↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドロティアとフランソワは空を飛びます どろちゃんの飛行日誌 飛行機から始まった貴族令嬢の社会改変  作者: アントノフ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
209/210

後日談 第199章 貴族令嬢は、ネイティブアメリカンのウッティちゃんに14年ぶりに会いに行きます

第199章 貴族令嬢は、ネイティブアメリカンのウッティちゃんに14年ぶりに会いに行きます


 エルレンフェルト・ポテト会議が終わって、ちょうど14日目。

 1718年10月18日の朝です。


「アメリカに行きたいかー!」


 会議の席でどろちゃんがそう呼びかけたときは、何人も手を上げました。

 クイズの問題も、勝ち抜き戦もありません。行きたい人に手を上げてもらっただけです。

 ただし、今回の旅行に参加できるのは、国連で開かれたポテト会議の参加者です。

 国王や女王、その随行者。研究者、農業の代表者、種苗会社の人たち。それに、会議に参加していたエルレンフェルトの従業員もいます。

 この中には、旅行のためにお金を貯めていた人もいました。


 アメリカというのは、この世界では大陸を指す地理的な名前です。アメリカ合衆国という国は成立していません。英仏が共同で管理する都市や地域があり、先住民の村々ではそれぞれの暮らしが続いています。

 今回の行き先は、その北米東海岸です。

 ボストンの町は、どろちゃんが1704年に訪れてから14年のあいだに、鉄道や工場、通信施設が増えました。空港も拡張されています。


     ◇ ◇ ◇


 前の晩、旅行に加わる王族たちは、エルレンフェルトのホテル棟に泊まりました。

 ルイ14世、サヴォさんことヴィットーリオ・アメデーオ2世とその家族、それからアン女王です。

 旅行全体の段取りを引き受けたのは、いつもの人、トルシー侯です。

 ルイ14世とサヴォさんが先に参加を決め、その2人のためにムリヤちゃんの2階後部へVIP席を用意しました。アン女王は、その話を聞いてから参加を申し込んできました。

 フランスに残るルイ15世は今回の旅行に加わりません。


 朝食を終えた一行がホテル棟を出ると、すぐ近くに水玉船前駅があります。

「飛行場まで、ここからですか」

 随行の貴族の1人が聞きました。

「はい。ピーチライナーで3駅です」

 どろちゃんが答えます。

「3駅ですか」

「旧滑走路地下、新滑走路西、それから新滑走路地下駅。そこで降ります」

 サヴォさんが笑いました。

「飛行場へ行くところから、町の交通を利用するのですね」

「新滑走路までは距離がありますから。お荷物を持って歩くより、ずっと楽です」

「それはそうですね」


 ピーチライナーは、天国で見つかった小牧の新交通システムを技師さんたちが修理し、エルレンフェルトの町に合わせて組み直したものです。

 ゴムタイヤで走り、軌道に沿って進みます。駅の床と車両の床の高さも揃えられているので、大きな荷物を持った人も乗り降りしやすくなっています。

 普段は買い物や通勤に使う電車です。

 今日はその車内に、旅行鞄を持った王様や女王様まで乗っています。

「貸切にはしないのですか」

「沿線の方々も利用されますから、普段どおりの運行にしています」

 どろちゃんは窓の外を見ました。

 旧滑走路地下駅を過ぎると、町の建物が少しずつ離れていきます。新滑走路西駅の周りには、ケールから移された住宅街があります。

「ここに住んでいる人たちは、毎日これに?」

「はい。通学にも、お買い物にも利用されています」

 アン女王は車窓の住宅地を見ながら頷きました。

「会議の来客がいない日も、市民の交通として使われているのですね」

「はい、陛下。むしろ普段の通勤や通学の方が大切な役目です」


 3駅目の新滑走路地下駅で降ります。

 地上へ出ると、3,800mの滑走路の向こうまで空が広がっていました。

 ムリヤちゃんはすでに出発準備を進めています。


     ◇ ◇ ◇


 今回、座席を増やしたのは大勢の旅行者を乗せるためです。

 1階の貨物室には、旅客用の座席を載せたパレットが並んでいます。取り付けと固定の確認は前日までに済ませてあります。貨物室の側面には窓が数個ありますが、窓際に客席を並べた配置ではありません。座席の前後間隔は101.6cm(40インチ)です。

