44王様より先に、冷蔵庫が来ました お出迎え準備も大変 史実のベルサイユ条約なんていくらかかったことやら
第44章 王様より先に、冷蔵庫が来ました
次の会議まで、あと何日か。
会議場のホテルでは、料理長さんが厨房の真ん中で腕を組んでいました。
「ここでございますね」
「うん」
どろちゃんも紙を見ます。
神様から来た指示です。
厨房の壁際。
横幅。
奥行き。
高さ。
床から上は何も置かないこと。
かなり具体的でした。
「棚、動かす?」
「動かさなければ入りません」
「何が来るのか書いてないね」
「大きさだけは、よく分かります」
棚を動かしました。
作業台も少しずらしました。
床を掃きます。
壁際には、妙にきれいな長方形の空間が残りました。
「何もないと変だね」
「明日まででございましょう」
「たぶん」
料理長さんは、何もない場所をもう一度見ました。
「神様は、厨房まで寸法をお測りになるのでございますか」
「見てるんじゃない?」
「どこからでございましょう」
「知らない」
そこは、どろちゃんにも分かりませんでした。
◇ ◇ ◇
翌朝。
「来ております」
料理長さんに呼ばれて厨房へ行くと、昨日まで空いていたところに、大きな銀色の箱がありました。
扉が何枚もあります。
脚があります。
上には機械の入った部分があります。
横には小さな銘板。
「……ホシザキ」
「星でございますか」
「違う。名前」
どろちゃんは近づきました。
神様の世界では珍しくない、業務用の冷蔵庫です。
家庭用ではありません。
料理屋さんや大きな厨房で使う方です。
「これは、冷やす箱でございますか」
「すごく大きい冷蔵庫」
「これ全部が?」
「うん」
扉を一枚開けました。
どろちゃんが止まりました。
「入ってる」
「何がでございますか」
「食べ物」
肉。
乳製品。
野菜。
果物。
バター。
卵。
瓶に入ったもの。
紙と樹脂で包まれたもの。
別の区画にも食材が並んでいます。
料理長さんが、急に厨房の人の顔になりました。
「お待ちくださいませ」
「うん」
「触らないでください」
「はい」
扉が閉まりました。
料理長さんが別の扉を開けます。
確認。
閉める。
また別の扉。
確認。
閉める。
「まだ冷えてないよ」
「ですから、なるべく開けたくございません」
「あ、そうか」
どろちゃんは銘板の横に付いている紙を見ました。
「電気つないで、運転確認だって」
「すぐにできますか」
「電気の人呼ぶ」
神様が冷蔵庫を置いても、電線まで勝手につないではくれませんでした。
ホテル側の電源を確認します。
容量。
配線。
保護。
接地。
問題なし。
電源を入れると、上の機械から低い音が始まりました。
「動いた」
「冷えてまいりますか」
「少し待って」
料理長さんは時計を見ました。
温度も記録することになりました。
神様の箱だから大丈夫。
では終わりません。
「中身も全部、帳面に書こう」
「承知しております」
「もう始めてる?」
「はい」
「早い」
「厨房でございますので」
◇ ◇ ◇
昼前。
料理長さんが、またどろちゃんを呼びました。
「お嬢様」
「なに?」
「お願いがございます」
「食べ物?」
「はい」
料理長さんは冷蔵庫を見ました。
「十分なものを頂いております」
「いっぱい入ってたね」
「肉も、乳も、野菜も、果物も。魚もございます」
「じゃあ足りるね」
「足ります」
そこで終わりませんでした。
「ですが、お魚を少し、私に選ばせていただけませんでしょうか」
「魚、入ってるよ」
「入っております」
「足りない?」
「足ります」
「じゃあ、なんで?」
料理長さんは少し考えました。
「海のお魚は、できれば自分の目で見て決めとうございます」
「見たいの?」
「選びたいのでございます」
「海まで行く?」
「……海まで、でございますか」
「飛べば行けるよ」
料理長さんが黙りました。
厨房の人たちも黙りました。
「お嬢様」
「なに?」
「馬車で行く話ではございませんね」
「ミツバチちゃん」
「やはり」
フランソワさんが横で聞いていました。
