◇


 六通を、もう一度そろえます。


 ページ数。


 条番号。


 付属地図。


 署名欄。


 一通だけ違う文章が混じっていないことを、書記が二人ずつ組になって確認します。


 それが終わるまで、誰も羽根ペンを取りません。


 やがて、お父様が全員を見ました。


「本文、付属書、地図を含め、これを最終文面とすることに異議はありますか」


 最初にルイ十四世。


「ない」


 アン女王。


「異議ありません」


 ヴィットーリオ・アメデーオ。


「ありません」


 ハインシウス。


「ネーデルラント連邦共和国として同意します」


 お父様は一度だけ頷きました。


「では、署名を」


 会議室が静かになりました。


 話し合いのときより静かです。


 最初はフランス。


 ルイ十四世が羽根ペンを取ります。


 名前を書く場所には、余計な文章はありません。


 ただ、署名するための空白。


 その下に、小さく印刷されています。


 フランス国王。


 締約全権者。


 王は少しも迷わず、名前を書きました。


 Louis。


 一本目。


 次はイングランド。


 アン女王は椅子に座ったまま文書を自分の方へ寄せてもらいました。


 手元を確かめます。


 ゆっくりですが、誰かに代筆させません。


 Anne。


 その下。


 イングランド女王。


 締約全権者。


 ペンを置いたあと、少しだけ手を休めました。


 誰も急かしませんでした。


 三番目。


 イタリア側、サヴォイア。


 Victor Amadeus。


 サヴォイア公。


 締約全権者。


 四番目。


 ネーデルラント。


 Anthonie Heinsius。


 ホラントおよび西フリースラント州大法律顧問。


 ネーデルラント連邦共和国のための連邦議会全権代表。


 これで四人です。


 戦争を続けることもできた人。


 やめると決めた人。


 その四人の名前が、同じ紙の上に並びました。


     ◇ ◇ ◇


「次は私だな」


 お父様が言いました。


「五カ国目?」


「違う」


「分かってる」


 お父様の欄には、締約全権者とはありません。


 エルレンフェルト公爵。


 開催国元首。


 仲介者。


 お父様は、その資格で名前を書きました。


 Reinhard。


 その次に、帝国代表。


 Johann Wenzel Graf Wratislaw von Mitrowitz。


 長いです。


 どろちゃんは、横から見ていました。


「長いね」


「お嬢様」


 フランソワさんが小さく止めました。


「だって長いでしょう」


 本人が少し笑いました。


「私もそう思うことはあります」


「言っていいんだ」


「署名する本人ですので」


 その下には。


 皇帝使節。


 神聖ローマ帝国オブザーバー。


 帝国を拘束する全権を有しない。


 誰が見ても分かるように書いてあります。


 そして。


 まだ空欄が一つありました。


 どろちゃんは見ました。


「これ、私?」


「お前だ」


「私も書くの?」


「書く」


「私は何を約束するの?」


 お父様は、すぐには答えませんでした。


 署名欄を指します。


「お前は締約国ではない。国境を確定する全権もない。フランス軍を撤退させる権限も、イングランドの港の権利を決める権限もない」


「うん」


「だが、最初から最後までここにいた。この文面を読んだ。地図を引いた。四人が、この文面に異議がないと言ったところを聞いた。そして、今ここで四人が署名したところを見ている」