 もっと広くできないのか、と聞いた人がいました。

「広くすることはできます。ただ、前の席のテーブルまで手が届きにくくなります」

 どろちゃんは座席の背を指しました。

「食事のとき、テーブルが遠いと使いにくいでしょう」

「なるほど。広ければよいというものでもないのですね」

「はい。1mを少し超えるくらいが、前のテーブルを使いやすい上限です」


 2階後部には王族用のVIP区画があります。

 最初は2人の国王のために整えた場所でしたが、その後アン女王も加わり、サヴォさんの家族も一緒に座ることになりました。

 長い飛行なので、ギャレーも増設しました。食事を用意する場所が足りなくて、乗客を待たせるわけにはいきません。


 貨物室には旅行鞄以外の荷物もあります。

 無線機、アンテナを立てるための部材、支線、発電機、工具と電源設備。木橋の補強に使う鋼材。それから、穴がたくさん開いている、いつものハイラックスです。

 食料と水も、村に負担をかけない分を積んであります。

「橋まで持っていくのですか」

 荷物を見た農業関係者が聞きました。

「持っていくのは、補強用の鋼材です。橋は現地の皆さんに造っていただきます」

「では、鋼橋ではないのですね」

「木橋です。現地の木材を使い、接合部などに必要な鋼材をこちらから運びます」

「川を渡るためですか」

「はい。川を迂回する距離が長い場所が、いくつもありますから」

 現地の人たちの仕事を取り上げるつもりはありません。道や橋をどう使うかも、現地の人たちが決めます。

 無線設備も同じです。ボストンや遠方と連絡を取る手段を増やすために持っていくものです。


 オイゲンさん本人は今回、乗っていません。

 弟子の2人がFE、つまり航空機関士を務め、地上では警備も担当します。

「機関の担当は、大丈夫ですか」

 どろちゃんが聞きました。

「はい。機関の担当は2人で確認いたします」

「到着後も、よろしくお願いします」

「承知しました」

 フランソワさんがチェック表を閉じました。

「出発前の確認も、すべて終わっております」

「では、出発しましょう」


 エルレンフェルトの新滑走路は、どちらの方向から進入する場合にも計器で誘導できる設備を備えています。

 飛行場の係員は、その日の風と運用状況に合わせて使用する向きを確認しました。

 乗客は全員着席し、シートベルトを締めました。

 どろちゃんは左席、フランソワさんは右席です。


『皆さま、本日はアエロフロート・エルレンフェルト航空、EB1018便、ボストン行きをご利用いただき、ありがとうございます。機長のドロテーヤ・フォン・エルレンフェルトです。これよりエルレンフェルトを出発し、大西洋を越えてボストンへ向かいます。途中の着陸はありません。どうぞ楽にお過ごしください』


 客室ではマルガレーテさんがマイクを取りました。

『皆さま、アエロフロート・エルレンフェルト航空、EB1018便にご搭乗いただき、ありがとうございます。チーフアテンダントのマルガレーテ・シュルツです。離陸に備え、シートベルトをお締めください。前のテーブルは収納し、お手回り品は通路へ出さないようお願いいたします。非常口と安全設備につきましては、客室担当者がご案内いたします』