「料理長殿もお乗りになりますか」
「魚を選ぶ人がいないと意味ないよ」
「それは、そうでございますね」
「じゃあ行こう」
料理長さんは、冷蔵庫を見ました。
次に、どろちゃんを見ました。
「本当に海までお魚を買いに行かれるのでございますね」
「うん」
「晩餐のために」
「うん」
「飛行機で」
「その方が早いよ」
「……承知いたしました」
返事まで少し時間がかかりました。
◇ ◇ ◇
魚を買いに行く前に、箱を作りました。
新しいものを神様へ頼んだわけではありません。
「これ使う」
どろちゃんが倉庫から持ち出したのは、今まで届いた神様の品物の梱包材でした。
白い発泡材。
少し柔らかい発泡材。
もっと弾力のあるもの。
板。
角を守っていた成形品。
大きな機械の隙間へ入っていたもの。
どろちゃんは捨てていませんでした。
「まだ残しておられたのでございますか」
フランソワさんが言いました。
「だって使えるよ」
「以前も、そのようにおっしゃっておられました」
「使えてるでしょう?」
「はい」
木工のできる人にも来てもらいました。
外側は薄い木箱。
その内側に、ポリスチレンフォームの板を合わせます。
隙間には柔らかいポリエチレンフォーム。
形の合わないところには、残っていたウレタンフォームを使います。
魚が直接触れる内側は、洗える樹脂の膜で分けました。
「これ、冷やす箱ではないよ」
「冷たさを逃がしにくくする箱でございますね」
「そう」
料理長さんも手を入れました。
「この箱は長い方がよろしゅうございます」
「魚?」
「魚でございます」
「こっちは?」
「貝や小さなものを入れられます」
「じゃあ二種類」
「予備もお願いいたします」
「三つ?」
「できれば」
「分かった」
箱が三つできました。
そこで、どろちゃんはまた倉庫へ行きました。
「まだあるの?」
フランソワさんが後ろからついてきます。
「あるよ」
今度は、透明に近い樹脂のシートでした。
塩化ビニルの余りです。
以前、別の用途で使ったものの端材でした。
「これで袋作る」
「箱がございますが」
「箱ごと入れるの」
「何のためでございますか」
「匂い」
フランソワさんが箱を見ました。
「閉じていても、でございますか」
「飛ぶと、地上より外の気圧が下がるでしょう」
「はい」
「箱の中とか、袋の中の空気は膨らもうとするの。魚の匂いがある空気も、外へ出たがる」
「なるほど」
「帰ってきたミツバチちゃんがお魚屋さんの匂いになったら困る」
「次は、お客様をお運びいたしますので」
「王様たち」
「はい」
「王様がお魚臭い飛行機に乗る」
「避けた方がよろしいかと存じます」
「私もそう思う」
袋は箱よりかなり大きくしました。
ぴんと張った状態で閉じません。
空気が少し膨らめる余裕を残します。
口を折り返して留められるようにします。
液体が出ても、機内へ流れにくくなります。
「これでいい」
「二重になさいますか」
「魚による」
「魚によるのでございますか」
「料理長さんに聞こう」
航空機のことはどろちゃん。
魚のことは料理長さん。
役割は分かれていました。
◇ ◇ ◇
海へ向かう朝。
冬です。
寒いです。
ミツバチちゃんの後ろには、作った保冷箱が三つあります。
まだ空です。
どろちゃんは機内の後ろへ行きました。
客室と後部ハッチの間。
機体の形に合わせて狭くなっていく三角形の空間があります。
「ここ」
「客席ではございませんね」
料理長さんが覗き込みました。
「うん。暖房も客室ほど効かない」
「寒うございます」
「冬だから、ちょうどいいね」
「氷は?」
料理長さんが聞きました。
どろちゃんは少し考えました。
外を見ました。
吐いた息が白くなります。
もう一度、後ろの空間を見ました。
「……いらないね」
「私も、そう思います」
「箱作る前に気づいてもよかった?」
「箱は必要でございます」
「そっちは必要」
温度を下げるための氷は積みません。
港で冷えた魚を箱へ入れます。
断熱材は温度変化を遅くします。
後ろの三角空間そのものも、冬の飛行中は十分に冷えます。