「うん」


「だから、お前の署名は、その事実を見た者の署名だ」


 どろちゃんは、自分の欄をもう一度見ました。


 イングランド伯爵。


 エルレンフェルト公爵令嬢。


 オブザーバー。


「私があとで、『そんな紙なかった』って言えなくなる?」


「そういうことでもある」


「言わないよ」


「知っている」


 お父様は、少しだけ表情を緩めました。


「だが、文書というのは、皆が知っていることも紙にするものだ」


「じゃあ書く」


 どろちゃんは羽根ペンを取りました。


 名前を書きます。


 Dorothea。


 最後です。


 書き終わってから、自分の名前を見ました。


「小さい」


「何がでございますか」


「上の人たち、肩書き長い」


「お嬢様も十分長うございます」


「そう?」


「イングランド伯爵で、公爵令嬢でございます」


「二つだった」


「十分でございます」


     ◇ ◇ ◇


 署名が終わると、書記たちがまた動きます。


 印章。


 封蝋。


 正本ごとの確認。


 付属地図との組み合わせ。


 一通はフランス。


 一通はイングランド。


 一通はサヴォイア。


 一通はネーデルラント。


 一通はエルレンフェルトの公文書庫。


 もう一通は、帝国代表が皇帝へ持ち帰ります。


 どろちゃんの分はありません。


「私のない」


「お前は家で見られる」


「そっか」


 お父様が、最後に一通を閉じました。


「これで成立だ」


 どろちゃんは少し待ちました。


 何か音がするわけでもありません。


 空が光るわけでもありません。


 大砲が鳴るわけでもありません。


「終わった?」


「条約はな」


「戦争も?」


「今日から、そうするために各国が動く」


「まだ仕事ある」


「山ほどある」


「でも、撃つのは止まる?」


「止めると、今ここで四人が名前を書いた」


 どろちゃんは、もう一度署名の並んだ紙を見ました。


「じゃあ、昨日より進んだね」


「ああ」


 それだけでした。


 何年も続くはずだった戦争の途中で。


 四人が紙に名前を書きました。


 紙は薄いです。


 でも、その日の朝は。


 大砲より、少し重い紙になりました。


     ◇ ◇ ◇


 調印が終わってから、どろちゃんは港へ行きました。


 水玉船が来ました。


 ケールからです。


 昨日より荷物の多い人は減っていました。


 ゼロではありません。


 でも。


「撃たないって伝わった?」


 どろちゃんが聞きました。


「今朝調印されたばかりで、正式な布告はまだケール側の全域へ届いておりません」


 港の役人が答えました。


「ただ、兵が動いていないことは見れば分かります」


「帰る人いる?」


「一度移った者は、すぐには戻らないでしょう」


「そっか」


「ですが、今朝から新しく出てくる家族は少し減りました」


「よかった」


 川の向こう。


 ケールはまだあります。


 城壁も。


 家も。


 市場も。


 役所も。


 壊れていません。


 水玉船が着きます。


 人が降ります。


 人が乗ります。


 郵便も載ります。


 荷物も載ります。


 いつもの定期船に、少しずつ戻ろうとしています。


「フランソワさん」


「はい」


「地図に線引いただけで、町が残ることもあるんだね」


「昨日は、線だけではございません」


「王様が戦争やめた」


「はい」


「紙にも名前書いた」


「はい」


「じゃあ、まだ仕事いっぱい」


「ございます」


「男爵さんも?」


「お嬢様」


「なに?」


「その呼び方は、まだ続くのでございますか」


「男爵だから」


「私は本日もフランソワでございます」


「知ってる」


 水玉船が岸を離れました。


 白い船体。


 大きな水玉。


 その先に、まだ撃たれていない町があります。


 世界地図の方には。


 昨日までなかった赤い線が、たくさん増えていました。


     ◇ ◇ ◇


第45章の小さな説明


【神様から先に届いたアセチルサリチル酸】


 前夜、どろちゃんがアン女王の血栓傾向を疑い、低用量アセチルサリチル酸を候補として考えたため、翌朝には神様から完成品と注意書きが届きます。

 どろちゃんは神様製だから無条件に投与するのではなく、王室医師と出血歴、胃の状態、併用薬などを確認してから使います。

 サリチル酸メチル外用剤も同時に届きますが、こちらは関節・筋肉の痛みに使う別用途です。

 現地工場ではサリチル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチルの合成研究を継続し、神様製の薬は品質比較の標準品にもします。



【ルイ十四世とアカデミア】


 どろちゃんは、ルイ十四世の文化・芸術政策そのものを高く評価しています。

 その上で、国家が画家や研究者を支える制度を作っても、入会、賞、給与、王室注文などの入口を少数の既存会員や官僚が長期間握れば、「私人のパトロン」を「制度内のパトロン」に置き換えただけになり得ると問いかけます。

 歴史画を高度な総合課題として教えることと、「芸術として最上位」と固定することも分けて考えます。

 また、作り手だけでなく、作品を理解し、保存し、公開し、次世代へ価値を伝える受け手を増やすことを国家文化政策の一部にするよう提案します。

 一七〇三年のどろちゃんは、後世の様式名である「ロココ」という語を口にせず、明るい色、親密な場面、柔らかな輪郭など、当時すでに需要の見える方向として説明します。

 どろちゃんの「何百年たってもパリは芸術の都と呼ばれると思う」という言葉は、未来知識を断言する形ではなく、ルイ十四世の政策を見た上での予想として話しています。



【アン女王がイングランド側の最終決定者】


 今回のイングランド代表団では、アン女王本人が最終決定者として参加しています。

 そのため、通商権、港湾利用、市場開放などについての主要な発言は、匿名の「イングランド側」ではなくアン女王本人が行います。

 領土を大量に抱えるより、海運・交易・関税・市場への継続的なアクセスを重視するため、ルイ十四世の文化投資とは別方向に、戦費を将来の利益へ変えようとしています。



【この章からの大きな史実分岐】


 本章では、一七〇三年二月の段階でルイ十四世が、フランスの資金と兵力を使ってスペイン継承戦争を続けることをやめる方向へ決断します。

 フェリペのスペイン王位そのものをただちに放棄するのではなく、「フランス王位との統合はしない」「スペイン国内の争いをフランス軍が全面的に肩代わりしない」「スペイン帝国全体を強国として維持するためにフランスが消耗し続けない」という形です。