 放送はナーロッパ語だけです。

 今回の乗客は、国連のポテト会議に参加した人たちです。言葉を何種類にも替えて、同じ案内を繰り返す必要がありません。


 6発のエンジンが順に始動し、計器の表示が安定します。

「機関、正常です」

 FEの1人が伝えました。

「ありがとうございます。地上走行を始めます」

 ムリヤちゃんはゆっくり動き出しました。

 滑走路へ入り、向きを合わせます。

「離陸します」

「承知しました」


 推力が上がります。

 6発の音が重なり、広い滑走路が窓の下を流れました。

 重い機体が速度を上げ、機首が上がります。

 主脚が地面を離れました。

 エルレンフェルトの町とライン川が、少しずつ小さくなります。

「上昇、続けます」

 フランソワさんが計器を見ました。

「はい。順調です」

 ムリヤちゃんは巡航高度へ向けて上昇していきました。


     ◇ ◇ ◇


 水平飛行に移って、最初のサービスは飲み物です。

 皆さん、ホテルで朝食を食べてきています。

「お飲み物はいかがでしょうか」

 2階のVIP区画では、マルガレーテさんが直接注文を聞いています。

「今日はあなたがこちらを担当するのですね」

 アン女王が言いました。

「はい。長い飛行ですので、お飲み物やお食事は私がお持ちいたします」

 サヴォさんが客席を見渡しました。

「今日は、いつにも増してにぎやかな機内ですね」

「はい。1階の客席を増設いたしましたので」

「この人数のお食事を、4人で担当されるのですね」

「はい。ギャレーも増設してあります」

「では、楽しみにしています」


 1階では、ローラさん、細いアマリエさん、ぽっちゃりしたアガサさんが飲み物を配っています。

 ローラさんは、マルガレーテさんの妹です。

 4人とも、長いことムリヤちゃんやホテルで給仕をしてきた人たちです。


 1階客席の一角では、ライデン大学の研究者と種苗会社の人が、近くの席で話していました。

「向こうの畑も、見られるのでしょうか」

「列車の窓からなら、かなり見られそうですね」

「ジャガイモだけではなく、保存や運搬の様子も知りたいところです」

「私は駅の荷扱いを見たいです」

 旅行に来たのに、話題はもう仕事です。

 でも、誰も困っていません。ポテト会議で知り合った人同士なのですから、こんな話にもなります。


     ◇ ◇ ◇


 飲み物のサービスから約3時間。

 昼食が始まりました。

 前の席のテーブルを下ろして、料理を受け取ります。

「これなら、お皿を置いても余裕がありますね」

「はい。これ以上離すと、前のテーブルが遠くなってしまいます」

 どろちゃんが休憩のあいだに通りかかると、座席の話をしていた農業代表者が笑いました。

「本当に、この座席間隔にした理由は食事なのですね」

「理由はほかにもありますが、毎回使うテーブルですから。食事のたびに不便なのは困ります」

「確かに」


 2階でも、マルガレーテさんが王族の食事を整えています。

 トルシー侯は自分の席で、ボストンの到着後の予定を確認していました。

 ホテル、鉄道、訪問先。現地とは無線で連絡を取って、手配が済んでいます。

「侯爵、ずいぶん立派な旅程になりましたね」

 サヴォさんが書類をのぞきました。

「皆様にご満足いただけるよう、用意しております」

「今回は政務の視察ではありませんから、ゆっくり見て回れそうですね」

「そのように承っております」

 ルイ14世が笑いました。

「余は鉄道の方も見ておきたい」

「もちろんです。ご案内いたします」


 食器を片づけるころ、1階のギャレーの近くでは、少し違う話になっていました。

 エルレンフェルトで働いている従業員の何人かが、自分たちの宿泊先を相談しています。

「皆さんは、トルシー侯爵のツアーにも参加されるのですか」

 ローラさんが尋ねました。

「私は遠慮します。旅程を見せてもらいましたが、あのホテルでは予算が足りません」

「そんなに高級なのですか」

「国王陛下方のお泊まりになるホテルですから。食事も鉄道も、きっと相応のお値段でしょう」

「なるほど。私たちが普段接客するような方々の旅ですものね」

「私は別の宿を取りました。せっかく貯めた旅費ですから、何日もかけて北米を見て回りたいんです」

 隣の従業員も頷きました。

「旅費を補助していただけるのはありがたいですが、侯爵様のツアーに参加したら、すぐに使い切ってしまいそうです」

 自費で来た従業員には、どろちゃんから1人あたり、現代の日本のお金で約20万円相当の旅費補助が出ています。

 トルシー侯の高級ツアーへ参加するかどうかは、本人が決められます。

「ところで、ローラさんたちはどうなさるのですか」

「私たちは4人とも、侯爵様のツアーへ参加することになっています」

「えっ、あちらに?」

「はい。お嬢様から、参加するようご指示がありました」

「それは、ご招待ということですか」

 アマリエさんが微笑みました。

「研修です。高級ホテルの接客、お食事、鉄道のサービスを、お客の立場で見てきなさいと」

 アガサさんが付け加えました。

「ですから、私たちは参加が義務なんです」

「義務ですか。ずいぶん高価な研修になりそうですね」

「そうですね」

 マルガレーテさんが食器を戻しながら答えました。

「それに、特別ボーナスもいただきます。1人あたり、皆さんへの旅費補助の10倍ほどの額です」

 従業員たちの手が止まりました。

「……10倍ですか」

「はい」

 現代の日本のお金にすれば、給仕4人への特別ボーナスは1人約200万円相当になります。

「それだけいただいて、王侯貴族の旅行にも参加するとは。皆さんのお仕事も大変ですね」

「ボストンまでは機内の仕事ですし、到着後は見聞を広めてくるよう命じられていますから」

「それでも、少し羨ましいです」

「ええ。私たちも、しっかり楽しんでまいります」

 マルガレーテさんはそう言って笑いました。

「私は普通の食堂も回ってみたいと思っています。帰ったら、お互いに話を聞かせましょう」

「はい。いろいろなお話ができそうですね」


     ◇ ◇ ◇


 昼食から、さらに約3時間。

 今度は小さなケーキと飲み物が配られました。

「今度はケーキですね。長い飛行にも、いろいろと楽しみがあるものですね」

 サヴォさんが微笑みました。

「昼食から時間がたちましたので、少しですがお持ちしました」

 マルガレーテさんが皿を置きました。

「それなら、いただきましょう」

 1階でも、それぞれ好きな飲み物と一緒にケーキを楽しみます。

 1階客席の側面にある数個の窓からは、遠く海の色が見えていました。


 しばらくすると、操縦席へボストンの情報が入りました。

 どろちゃんとフランソワさんは、進入の手順と使用する滑走路を確認します。

 1704年に来たころより、空港は大きくなっています。今回はムリヤちゃんを受け入れられるよう、空港側の施設も拡張されていました。

「到着の案内をお願いします」

「承知しました」


『皆さま、機長です。EB1018便は、まもなくボストンへの降下を始めます。着陸まで、お席でお待ちください』


 続いて、マルガレーテさんの声が流れます。

『アエロフロート・エルレンフェルト航空、EB1018便は、まもなくボストン空港へ到着いたします。お席へお戻りになり、シートベルトをお締めください。テーブルを収納し、お手回り品をご確認ください』