余計な氷を積めば重くなります。
溶ければ水も出ます。
「氷の分、魚積めるね」
「そこまで大量には買いません」
「そうだった」
会議は数日です。
漁船一隻分を買う必要はありません。
◇ ◇ ◇
どろちゃんが左席。
フランソワさんが右席。
料理長さんは客室です。
ほかに厨房から一人だけ来ました。
魚箱。
固定具。
支払い用の金。
必要なものだけ。
ミツバチちゃんは飛びました。
ライン川を北へたどります。
この前、タドポール君で大学の地図を確認した地域が下に見えます。
川が分かれます。
水が増えます。
土地が低くなります。
その先に、海があります。
どろちゃんには見慣れた海です。
料理長さんには違いました。
後ろから声がしました。
「……向こう岸がございません」
「海だからね」
どろちゃんは前を見たまま答えました。
「川をたいへん大きくしたようなものかと思っておりました」
「間違いではないけど、もっと大きいよ」
「これは、どこまで続くのでございますか」
「いっぱい」
「お嬢様」
「今、操縦中」
「承知いたしました」
説明が雑になりました。
◇ ◇ ◇
海辺の町では、料理長さんが急に速くなりました。
飛行機を降りたときまでは、
「足が少し変でございます」
と言っていたのに、魚が並んでいる場所へ行くと普通に歩いています。
「これは?」
「今日は使いません」
「こっちは?」
「よろしいです」
「同じ魚に見える」
「違います」
「どこが?」
「脂と身でございます」
「見えるの?」
「見ます」
料理長さんは魚の腹を見ました。
目を見ました。
鰓を見ました。
触れられるものは触りました。
漁師さんとも話します。
いつ揚がったのか。
どこで獲ったのか。
どれくらいあるのか。
「それを六尾」
「そんなに?」
「晩餐だけではございません」
「そうだった」
「こちらの小さいものも」
「焼く?」
「別の料理にいたします」
「貝も?」
「買います」
どろちゃんは、だんだん口を出さなくなりました。
分からないからです。
フランソワさんが小声で言いました。
「お嬢様」
「なに?」
「先ほどから、はい、としかおっしゃっておられません」
「だって料理長さんの方が分かる」
「よいことかと存じます」
「飛行機なら私の方が分かるよ」
「存じております」
魚は箱へ入りました。
内側を汚さないように包みます。
箱の蓋を閉めます。
さらに、その箱ごと大きな塩化ビニルの袋へ入れました。
漁師さんが不思議そうに見ています。
「箱を袋へ入れるのか」
「飛ぶから」
「船ではなく?」
「飛行機」
「先ほどの白いのか」
「うん」
「魚が飛ぶのか」
「私たちも飛ぶよ」
漁師さんは少し考えました。
「魚だけ飛ぶよりは分かる」
「そう?」
何が分かったのか、どろちゃんにはよく分かりませんでした。
◇ ◇ ◇
帰り。
魚箱は、客室の一番後ろ。
三角形の空間へ入れました。
動かないように固定します。
袋の口も確認します。
少し余裕があります。
「ぱんぱんにしないのでございますね」
フランソワさんが確認しました。
「うん。上がると中の空気が膨らむから」
「破れないように」
「それと、口から匂いが押し出されないように」
「帰りましたら、すぐに降ろします」
「ホシザキへ直行」
「料理長殿も、そのおつもりかと」
後ろを見ると、料理長さんは魚箱の固定をもう一度確認していました。
「たぶん私より気にしてる」
「お料理に使うものですので」
「飛行機は私が気にする」
「お魚は料理長殿が」
「フランソワさんは?」
「お嬢様を気にしております」
「いつものだった」
「はい」
◇ ◇ ◇
エルレンフェルトへ戻ると、魚はすぐに降ろされました。
袋の外側。
汚れなし。
液漏れなし。
強い匂いもなし。
保冷箱を厨房へ運びます。
料理長さんがホシザキの扉を開けました。
「こちらへ」
「神様の魚と一緒?」
「棚は分けます」
「自分で買った方、大事?」
「どちらも大事でございます」
「でも棚は分ける」
「献立が違いますので」
「分かった」
扉が閉まりました。
温度計を見ます。