 ここから史実とは大きく異なる世界へ進みます。



【四者で要求を出す理由】


 イングランドだけがスペインの領土・通商・海外権益について案を出すと、イングランドだけが利益を得るための和平に見えます。

 そのため、フランス、イングランド、ネーデルラント、サヴォイアの四者が、それぞれ自国の安全保障と経済上の希望を出し、互いに取りすぎを監視する形にします。

 表向きは勢力均衡と安定のためですが、四者とも当然、自国に利益のある条件を求めています。



【どろちゃんの国境線】


 交渉が細部で止まり始めたため、どろちゃんは山脈、大河川、水系、港と後背地、生活圏、軍事的な守りやすさ、飛び地を減らすことを基準に、大きな原則線を先に引きます。

 未来の国名や未来の地図を知っていることは口にしません。

 しかし、地形そのものは未来でも変わらないため、結果としてヨーロッパ側では二十一世紀初頭の国境に似た線が多く現れることになります。

 どろちゃんの線をそのまま確定国境にはせず、各国が修正し、現地確認を行う前提です。



【スペインの海外領土を細かく割らない考え方】


 どろちゃんは、スペインの海外領土を多数の小さな国家へ細分化するより、山脈、大河川、港、交易圏などを基準に、いくつかの大きな地域単位へまとめる案を出します。

 メヒコを中心とする北部、カリブ海へ出る北アンデス、中央アンデス、ラ・プラタ水系、チリ沿岸など、地理的にまとまりやすい範囲を大きく取ります。

 細部の境界は現地の住民・町・既存行政を確認してから決めるため、会議室の線だけで確定させません。



【スペインを弱くし、四者の発展資本へ変える】


 スペインの海外市場を閉じた独占圏へ戻さず、四者に通商を開きます。

 同時に、戦争継続へ使うはずだった資金の一部を、各国国内の道路、港、運河、工房、倉庫、治水などへ振り向け、海外側でも港湾・道路・水利などへの投資へ回します。

 戦争をやめることを単なる道徳ではなく、「消える戦費を、後に残る資本へ変える」という前章までの考え方につなげています。



【エルレンフェルト条約と調印】


 前日にまとまった原則を、書記たちが夜のうちに条文へ整理し、翌朝に全員で最終確認してから署名します。

 締約当事者として署名する順番は、フランス、イングランド、イタリア側のサヴォイア、ネーデルラントです。続いて、お父様が開催国元首・仲介者として、神聖ローマ帝国代表が全権を持たないオブザーバーとして、どろちゃんが立会人としてのオブザーバーとして署名します。

 帝国代表の署名は、皇帝や帝国全体を条約へ加入させる署名ではありません。そのこと自体を条文と署名欄に明記し、皇帝本人による最終判断は次回以降へ残します。

 この世界では外交に参加する人々が同じドイツ語風ナーロッパ共通語を読めるため、国ごとに異なる言語の正文を作りません。同一言語・同一文面の正本を六通作り、フランス、イングランド、サヴォイア、ネーデルラント、エルレンフェルト、皇帝への送付用として帝国代表が一通ずつ保持します。

 以下に、読者用の日本語訳、その後に作中原文に相当するドイツ語風ナーロッパ言語版を付します。ナーロッパ言語は現実のドイツ語そのものではありませんが、付録では読みやすさのため現代ドイツ語に近い綴りで表記します。