 ケーキの皿が下げられ、ギャレーが片づきます。

 窓の外に海岸線が現れました。

 川と港、その先に町並みが広がっています。

「前に来たときとは、ずいぶん変わりましたね」

 どろちゃんが言いました。

「14年になりますね」

「ウッティちゃんは、私のことを覚えていてくれるでしょうか」

「ウッティさんですか」

「はい」


 1704年、どろちゃんはメープルシロップを買いに、ネイティブアメリカンの村を訪ねました。

 そこで、川で脚を深く切り、傷が化膿して高熱を出していた女の子を見つけました。

 ワンニートゥパナタムウェ・ウッティノーコン。

 長い名前を聞いて、ウッティちゃんと呼ぶ許しをもらいました。

 傷を洗って薬を使い、翌日も様子を見に行きました。

 別れるときには、起きて返事ができるようになっていました。

 それから14年です。


「まずはボストンへ、ですね」

「はい。まずは皆さんをボストンまでお送りします」

 フランソワさんの言葉に、どろちゃんは前を向き直りました。


 ムリヤちゃんは高度を下げ、滑走路へ向かいます。

 主脚が接地し、少し遅れて前脚が降りました。

 逆推力の音が続き、速度が落ちます。

「無事に着陸できましたね」

「お疲れさまでした」

 拡張されたボストン空港のエプロンへ、大きな機体がゆっくり入っていきました。


     ◇ ◇ ◇


 機体が止まり、降機の案内が始まりました。

 ボストンで降りる人たちは、トルシー侯とマルガレーテさんの誘導で空港ターミナルビルへ向かいます。

「こちらへお願いいたします。お荷物の受け取りは、係員がご案内します」

 マルガレーテさんが声をかけます。

 王族たちも、研究者たちも、種苗会社の人たちも順に降りていきました。

 自費参加の従業員は、自分たちで決めた宿泊先へ向かいます。

 トルシー侯のツアーに参加する人たちには、今晩のホテルの手配も済んでいます。

 給仕の4人も、ここからはそのツアーに参加する側です。


「では、お嬢様。行ってまいります」

 マルガレーテさんが最後に挨拶しました。

「接客や施設の運営を、よく見てきてください。それから、旅行も楽しんできてくださいね」

「承知しました」

「戻ったら、ぜひお話を聞かせてください」

「はい。4人でいろいろ見てまいります」

 ローラさん、アマリエさん、アガサさんも挨拶し、ターミナルビルの方へ歩いていきました。


 残ったのは、どろちゃんとフランソワさん、それにFE兼警備の弟子2人だけです。

「静かになりましたね」

「お腹は空きましたか」

「ええ、少し」

「それなら、ギャレーで好きなものを選びましょう」


 4人はギャレーへ行き、好きなものをそれぞれ選びました。

 今日は給仕さんを呼ぶ必要も、食事の順番を決める必要もありません。

 機内の食べ物は食中毒の心配がないので、安心して好きなものを取れます。

「何にします?」

「私はこれにします」

「それなら、こちらもいただきます」

 FEの2人も、仕事を終えた顔で食器を持ってきました。

 大勢の乗客のためのギャレーが、今は4人だけの夕食を用意しています。


 食事を終えると、順にシャワーを使いました。

 ムリヤちゃんの後部、ルスラーンなら後部貨物ハッチに当たる場所には、4人分の個室と共用ダイニングを備えた居住区があります。

 後部圧力隔壁の手前です。長い貨物を積むときには、この居住区を取り外して、貨物室の奥まで長さを使えるようにしてあります。

 今回はそのまま、空の上の家です。


「今夜は、後部のお部屋で休みましょう」

「はい。お部屋の準備もできております」

 どろちゃんとフランソワさんは、それぞれの個室へ入りました。