問題ありません。
どろちゃんは満足しました。
「お魚屋さんの匂いしなかったね」
「はい」
「次のお客さんも大丈夫」
「そのことでございますが」
フランソワさんが一枚の紙を出しました。
「名簿が届いております」
「もう?」
「四つとも」
◇ ◇ ◇
名簿は、不思議なくらい揃っていました。
「十人」
「はい」
「こっちも十人」
「はい」
「これも」
「十人でございます」
「最後も?」
「十人です」
四つの代表団。
十人ずつ。
四十人。
ミツバチちゃんの客室は、前回より座席の間隔を少し広くしてあります。
今度の会議で乗せる客は十人。
操縦席には、どろちゃんとフランソワさん。
一便十二人です。
「みんな覚えてたんだ」
「前回、お乗りになっておられますので」
「十一人にしなかったね」
「十一人目を誰にするかではなく、十人にするまでに決めてこられたのでしょう」
「そっちで揉めたのかな」
「それは、分かりません」
名簿を見ると、君主。
次席。
書記。
側近。
社交へ出る女性。
国によっては医師。
国によっては財政や通商に詳しい者。
十という数字は同じでも、中身は少しずつ違います。
「医者さん、前より多くない?」
「そのように見えます」
「なんでだろう」
フランソワさんは、すぐには答えませんでした。
「前回お帰りになった方々が、その後もお元気であるという話が、広がっているようでございます」
「ホテルが暖かかったから?」
「そのように考えておられる方もございます」
「食べ物?」
「それも」
「飛行機?」
「それを疑っておられる方も」
どろちゃんは名簿を見ました。
「飛ぶと元気になる?」
「証明はされておりません」
「でも乗りたい?」
「少なくとも、乗らないより乗りたい方は増えておられるようです」
「十席、人気なんだ」
「はい」
「会議の席より?」
「お嬢様」
「冗談」
全部が冗談とも言い切れませんでした。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
どろちゃんは港へ行きました。
水玉船が入ってきます。
白い船体。
大きな一色の水玉。
いつもの船です。
いつもの航路です。
まだストラスブールとケールを結ぶ便も動いています。
停戦中です。
撃っていません。
だから船も走れます。
ただ。
「荷物、多いね」
降りてくる人の様子が、少し違いました。
大きな包み。
衣類。
箱。
子どもの手を引く母親。
杖をついた老人。
商売へ来たようには見えない人が混じっています。
一組の家族が、待合所へ入りました。
子どもは、すぐに温かいところへ寄ります。
サモワールがあります。
ピロシキもあります。
どろちゃんは少し離れて見ていました。
「ケールから?」
船頭さんに聞きました。
「ええ」
「みんな?」
「全部ではありません。ただ、増えております」
「避難?」
「本人たちは、しばらく親戚のところへ、と申しております」
まだ家を失ってはいません。
まだ町は焼けていません。
まだ砲弾は飛んでいません。
だから難民とは呼ばれません。
でも、荷物を持って町を離れています。
「役所の人も?」
「それは無理でしょうな」
「だよね」
町の行政官まで逃げれば、残った人を誰が動かすのか。
食料。
倉庫。
通行。
避難。
軍との連絡。
戦争が近いほど、役所の人は町を離れにくくなります。
「次の船も動く?」
「今のところは」
「その次も?」
「停戦が続く限りは」
船頭さんは、川上の方を見ました。
「終われば?」
「分かりません」
どろちゃんにも分かりませんでした。
◇ ◇ ◇
翌日から、ミツバチちゃんはまた忙しくなりました。
一便目。
十人。
二便目。
十人。
三便目。
十人。
四便目。
十人。
今回は、誰も大きな荷物を持ってきません。
数日の滞在です。
ホテルには寝具もあります。
食事もあります。
必要なものもあります。
前回来た人たちが、そのことを知っています。
だから旅行鞄は小さくなりました。
その代わり、人はきっちり十人です。
「数えた?」