【ケール】


 停戦が続いたことで、この物語ではケールへ戦闘が流れ込む直前で軍事行動が止まっています。

 前章で避難を始めた住民がただちに全員戻るわけではありませんが、砲撃と占領が始まらないため、町、行政、市場、家屋、水玉船の定期交通が残ります。

 会議室の決定が、地図上の線だけでなく、目の前の町が壊れるか残るかへ直接つながる場面です。




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付録 エルレンフェルト条約 読者用日本語訳

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エルレンフェルト条約


敵対行為の終結、

スペイン継承問題の処理原則、

ヨーロッパ領の再編、

およびスペイン海外領との自由通商について


1703年2月、エルレンフェルトにおいて締結



前文


フランス国王陛下、

イングランド女王陛下、

サヴォイア公爵殿下、

およびネーデルラント連邦共和国は、


現在の敵対行為を終結させ、

都市、村落、農地、道路および港湾のさらなる荒廃を避け、

フランス王冠とスペイン王冠の統合を排除し、

スペイン継承を原因として、いずれか一国が支配的地位を得ることのないようヨーロッパの勢力関係を整え、

戦争に充てられてきた資金を、今後可能な限り、通商、道路、港湾、水利施設、工房、倉庫その他の平和的用途へ振り向けることを目的として、


エルレンフェルト公爵の仲介のもと共同で協議し、以下の条項に合意した。



第1条

敵対行為の終結


1. 四締約当事者は、相互の敵対行為を終結する。


2. すでに実施されている停戦は、本条約に定める撤退および引渡しが完了するまで、中断することなく継続する。


3. いずれの締約当事者も、この期間中に新たな攻撃を開始し、新たな包囲を行い、または奇襲のための兵力集結に停戦を利用してはならない。



第2条

フランスとスペイン王位をめぐる戦争


1. フランスは、スペイン継承をめぐる戦争を従来の規模で継続することを目的とした、フランス軍、フランスの資金およびフランスの軍需物資の投入を終了する。


2. フランスは、スペイン各地の都市および地方において、スペイン国王への支持に関するスペイン国内の判断をフランス軍によって強制することを求めない。


3. フランス軍は、停戦において指定された地域から、共同で定める日程に従って撤退する。


4. ケール周辺からの撤退は、住民が可能な限り家屋、財産および交通路を損なわれずに保持できるよう実施する。



第3条

フランス王冠とスペイン王冠


1. 締約当事者は、本条約の条件のもとで、フェリペがスペイン王冠を保持することに異議を唱えない。


2. フランス王冠とスペイン王冠は、一人の人物に統合されてはならない。


3. 継承、婚姻、退位、譲渡その他いかなる法的手段も、この分離を名目上のみ維持し、両国を実質的に単一の統治のもとへ置くために利用してはならない。


4. フランスは、スペインのすべてのヨーロッパ領および海外領を、フランス軍およびフランスの資金によって防衛する義務を負わない。



第4条

ヨーロッパ領に関する原則


1. ヨーロッパ領の再編は、連続性があり、統治可能で、防衛可能な地域を基本として行う。


2. 新たな飛び地は可能な限り避け、著しく大きな軍事負担をかけなければ維持できない既存の孤立領は減らす。


3. 国境線の設定にあたっては、山地、分水界、河川、谷、既存の交通路、相互に結びついた市場、および都市・地域間の実際の関係を考慮する。


4. 河川を常に無条件で国境線としてはならない。治水、堤防、排水、航行または共同利用のために、一体的な管理または拘束力のある協力が必要な場合には、その関係地域全体を考慮する。


5. 港湾は、その自然な後背地から切り離さない。


6. 都市、谷および一体的な経済圏は、やむを得ない理由なく分割しない。


7. 本条約に添付する原則地図は出発点として用いるものであり、最終国境図ではない。現地確認、関係者からの聴取および測量を必要とする。



第5条

ネーデルラントおよび低地地方


1. 低地地方の将来の秩序は、遠方の君主が治水、港湾、河川および現地行政を顧みることなく、大軍を恒久的に駐留させる状態を生じさせないものとする。


2. 治水、堤防、排水、河口および港湾との接続は、相互に連関する一つの課題として扱う。


3. 締約当事者は、ネーデルラント連邦共和国の安全を確保するために、同じ危険を単に隣国へ移すだけではならないことを認める。



第6条

サヴォイア、アルプスおよびイタリア


1. アルプスおよびこれに接するイタリア地域においては、恒久的に維持困難な突出部、細長い回廊および軍事力によってのみ維持される孤立領を可能な限り減らすよう国境を設定する。


2. 谷、峠および分水界を特に考慮する。


3. 不適切な国境設定だけを理由として、大国同士が特に重要なアルプスの通路で直接向き合うことのないよう秩序を整える。


4. 個々の地点および境界線の最終決定は、現地確認の後に行う。



第7条

スペイン海外領


1. スペイン海外領を、スペインのみが利用できる排他的な閉鎖通商圏へ戻してはならない。


2. これらの地域を将来政治的に再編する場合には、可能な限り存立可能で連続性のある地域を形成する。港湾、農地、交通路その他の必要条件への十分な接続を持たない小地域へ過度に細分化することは避ける。


3. 添付する原則地図は広域的な案のみを示し、最終国境を定めるものではない。


4. 最終決定に先立ち、既存の都市、行政、交通路、港湾、宗教事情、経済関係および現地住民を考慮する。


5. 本条によって、四締約当事者のいずれにも、スペイン海外領全体を単独で取得する権利は生じない。



第8条

港湾、通商、関税および投資


1. 海外通商のために開放される港湾は、フランス、イングランド、ネーデルラント連邦共和国およびサヴォイアに対し、同一の法的条件で開放する。


2. いずれの署名者も、港湾開放を根拠として排他的通商権を主張してはならない。


3. 関税を徴収することはできる。そのうち定められた割合は現地行政に残し、港湾、道路、倉庫、水利施設その他の社会基盤の維持などに用いる。


4. いずれかの締約当事者、または共同で認可された商人が、これら施設の建設または改良に資金を提供した場合、事前に合意した割合の収入を、一定期間その費用の回収に充てることができる。


5. 回収期間、割合および範囲は、各工事の開始前に文書で定めなければならない。



第9条

民間人および交通


1. 敵対行為の終結は、民間人が可能な限り追放されず、また家屋や備蓄物資を奪われないよう実施する。


2. 家族、負傷者、病人、商人、医師、学者、旅人その他戦闘行為に参加しない者は、民間に開放された交通路を利用できる。


3. ケールおよびその周辺地域の撤収中も、安全が許す限り民間交通を維持する。


4. 撤退を名目として財産を略奪し、または適正な補償手続を経ずに接収してはならない。



第10条

エルレンフェルト


1. 四締約当事者は、エルレンフェルトを他の締約当事者への攻撃のための集結地または軍事通過地として使用してはならないことを確認する。


2. 締約当事者の武装部隊がエルレンフェルト領内を通過する場合には、エルレンフェルト政府の明示的な同意を必要とする。


3. 本条は、商人、学者、医師、旅人、郵便その他の非軍事的な民間往来を制限しない。


4. エルレンフェルト公爵は、開催者および仲介者として本条約に署名する。これによりエルレンフェルトが四つの交戦締約当事者の一つとなるものではない。



第11条

神聖ローマ帝国


1. 神聖ローマ帝国の代表一名は、オブザーバーとして調印に参加する。


2. 皇帝本人が出席しておらず、かつオブザーバーには本条約で扱う事項について帝国を最終的に拘束する全権が与えられていないため、その署名は、皇帝、帝国諸身分または帝国全体に義務を生じさせない。