 FE兼警備の2人は、王族が降りて空いた2階のVIPシートを寝床にします。

「王様の席で寝るのも、もう慣れましたね」

「明日も仕事ですから。よく眠りましょう」


 客室の明かりが落ちました。

 ボストンのホテルでは、旅行者たちがこれからの予定を話しているころでしょう。

 ムリヤちゃんの中は、いつもの4人だけです。


「ウッティちゃん、元気かな」

 後部の個室で、どろちゃんが小さく言いました。

 14年前、熱が下がって、やっと返事をしてくれた女の子。

 明日は、その子が暮らしていた村へ行きます。

 どろちゃんは灯りを消しました。


【小さな説明】


【アメリカと今回の参加者】

 この物語の1718年には、アメリカ合衆国は成立していません。「アメリカ」は地理的な呼び名です。北米の東海岸にはイングランドとフランスが共同管理する地域があり、先住民の村では従来の生活と自治が続いています。都市の発展と村の自治は別の問題として扱います。

 今回の乗客は、エルレンフェルトで開催した国連のポテト会議に参加した人に限られます。王族とその随行者に加え、研究者、農業代表者、種苗会社関係者、会議に参加したエルレンフェルトの従業員も含まれます。機内放送は共通のナーロッパ語で行います。


【ピーチライナーと空港】

 エルレンフェルトのピーチライナーは、天国で回収された日本のVONA方式の新交通システムを再整備したものです。ホテル棟から歩いてすぐの水玉船前駅で乗り、旧滑走路地下駅、新滑走路西駅を経て、新滑走路地下駅で下車します。途中2駅、3駅目で下車です。

 新滑走路は3,800mあり、両方向の進入に計器誘導設備を備えています。ボストン空港も大型のムリヤちゃんを受け入れるため拡張されています。具体的なボストン側の滑走路長や誘導設備の規格は、本章では確定していません。


【ムリヤちゃんの客席と居住区】

 ムリヤちゃんはAn-225です。1階貨物室には取り外しできる旅客座席パレットを設置し、前後間隔を101.6cm(40インチ)に揃えました。貨物室側壁には数個の窓がありますが、窓際席という配置ではありません。前席背面のテーブルを使える距離を考えた上限です。2階後部は、ルイ14世とサヴォさんが参加を決めた後に設けたVIP区画で、さらにアン女王が参加しました。

 機体最後部の居住区は、An-124「ルスラーン」なら後部貨物ハッチがある部分に相当します。ムリヤちゃんでは後部圧力隔壁の手前に4つの個室と共用ダイニングなどを設けてあり、長尺貨物を積む際は取り外せます。機体そのものにAn-124と同じ後部貨物ハッチがあるという設定ではありません。


【給仕と旅費】

 マルガレーテ・シュルツはチーフアテンダントで、VIP区画を担当します。1階は妹のローラ・シュルツ、細いアマリエ、ぽっちゃりしたアガサの3人が担当します。4人はボストンで降機し、トルシー侯のツアーへ参加する義務があります。高級ホテルや交通、食事、接客を体験して学ぶためで、1人あたり約200万円相当の特別ボーナスも支給されます。

 自費参加のエルレンフェルトの従業員には、1人あたり約20万円相当の旅費補助が出ます。トルシー侯の高級ツアーへ参加するかどうかは自由です。両者の条件は異なります。


【ウッティちゃんと次の訪問】

 1704年、どろちゃんはメープルシロップを買いに先住民の村を訪ね、脚の傷が化膿して高熱を出していたワンニートゥパナタムウェ・ウッティノーコンを治療しました。「ウッティちゃん」は家族と本人から許しを得た呼び名です。今回の訪問先は、そのときの村です。

 ボストンで観光客を降ろしたあと、どろちゃん、フ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。