どろちゃんが聞きます。
「十人でございます」
フランソワさんが答えます。
「荷物は?」
「許容範囲です」
「十一人目、隠れてない?」
「どこへ隠れるのでございますか」
「後ろ」
「魚箱ではございません」
「もう魚入ってないよ」
「そういう意味ではございません」
扉が閉まります。
飛びます。
降ります。
また飛びます。
途中で天気を見ます。
風が悪ければ待ちます。
君主が待っていても、風は待ってくれません。
全員を運び終えたころには、ホテルの廊下にも人の気配が戻っていました。
スィート。
ファースト。
ビジネス。
今回は会議に来た人たちのための宿です。
四十人は、部屋を分けて入りました。
一人一室とは限りません。
夫妻で使う部屋。
側近が近くに入る部屋。
次席と書記の配置。
国ごとに少しずつ違います。
ホテル側が、前もって割り振っていました。
◇ ◇ ◇
夕方。
厨房では、ホシザキが動いています。
料理長さんが選んだ魚も入っています。
宴会場には、次の食事の準備が始まっています。
会議室には、地図が置かれました。
ヨーロッパ。
ライン川。
低地地方。
イタリア。
スペイン。
海の向こうの大きな地図まであります。
「こんなに使う?」
どろちゃんが言いました。
「使うかもしれないそうでございます」
「誰が言ったの?」
「お父様です」
「じゃあ使うね」
窓の外は、もう暗くなり始めています。
川の方では、最後の水玉船が動いています。
ケールから来た人を乗せています。
会議場には、戦争を止められる人たちが四十人。
川辺には、戦争が始まる前に家を離れ始めた人たち。
まだ、砲声はしません。
停戦は続いています。
明日も続くかどうかを決める人たちは。
今夜は、同じホテルで夕食を食べます。
◇ ◇ ◇
第44章の小さな説明
【ホシザキの業務用冷蔵庫】
次の会議用として、神様から大型の業務用冷蔵庫が届きます。
事前に厨房の指定された場所を空けるよう指示があり、翌朝、その空間へ直接出現します。
冷蔵庫の中にはすでに食材が入っていますが、電源接続と運転確認はエルレンフェルト側が行います。
神様が食材を用意しても、料理そのものはホテルの料理人たちが行います。
【梱包材で作る魚用保冷箱】
どろちゃんは、神様から送られてきた機械や物資の梱包材を捨てずに保管しています。
ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ウレタンフォームなどを組み合わせ、木箱の内側へ断熱層を作って魚用の保冷箱にします。
冬のため氷を大量に積む必要はなく、港で冷えた魚の温度を急に上げないための断熱箱として使います。
【魚の匂いと飛行】
魚箱は、さらに余っていた塩化ビニルシートで作った大きな袋へ入れます。
飛行すると地上より外気圧が低くなり、容器や袋の内部の気体は膨張する方向になります。
魚の臭気を含む空気や液体が機内へ漏れにくくするため、箱ごと袋へ入れ、袋には膨らむ余裕を残して封じます。
帰着後はすぐに降ろし、厨房の冷蔵庫へ移します。
【今回の代表団】
前回の会議でミツバチちゃんの使い方を各国が把握したため、今回は四つの代表団が最初から十人ずつに人数を絞っています。
客室十人、操縦席にどろちゃんとフランソワさんで、一便十二人です。
滞在は数日でホテル側の設備も整っているため、荷物も必要最小限です。
前回飛行機へ乗った人々が帰国後も元気だったことから、「飛行そのものが健康に関係しているのではないか」という未確認の話も広がり、十席の価値が少し上がっています。
【停戦中のケールと水玉船】
この物語では、一七〇三年二月、本来なら戦闘が迫っているケール周辺で、前回の会議による停戦が続いています。
水玉船のストラスブール=ケール方面もぎりぎり定期運航を続けています。
ただし、戦闘再開を恐れて先に家族や親類のいる土地へ移る住民が出始めています。
行政官など、町を維持するために残らなければならない人々もおり、停戦を一日延ばすこと自体が、現地では具体的な意味を持つ状況になっています。