3. 皇帝またはその他の帝国機関による拘束力ある決定を必要とする事項は、次回の会合で扱う。


4. それまでの間、四締約当事者は、オブザーバーの署名をもって帝国の同意または権利放棄と解釈してはならない。



第12条

地図、現地確認および後続議定書


1. 本条約に添付する地図は、協議の基礎資料の一部とする。


2. 「暫定」「原則線」または「現地確認前につき未確定」と記された線は、本条約への署名によって最終国境の効力を得るものではない。


3. 測量者、現地代表および各当事者が指名する委員会が、指定地域を確認する。


4. 原則地図からの変更には文書による理由を付し、直接関係する当事者の確認を得る。


5. 軍の撤退、港湾制度、関税配分および投資回収の詳細は、個別の議定書に定める。



第13条

合意の拘束


1. いかなる秘密の付帯合意も、本条約で引き受けた義務を無効にし、またはその趣旨に反して変更することはできない。


2. 本条約の変更には文書形式を要し、当該変更によって影響を受ける署名者の同意を必要とする。


3. 後に政治的な利害関係が変化したことのみを理由として、ここで明示的に引き受けた義務を一方的に無効とすることはできない。



第14条

発効および正本


1. 本条約は、四締約当事者の全権者が署名した時点で発効する。


2. 開催者、帝国オブザーバーおよびオブザーバーであるドロテーヤの署名は、場所、経過および本文が受諾された事実を証明するものであり、これらの者を第五、第六または第七の締約当事者とするものではない。


3. 本条約は、同一文面の正本六通を作成する。

フランス用、

イングランド用、

サヴォイア用、

ネーデルラント連邦共和国用、

エルレンフェルト公文書館用、

および皇帝へ送付する帝国オブザーバー用である。


4. すべての正本は同一の文面および同一の効力を有する。


5. 1703年2月、エルレンフェルトにおいて作成。



署名



Louis


フランス国王

締約全権者



Anne


イングランド女王

締約全権者



Victor Amadeus


サヴォイア公

締約全権者



Anthonie Heinsius


ホラントおよび西フリースラント州大法律顧問

ネーデルラント連邦共和国のための

連邦議会全権代表



Reinhard


エルレンフェルト公爵

開催国元首

仲介者



Johann Wenzel Graf Wratislaw von Mitrowitz


皇帝使節

神聖ローマ帝国オブザーバー

帝国を拘束する全権を有しない



Dorothea


イングランド伯爵

エルレンフェルト公爵令嬢

オブザーバー



付属書A

国境地図に関する原則


1. 飛び地を減らす。

2. 山地および分水界を考慮する。

3. 河川は、実際の利用実態に適する場合にのみ国境として用いる。

4. 不適切な国境によって共同水管理を破壊しない。

5. 港湾とその後背地を可能な限り一体として扱う。

6. 都市、谷および相互に結びついた市場を、やむを得ない理由なく分割しない。

7. 恒久的な軍事駐留によってしか維持できない遠隔の孤立領を減らす。

8. 暫定線は、現地確認が終わるまで暫定のままとする。



付属書B

海外通商に関する原則


1. スペインによる排他的通商権を認めない。

2. 四締約当事者のいずれにも排他的通商権を認めない。

3. 開放港について、四締約当事者に平等な利用権を認める。

4. 現地関税収入の一部は、現地行政および社会基盤のために使用する。

5. 港湾、道路、倉庫および水利施設への投資は、事前に定めた規則に従い、一定期間、収入から回収できる。

6. 最終的な政治境界は、現地確認を行わずに確定しない。



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付録 エルレンフェルト条約 ドイツ語風ナーロッパ言語版

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VERTRAG VON ERLENFELD


über die Beendigung der Feindseligkeiten,

die Grundsätze der Ordnung der spanischen Erbfolge,

die Neuordnung der europäischen Besitzungen

und den freien Handel mit den überseeischen Gebieten Spaniens


geschlossen zu Erlenfeld im Februar 1703



PRÄAMBEL


Seine Majestät der König von Frankreich,

Ihre Majestät die Königin von England,

Seine Hoheit der Herzog von Savoyen

und die Republik der Vereinigten Niederlande,


in der Absicht, die gegenwärtigen Feindseligkeiten zu beenden,

weitere Verwüstungen von Städten, Dörfern, Feldern, Straßen und Häfen zu vermeiden,

die Vereinigung der Kronen Frankreichs und Spaniens auszuschließen,

die europäischen Machtverhältnisse so zu ordnen, dass keine einzelne Macht aus dem spanischen Erbfall eine beherrschende Stellung gewinnt,

und die für Krieg bestimmten Mittel künftig soweit möglich dem Handel, den Straßen, Häfen, Wasserbauten, Werkstätten, Lagern und anderen friedlichen Zwecken zuzuwenden,


haben nach gemeinsamer Beratung unter Vermittlung des Herzogs von Erlenfeld die folgenden Bestimmungen vereinbart.



ARTIKEL I

Beendigung der Feindseligkeiten


1. Die vier vertragschließenden Parteien beenden die Feindseligkeiten gegeneinander.


2. Der bereits bestehende Waffenstillstand bleibt ohne Unterbrechung in Kraft, bis die in diesem Vertrag vorgesehenen Rückzüge und Übergaben vollzogen sind.


3. Keine der vertragschließenden Parteien darf während dieser Zeit neue Angriffe beginnen, neue Belagerungen eröffnen oder den Waffenstillstand dazu benutzen, Truppen für einen überraschenden Angriff zusammenzuziehen.



ARTIKEL II

Frankreich und der Krieg um die spanische Krone


1. Frankreich beendet den Einsatz französischer Truppen, französischer Gelder und französischer Kriegsmittel mit dem Ziel, den Krieg um die spanische Erbfolge im bisherigen Umfang fortzuführen.


2. Frankreich erhebt keinen Anspruch darauf, die innere Entscheidung Spaniens über die Unterstützung seines Königs mit französischen Truppen in einzelnen Städten und Provinzen zu erzwingen.


3. Die französischen Truppen ziehen sich nach einem gemeinsam festgelegten Zeitplan aus den im Rahmen des Waffenstillstandes bezeichneten Gebieten zurück.


4. Der Rückzug aus dem Raum Kehl wird so durchgeführt, dass die Bevölkerung ihre Häuser, ihr Eigentum und ihre Verkehrswege nach Möglichkeit unversehrt behalten kann.



ARTIKEL III

Die Kronen Frankreichs und Spaniens


1. Die Parteien erheben unter den Bedingungen dieses Vertrages keinen Einwand dagegen, dass Felipe die spanische Krone behält.


2. Die Krone Frankreichs und die Krone Spaniens dürfen nicht in einer Person vereinigt werden.


3. Keine Erbfolge, Heirat, Abdankung, Übertragung oder sonstige Rechtsgestaltung darf dazu benutzt werden, diese Trennung nur dem Namen nach bestehen zu lassen und beide Reiche tatsächlich unter eine einheitliche Regierung zu stellen.


4. Frankreich ist nicht verpflichtet, sämtliche europäischen und überseeischen Besitzungen Spaniens mit französischen Truppen und französischen Mitteln zu verteidigen.



ARTIKEL IV

Grundsätze für die europäischen Gebiete


1. Die Neuordnung der europäischen Gebiete soll nach zusammenhängenden, verwaltbaren und verteidigungsfähigen Räumen erfolgen.


2. Neue Enklaven und Exklaven sollen nach Möglichkeit vermieden und bestehende, nur mit unverhältnismäßigem militärischem Aufwand haltbare Besitzinseln vermindert werden.


3. Gebirge, Wasserscheiden, Flüsse, Täler, bestehende Verkehrswege, zusammengehörige Märkte und die tatsächlichen Beziehungen der Städte und Landschaften sind bei der Grenzziehung zu berücksichtigen.


4. Ein Fluss soll nicht ohne Prüfung stets als Grenzlinie verwendet werden. Wo Wasserbau, Deiche, Entwässerung, Schifffahrt oder gemeinsame Nutzung eine einheitliche Verwaltung oder verbindliche Zusammenarbeit erfordern, ist der gesamte betroffene Raum zu berücksichtigen.


5. Häfen sollen nicht von ihrem natürlichen Hinterland abgeschnitten werden.


6. Städte, Täler und zusammengehörige Wirtschaftsgebiete sollen nicht ohne zwingenden Grund geteilt werden.


7. Die dem Vertrag beigefügte Grundsatzkarte dient als Ausgangspunkt. Sie ist keine endgültige Grenzkarte. Örtliche Prüfung, Anhörung und Vermessung bleiben erforderlich.



ARTIKEL V

Die Niederlande und die niedrigen Länder


1. Die künftige Ordnung der niedrigen Länder darf nicht dazu führen, dass entfernte Herrscher dort ohne Rücksicht auf Wasserbau, Häfen, Flüsse und örtliche Verwaltung dauerhaft große Streitkräfte unterhalten.


2. Wasserbau, Deiche, Entwässerung, Flussmündungen und Hafenverbindungen sind als zusammenhängende Aufgaben zu behandeln.


3. Die Parteien erkennen an, dass die Sicherheit der Republik der Vereinigten Niederlande nicht durch die bloße Verlagerung derselben Gefahr auf einen Nachbarn hergestellt werden darf.



ARTIKEL VI

Savoyen, die Alpen und Italien


1. In den Alpen und in den angrenzenden italienischen Gebieten sollen Grenzen nach Möglichkeit so geführt werden, dass dauerhaft unhaltbare Vorsprünge, schmale Korridore und militärisch erzwungene Besitzinseln vermindert werden.


2. Täler, Pässe und Wasserscheiden sind besonders zu berücksichtigen.


3. Die Ordnung soll verhindern, dass große Mächte allein durch eine unzweckmäßige Grenzziehung unmittelbar an besonders empfindlichen Alpenübergängen aufeinandertreffen müssen.


4. Die endgültige Festlegung einzelner Orte und Linien erfolgt nach örtlicher Prüfung.



ARTIKEL VII

Überseeische Gebiete Spaniens


1. Die überseeischen Gebiete Spaniens sollen nicht wieder zu einem ausschließlich geschlossenen Handelsraum gemacht werden, zu dem nur Spanien Zugang hat.


2. Bei einer späteren politischen Neuordnung dieser Gebiete sollen möglichst lebensfähige, zusammenhängende Räume geschaffen werden. Eine übermäßige Zerteilung in kleine Gebiete ohne ausreichenden Zugang zu Häfen, Landwirtschaft, Verkehrswegen oder anderen notwendigen Grundlagen soll vermieden werden.


3. Die beigefügte Grundsatzkarte bezeichnet nur großräumige Vorschläge. Sie bestimmt keine endgültigen Grenzen.


4. Vor endgültigen Entscheidungen sind die bestehenden Städte, Verwaltungen, Verkehrswege, Häfen, religiösen Verhältnisse, wirtschaftlichen Beziehungen und die dort lebende Bevölkerung zu berücksichtigen.


5. Keine der vier vertragschließenden Parteien erhält durch diesen Artikel das Recht, die gesamten überseeischen Besitzungen Spaniens allein an sich zu ziehen.



ARTIKEL VIII

Häfen, Handel, Zölle und Investitionen


1. Die für den überseeischen Handel bestimmten Häfen werden Frankreich, England, der Republik der Vereinigten Niederlande und Savoyen zu gleichen rechtlichen Bedingungen geöffnet.


2. Kein Unterzeichner darf aus der Öffnung der Häfen ein ausschließliches Handelsrecht für sich ableiten.


3. Zölle dürfen erhoben werden. Ein festzulegender Anteil verbleibt bei den örtlichen Verwaltungen und dient unter anderem dem Unterhalt von Häfen, Straßen, Lagern, Wasseranlagen und sonstiger Infrastruktur.


4. Werden durch eine der Parteien oder durch gemeinsam zugelassene Kaufleute Mittel für den Bau oder die Verbesserung solcher Einrichtungen bereitgestellt, dürfen vorher vereinbarte Anteile der Einnahmen für eine bestimmte Zeit zur Rückzahlung dieser Aufwendungen verwendet werden.


5. Dauer, Anteil und Umfang solcher Rückzahlungen müssen vor Beginn der jeweiligen Arbeiten schriftlich festgelegt werden.



ARTIKEL IX

Zivile Bevölkerung und Verkehr


1. Die Beendigung der Feindseligkeiten soll so durchgeführt werden, dass die Zivilbevölkerung möglichst weder vertrieben noch ihrer Häuser und Vorräte beraubt wird.


2. Familien, Verwundete, Kranke, Kaufleute, Ärzte, Gelehrte, Reisende und andere nicht an Kampfhandlungen beteiligte Personen dürfen die für sie geöffneten Verkehrswege benutzen.


3. Während der Räumung des Raumes Kehl und der angrenzenden Gebiete bleiben zivile Verkehrsverbindungen, soweit die Sicherheit dies zulässt, offen.


4. Eigentum darf nicht unter dem Vorwand des Rückzuges geplündert oder ohne geregelte Entschädigung eingezogen werden.



ARTIKEL X

Erlenfeld


1. Die vier vertragschließenden Parteien bestätigen, dass Erlenfeld weder als Aufmarschgebiet noch als Durchmarschgebiet für einen Angriff auf eine andere Partei benutzt werden darf.


2. Bewaffnete Truppen der vertragschließenden Parteien überschreiten das Gebiet Erlenfelds nur mit ausdrücklicher Zustimmung der Regierung Erlenfelds.


3. Diese Bestimmung beschränkt nicht den zivilen Verkehr von Kaufleuten, Gelehrten, Ärzten, Reisenden, Post und anderen nichtmilitärischen Personen.


4. Der Herzog von Erlenfeld unterzeichnet diesen Vertrag als Gastgeber und Vermittler. Erlenfeld wird dadurch nicht zu einer der vier kriegführenden Vertragsparteien.



ARTIKEL XI

Das Heilige Römische Reich


1. Ein Vertreter des Heiligen Römischen Reiches nimmt an der Unterzeichnung als Beobachter teil.


2. Da der Kaiser selbst nicht anwesend ist und dem Beobachter keine Vollmacht erteilt wurde, das Reich in den hier behandelten Fragen abschließend zu binden, begründet dessen Unterschrift keine Verpflichtung des Kaisers, der Reichsstände oder des Reiches als Ganzes.


3. Fragen, die eine verbindliche Entscheidung des Kaisers oder weiterer Reichsorgane erfordern, werden auf einer folgenden Zusammenkunft behandelt.


4. Bis dahin dürfen die vier vertragschließenden Parteien aus der Beobachterunterschrift weder Zustimmung noch Verzicht des Reiches ableiten.



ARTIKEL XII

Karten, Ortsprüfung und spätere Protokolle


1. Die diesem Vertrag beigefügten Karten werden Bestandteil der Beratungsgrundlage.


2. Linien, die als „vorläufig“, „Grundsatzlinie“ oder „vor örtlicher Prüfung nicht endgültig“ bezeichnet sind, erhalten durch die Unterzeichnung dieses Vertrages nicht den Rang einer endgültigen Grenze.


3. Vermesser, örtliche Vertreter und von den Parteien benannte Kommissionen prüfen die bezeichneten Gebiete.


4. Änderungen gegenüber den Grundsatzkarten müssen schriftlich begründet und von den unmittelbar betroffenen Parteien bestätigt werden.


5. Die Einzelheiten des Truppenabzuges, der Hafenordnung, der Zollanteile und der Investitionsrückzahlung werden in besonderen Protokollen festgehalten.



ARTIKEL XIII

Bindung an die Vereinbarung


1. Keine geheime Nebenabrede darf die in diesem Vertrag übernommenen Verpflichtungen aufheben oder ihrem Sinn entgegengesetzt verändern.


2. Änderungen dieses Vertrages bedürfen der Schriftform und der Zustimmung der davon betroffenen Unterzeichner.


3. Ein späterer Wechsel des politischen Vorteils allein gilt nicht als Grund, die hier ausdrücklich übernommenen Verpflichtungen einseitig für nichtig zu erklären.



ARTIKEL XIV

Inkrafttreten und Urschriften


1. Dieser Vertrag tritt mit der Unterzeichnung durch die vier bevollmächtigten Vertragsparteien in Kraft.


2. Die Unterschriften des Gastgebers, des kaiserlichen Beobachters und der Beobachterin Dorothea bestätigen Ort, Ablauf und bezeugte Annahme des Textes, machen diese Personen jedoch nicht zu einer fünften, sechsten oder siebten Vertragspartei.


3. Der Vertrag wird in sechs gleichlautenden Urschriften ausgefertigt:

für Frankreich,

für England,

für Savoyen,

für die Republik der Vereinigten Niederlande,

für das Archiv von Erlenfeld

und für den kaiserlichen Beobachter zur Übermittlung an den Kaiser.


4. Alle Urschriften haben denselben Wortlaut und dieselbe Geltung.


5. Geschehen zu Erlenfeld im Februar 1703.



UNTERSCHRIFTEN



Louis


König von Frankreich

bevollmächtigte Vertragspartei



Anne


Königin von England

bevollmächtigte Vertragspartei



Victor Amadeus


Herzog von Savoyen

bevollmächtigte Vertragspartei



Anthonie Heinsius


Ratspensionär von Holland und Westfriesland

bevollmächtigter Vertreter der Generalstaaten

für die Republik der Vereinigten Niederlande



Reinhard


Herzog von Erlenfeld

Staatsoberhaupt des Gastgeberlandes

Vermittler



Johann Wenzel Graf Wratislaw von Mitrowitz


kaiserlicher Gesandter

Beobachter des Heiligen Römischen Reiches

ohne Vollmacht zur Bindung des Reiches



Dorothea


englische Gräfin

Tochter des Herzogs von Erlenfeld

Beobachterin



ANLAGE A

Grundsätze der Grenzkarte


1. Enklaven und Exklaven vermindern.

2. Gebirge und Wasserscheiden berücksichtigen.

3. Flüsse nur dort als Grenze verwenden, wo dies der tatsächlichen Nutzung entspricht.

4. Gemeinsame Wasserwirtschaft nicht durch eine unzweckmäßige Grenze zerstören.

5. Häfen und ihr Hinterland möglichst zusammenhalten.

6. Städte, Täler und zusammengehörige Märkte nicht ohne zwingenden Grund teilen.

7. Fern liegende Einzelbesitzungen vermindern, wenn sie nur durch dauernde militärische Präsenz gehalten werden können.

8. Vorläufige Linien bleiben bis zur örtlichen Prüfung vorläufig.



ANLAGE B

Grundsätze des überseeischen Handels


1. Kein ausschließliches Handelsrecht Spaniens.

2. Kein ausschließliches Handelsrecht einer der vier Vertragsparteien.

3. Gleichberechtigter Zugang der vier Vertragsparteien zu den geöffneten Häfen.

4. Örtliche Zolleinnahmen dienen zum Teil der örtlichen Verwaltung und Infrastruktur.

5. Investitionen in Häfen, Straßen, Lager und Wasseranlagen können nach vorher festgelegten Regeln zeitlich begrenzt aus Einnahmen zurückgeführt werden.

6. Endgültige politische Grenzen werden nicht ohne örtliche Prüfung festgelegt.


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